戦国異伝供書

「そうしてじゃ」
「茶の道もですか」
「学ぶのじゃ、よいな」
「それでは」
　すぐに信長から幸村に優れた茶器が一式下げ渡された、幸村は十勇士達に崇伝と天海を探す様にとの信長の命を伝えるとあらためて彼等に言った。
「まさかわしがのう」
「茶をされるとは」
「それはですか」
「思いも寄りませんでしたか」
「夢にも思わなかった」　
　こう十勇士達に言うのだった。
「まことにな、しかしな」
「殿から茶器を下げ渡され」
「そして利休殿とお会いになる」
「それならばですな」
「殿もまた」
「これからは茶の道も行う」
　そうするというのだ。
「武芸の鍛錬に軍学を学ぶだけでなくな」
「これまで以上に政にも励まれ」
「学問にもですな」
「軍学以外の学問にも励まれて」
「そして茶の道もですか」
「そうなりますな」
「そうじゃ、しかしどうもな」
　信長から譲られた茶器達を見つつだ、幸村は言うのだった。
「何をどう使うのかな」
「それが、ですな」
「わかりませぬな」
「それは我等もです」
「どれをどう使うのか」
「皆目見当もつきませぬ」
「飲むといえば水か酒であった」
　これまでの幸村はそうだった。
「茶なぞ贅沢と思ってな」
「それで、でしたな」
「殆ど飲んだことがありませぬな」
「武田家の集まりで飲んだことはあっても」
「それでも」
「うむ、その時茶会にも入っておったが」
　武田家の中で行われたそれにだ、信玄は典雅もわかっている者で詩文だけでなくこうしたものも行い家臣達も同じなのだ。
　しかしだ、上田の山を駆け回り武芸と軍学に親しんできた幸村は。
「全く別の世界のものとな」
「思っておられ」
「それで、ですな」
「武田家のそれには参加されても」
「殿ご自身が開かれるなぞ」
「とてもですな」
「本当に考えたこともなかったからのう」
　だからだというのだ。
「甚だ不安じゃ」
「殿、我等がついております」
「これから妖僧達を探しに行きますが」
「我等は常に殿の家臣です」
「何があっても殿と共にありますので」
「済まぬのう、しかし槍や刀や鉄砲や弓矢ならわかるが」
　他に馬も水練もだ、幸村は免許皆伝である。
「茶となると」
「まあそうですが」
「それでもここはです」
「利休殿にお会いされて」
「そうして教えを授けられては」
「そうじゃな、何もわからぬが」
　まさに何もかもがだ、幸村にとっては。
「しかしな」
「まずはですな」
「利休殿にお会いして」
「そのうえで、ですな」
「あの方に伝授して頂きますな」
「そうしてもらおう、とかくわしは何もわからぬ」
　茶のことはというのだ。