邪悪を断ち切るもの
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第一章
邪悪を断ち切るもの
松尾日毬のと小林千歳は日毬の神託を受けた場所であるパプアニューギニア、ケレマ近郊まで来ていた。日毬はパプワニューギニアのその暑さに着いてすぐに言った。
「この暑さも私達の敵になるな」
「そうですね、こう暑いとです」
千歳は日毬の左肩から話した。
「体力がそれだけで奪われて」
「そこに隙や弱みが出来る」
「そのことに注意すべきですね」
「そうだ」
日毬はサングラスをかけた目で周囲を見つつ千歳に答えた。
「これは案外以上に厄介なことだ」
「よく言われることですが」
「熱帯の暑さはそれだけで大いな敵となる、特に君はな」
「蝦夷は寒いですからね」
見れば千歳は顔の汗を小人族用の手拭いでしきりに顔を拭いている、辛いのは明らかだ。
「正直なところです」
「辛いな」
「はい、ですが」
「このことはか」
「少し気候を使いますね」
千歳は右手の人差し指を立ててそれを上にかざした、すると軽く冷たい風と空気が流れてだった。
自分だけでなく日毬の周囲も涼しくさせた、そのうえで日毬に尋ねた。
「どうでしょうか」
「快適になった、ではその快適になった分な」
「試練にですね」
「向かおう」
日毬は千歳に前を向いて述べた、そうしてだった。
ケレマの街に入りその湊の方を二人で歩いているとだった、そこに。
一人のンヤダクの少女、パプワニューギニア特有の派手な南国の民族衣装を着た彼女が野蛮な雰囲気の男達に追われていた、その少女を見てだった。
日毬は一歩前に踏み出し己の左肩にいる千歳に告げた。
「私の性格は知っているな」
「はい、こうした時はですね」
「動かずにはいられない」
「義を見てせざるは」
「勇なきなりだ、勇のない武士なぞ武士ではない」
「それでは」
「あの娘を救おう」
こう言ってだ、日毬はすすす、と足を摺り足で前に動かしてだった。
少女を襲おうとしていた男たちの前に出た、日毬はそのまま刀を抜き彼等をみね打ちで倒そうとしたが。
男たちは突如不気味な紫色の肌をし身体が毒で爛れている様な異様な姿になってだった、日毬に禍々しい爪や牙で向かってきた。それでだった。
日毬はみね打ちを止めて刃で切った、右手に出した倶利伽羅丸で彼等異形の存在を瞬く間に全て切り伏せた。
そうして少女を助けてだった。日毬は彼女に尋ねた。
「あの魔物達は何だ」
「あの、どう見ても普通ではないですが」
千歳も少女に問うた。
「先程のことは」
「わかりません、ただ」
「ただ。どうした」
「あの人達を見ると急に」
怯えた顔になってだ、少女は日毬達に話した。
「頭が痛くなって。そして」
「そして何だ」
「あの人達を見ていると何故か」
少女はケレマの北にある山の方をこれ以上はないまでに怯えた顔で見つつそのうえで言うのだった。
「あの山の方を思い出します」
「あちらの山をか」
「そういえば」
ここでだ、千歳が日毬に彼女の左肩から囁いた。
「あちらに悪名高い科学者が潜んでいるとか」
「そういえばリー君達が言っていたな」
「南洋統一の時に人体実験や禁呪等を研究してです」
「何か恐ろしいものを生み出そうとしていたな」
「それでリーさん達も無視出来ず逮捕しようとしましたが」
「この辺りに逃げ込んでな」
「討伐隊からも隠れている」
千歳もまた山の方を見つつ言うのだった。
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