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冬の水汲み

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第一章

               冬の水汲み
 シベリアの話である、世界でよく知られている通りこの広大な地域は実に寒い。しかも冬は特にだ。
 だからだ、冬の水汲みは誰もが嫌がる仕事だ。それでその家の者達が誰もが行きたがらなかったのだ。
「誰が行くものか」
「冬の水汲みだけは御免だよ」
「毎日川を覆っている厚い氷に穴を開けないといけないのに」
「しかもその氷の硬いこと」
 ただ厚いだけではないのだ。
「岩よりも硬いから」
「水のところまで穴を開けるだけでも大変だよ」
「しかも冬だから特に寒い」
「寒くて仕方ないのに長い時間かけて穴を開けないといけないから」
「それから冷たい川の中に手を入れて水を汲むんだ」
「それだけでどれだけ大変か」
「あんなの誰もしたくないよ」
「全くだよ」
 家族は全員こう言ってだ、しようとしなかった。だが誰かがやらねばならない仕事なので自然とでだった。
 仕事は家の奴隷であるアヌィスがすることになるのが常だった、だから家族でまだ子供のアヌィスに言うのだった。
「おい、いいな」
「今日も水汲みに行って来るんだ」
「うちの水瓶全部に一杯になるまで汲んでこい」
「今日もそうするんだ」
「はい・・・・・・」
 アヌィスは小さな声で頷いた、見れば粗末でボロボロになっている服を着ていて顔も髪の毛も汚れている。しかもいるのは犬小屋の傍だった。犬はその彼女に気遣う様に寄り添っている。
 アヌィスはその犬を連れてそうして水汲みに出た、そうして家の者達はアヌィスが家を出てからこう話した。
「やっぱり家に奴隷がいると違うな」
「嫌な仕事は何でも押し付けられるわ」
「食べるものも粗末なものでいいし」
「犬と一緒に家の番もしてくれる」
「こんないいものはないね」
「奴隷がいるとどれだけいいか」
 こう口々に言うのだった、アヌィスを水汲みに行かせてから。そうして火に当たりながらその火で焼いたり煮た料理を楽しむのだった。
 アヌィスは一人寒い吹雪が吹き荒れる外を水汲みに使う桶を持って川に向かった。水を汲むその場所に。
 犬が彼女に寄り添っているがそれでもだった、彼女は一人であり。
 一人寂しく水汲みをした、それを何度も繰り返してだった。
 ようやく最後の水汲みになった時は夜になっていた、夜空には黄色く輝く満月があった。そしてその満月がだ。
 犬に寄り添ってもらいながら水を汲むアヌィスにだ、こう言ってきた。
「娘よ、何故いつも一人水汲みをしているのだ」
「この声は」
「私だ」
 自分の声に周りを見回したアヌィスにさらに告げた。
「月だ」
「お月様ですか」
「そうだ、娘よ先程も尋ねたが」
 月は自分の方に顔を上げた娘に問うた。
「何故いつも一人で水汲みをしているのだ」
「それは私が奴隷だからです」
 アヌィスは月にこれ以上はないまでに悲しい顔で答えた、夜の寒さに震えながら。
「ある家の奴隷に買われまして」
「それからか」
「はい、旦那様とご家族の方々はいつもお家の中で火に当たられ」
「その火の薪もだな」
「私が集めています」
 このことも話すのだった。
「そしてこうしてです」
「水汲みもしているのか」
「そうです、旦那様とご家族の方々はその火を使った食事を召し上がられ」
「そなたは何を口にしている」
「残った火を通していないものをそこにいる犬と共に」
 その犬を見つつ月に答えた。 
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