悪徳商人の誇り
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第四章
「そうですね」
「それもわかるのかよ」
「貴方という人を見れば」
それでというのだ。
「わかります」
「俺はそこまでわかりやすいのかよ」
「本当に日頃の行いをあらためるべきかと」
「俺がそんなことすると思うか?」
「思いませんが言います」
こうも言うのだった。
「あえて」
「全く、面白くねえ姉ちゃんだな」
「それは何より。とにかく呪いは解けます」
「解けますが」
それでもとだ、鈴子が述べた。
「私達でも。ですが」
「解く気はねえんだな」
「私達では」
「その呪いは善行で解けます」
このことをだ、雅は男に話した。
「貴方がそれを行えば」
「善行?」
「例えばですが」
久志は冷静に前置きして述べた。
「教会や福祉事業に寄付、悪事や嘘への謝罪、雇っている人達への待遇を変える等」
「全部嫌だな」
「されないですよね」
「俺はそんな行いが大嫌いなんだよ」
男はムキになった口調で言い切った、身体が痛まないので嘘でないことがわかる。
「生まれてこのかたしたことねえ」
「筋金入りですね」
「おう、その俺に善行かよ」
「絶対にですか」
「死んでもするものか」
こう言い切るのだった。
「天地がひっくり返ってもな」
「ではもうです」
雅は呆れた口調のまま男に述べた。
「貴方はです」
「このままだっていうのかよ」
「嘘を吐けば」
その時はというのだ。
「その度にです」
「しかし俺はな」
「そうしたことはですか」
「俺は根っからのひねくれもので嫌われ者なんだよ」
男は腕を組んで言い切った。
「物心つく前からのな」
「そうなのですね」
「生まれてこのかた好かれたことなんかあるか」
「一度もですか」
「そのせいで今も独身だ」
「嫌われ過ぎてですね」
「それで店は弟の子供に継がせることになってるんだよ」
独身であるが為にというのだ。
「そうなってるんだよ」
「お友達もですね」
「いない、そしてな」
男はまだ言うのだった。
「悪徳商人って言われてな」
「それが、ですか」
「誇りにすらなってるんだよ」
「ある意味見事ですね」
雅は冷め切った目で述べた。
「つまり善行を行うことは絶対に、ですね」
「するかよ」
強い声で言い切った、ここでも。
「痛いのも嫌だがな」
「何といいますか」
鈴子はここまで聞いて述べた。
「この人本物ですね」
「はい、本物の嫌われ者で」
そしてとだ、雅も述べた。
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