許されない罪、救われる心
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183部分:エピローグその四
エピローグその四
「あの時はね」
「そうよね。あの時は」
「椎葉さんも来てくれたから」
「あの時は信じられなかったわ」
如月はまた俯いていた。そのうえでの言葉だった。
「まさか。あの娘までなんて」
「そうね。私もあの時はね」
「信じられなかったのね」
「ええ」
その通りだというのである。
「とても」
「そうよね。けれどあれで彼が怯んで」
「ええ」
「すぐにそのお家の事情が重なって」
それもだというのだ。そうした意味で如月達は非常に幸運だったのである。彼女達はその幸運により助けられた一面もあるのだ。
「それでだったから」
「本当に運がよかったのね」
「そうなるわね」
「そうね。ところでね」
ここで、だった。如月は話を変えてきた。
弥生の顔を見てだ。彼女に問うのだった。
「その。椎葉さんは」
「彼女ね」
「元気にしてるの?」
弥生にこのことを問うのだった。
「それで。どうなの?」
「ええ、元気よ」
そうだと。弥生はすぐに答えた。
「楽しくやってるから」
「そう。だったらね」
「安心して。お医者さんとして頑張ってるから」
「よかった」
「お兄さんと一緒にね」
「そうなのね」
彼女のことをあらためて知ってだ。如月はほっとした顔になった。そのうえで自分の前のコーヒーを見詰めながらだ。言うのだった。
「それなら」
「如月達のしたことはね」
弥生はその如月を見ながら彼女に話す。
「絶対に許されないことだったわ」
「ええ」
如月もその言葉にこくりと頷く。
「そうよね。いじめは」
「けれどね」
「救われるものなのね」
「そう。許されなくても」
それでもだと。弥生は話すのだった。
「救われるものだから」
「ええ。だから私も」
「お仕事はそれにしたのよね」
「私、忘れられない」
忘れないのではなかった。忘れられないとだ。如月は確かに言った。
「何があっても。だから」
「そうね。だからね」
「いじめられている子もいじめている子も」
「お話を聞いたりしてね」
「それで助けたい」
こう言うのだった。
「いじめられることは凄く辛くて」
「それもわかっていてね」
「いじめるってことがどんなことか」
このことを言うとだ。無意識に唇を噛み締めてしまった。そのうえでの言葉だった。今も自分のその忘れられないことを思い出していた。
「わかったから」
「そういうことね」
「そうよ。それでね」
「それでなのね」
「私、この仕事で頑張っていくから」
こう弥生に話すのだった。
「誰にも私みたいになって欲しくないから」
「頑張ってね。じゃあ」
「ええ」
「これから何処に行こうかしら」
穏やかな笑みでだ。如月に言うのだった。
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