前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Hey baby. How long will you stop crying. You will be smile soon.
大量のキラーアントに囲まれた中で、リリは双剣を抱いていた。
今のリリに唯一のこされた物。
“灰色にそまった"双剣。
金と朱の鮮やかさは消え、刃は間引かれたように死んでいた。
中央の宝石でさえも石色になった。石のなまくら。
目の前では、キラーアントがカチカチとはを鳴らしている。
「悔しいなぁ…」
リリは冒険者が嫌いだった。
だが、それよりも自分自身の事が嫌いだった。
「神様…」
リリは誰かに頼られたかった。
必要とされたかった。
使い潰されるのではなく、真っ当に役に立ちたかった。
「どうして…」
自分以外の誰かになりたかった。
発現した魔法も、そんな願いの現れのような物だった。
「どうして…リリをこんなリリにしたんですか…」
恨み言の相手は、ソーマなのか運命の神なのか、それとも世界を作った誰かなのか。
ギシャァ! とキラーアントが威嚇する。
「いえ…もう…関係ないですね…」
キラーアントの包囲が徐々に小さくなる。
「さみしいなぁ……………ああ…そうなんだ…リリは…寂しいんだ…」
誰かと居たかった。
誰かの側に居たかった。
「でも…もう…」
やっと還れる。やっと終われる。
「ああ……ベル様…」
最後に口から出たのは、あの兎のような男の子の名前だった。
キシャァァァァァアアアアァァァッッ!!!
ついにキラーアントが、リリに飛びかかる。
無意識に強く握り締めた双剣が、仄かな熱を放つ。
刹那、リリを灼熱のゆりかごが包み込んだ。
飛びかかったキラーアントは焔に触れると、灰と化した。
カツン…と魔石が落ちる。
「……ベル………さま………」
握り締めた双剣が守ってくれた。
あの冒険者が守ってくれた。
どこか抜けている冒険者が。
今まで見た中で最も速いあの人が。
自分が騙したあの人が。
あの純粋すぎる人が。
「……ベル様……ベル様……リリは…リリは…!」
リリが双剣を見ると、黄金と深紅の輝きを取り戻し、宝玉は爛々と煌めいている。
ヴゥン…と聞きなれない音がリリの鼓膜をたたいた。
音がしたのは、キラーアントの後方。
リリの正面。
揺らめく焔を挟んだ向こうがわ。
リリが目をこらす。
影があった。
縦に伸びる影。
まるで地面から浮き出たような。
始めは一本の線だったそれが一瞬で広がった。
そこから、人影が出てくる。
「アーイズビルグ」
人影が地面に棒状の何かを打ち付ける。
一瞬の内に、辺り一帯が氷に閉ざされた。
唯一氷が無いのは、リリを覆う焔の中だけ。
フッと焔がかき消えた。
「よかった。無事みたいだねリリ」
氷に閉ざされたキラーアント達の上を歩く一人の冒険者。
右手に槍を、左手に大鎌を持っている。
その二つが、一瞬で霧散した。
槍はキラキラと光るダイアモンドダストに、鎌は溶けるように消えた。
そして男の子がリリの目の前でしゃがみこむ。
「立てる?」
と手を差し出した。
「どうやって…ここまで……」
「見たでしょ? さっき僕が空間に穴を開けて出てきたの」
「モンスターは…」
「ぜーんぶ薙ぎ払ったよ」
見れば、ベルの体の至るところに傷があった。
左手に至っては、ワンピースを割いて巻いた箇所から血が垂れている。
「いやぁ、いくら空間転移できても予備動作が必要でさぁ。モンスター倒してからじゃないとうごけなかったんだよねー」
何でもないように言うが、その体は満身創痍だ。
「どうして…リリを助けたんですか…」
「え?」
「まさかご自分が騙されていたと気づかなかったんですか!? リリがおどかそうとナイフを持っていったなんて思ってるんですか!?」
キョトンとするベルにリリがまくし立てる。
「ベル様ってなんなんですか!? 馬鹿なんですか? 救い用の無いアホなんですか!?」
「いやアホって…そりゃないでしょ…」
「ベル様は気づいてないでしょう!? リリは換金の度にお金を誤魔化していました! ベル様とリリの分け前は六四です! アイテムのお使いの時も倍額を吹っ掛けました! レアドロップをパチッたこともあります!」
「へー」
「なんでそんなリアクションなんですか!? リリは悪い奴なんですよ!? 盗人です!嘘ばかりつく最低の奴ですよ!?」
「ぅ、うん…?」
「それでも…それでもベル様はリリをたすけるんですか!?」
「勿論だよ」
ベルがきっぱりと言った。
意志をやどした瞳で、リリを見つめる。
「なんでですか!?」
「えーと…そこは、ほら…女の子だから?」
カァッとリリの顔が熱くなる。
「なんですかそれ! ベル様のバカぁっ! 女だったらだれでもたすけるんですか!? しんじられませんっ! 最低です!女みたいな顔して女タラシですか!? ベル様のスケコマシ!スケベ! 女の敵っ!」
「ぅ……さすがに傷つく……」
ベルが、差し出した手でリリの頭を撫でる。
「リリの悲しい顔を、見たくないからだよ」
「リリは…そんな顔をしてましたか?」
「うん。いつも何か悩んでた。笑顔にも影があった。
だけど、僕はリリの心からの笑顔を見たい」
ふわりと、リリを抱き寄せた。
「なにか悩みがあるなら言ってよ。僕がどうにかできるかはわかんないけど、出来るだけの事はするから」
リリは堰をきったように泣き出した。
暫く泣きじゃくり、最後には糸が切れたように眠りについた。
「これで満足か? ベル」
唐突に、後ろから声をかけられた。
「……………」
ベルがギギギギ…と後ろを向く。
そこにはニヤニヤと笑みを浮かべるリヴェリアといつも通り無表情のアイズ。
「い、いつかりゃ見てまひた?」
「うん? キラーアントに襲われていた冒険者を助けようとしたらお前が出てきたのでな。
少し隠れて見ていた」
「最初からじゃないですか!?」
「それで? 格好つけて女を守った気分はどうだ? ん?」
「穴があったら入りたい……!」
「ここは穴のなかだよ?」
アイズが的外れな事を言う。
「話は後で聞くとしてだ」
リヴェリアが氷を叩く。
「どうする気だ?」
「えーと…少しリリを見てて貰っていいですか」
「構わん」
ベルがリリを抱き上げる。
リヴェリアはアイズに杖を渡すと、パルゥムの少女を受け取った。
ベルは数歩下がると、大斧を召喚した。
「いきまーす」
ベルが大斧を振り上げ、氷を叩き割った。
氷は中のキラーアント諸とも砕け、水と灰と魔石だけが残った。
「さっさと回収して行きましょうか」
リリが目を覚ますと、知らない天井が見えた。
「やぁ。起きたかい。リリルカ・アーデ」
リリが声の方へ顔を動かす。
「………………………………ブレイバー」
後書き
しまらなさを追求してみたい。
ページ上へ戻る