泡沫の島
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泡沫の島 5話「ルナ」
外の世界を見た事ある?
……まぁ、任務で何回かは。
任務って楽しい?
楽しくは無い。そもそも、楽しいとか余分な感情は邪魔なだけだ。
そう……。なら、何で任務をするの?
そうしなきゃいけないから。
何故?
…僕達はその為に存在しているんだから、仕事をしなきゃ。
じゃあ、仕事が出来ない人は?
鍛え直すか、まぁ廃棄処分だろうね。君もこの辺の事情は知ってるはずだけど。君も処分される寸前だったって聞いてたけど?
……ごめんなさい。昔の事は良く思い出せないの。
…まぁ、そういうこと。仕事が出来ない人間はここに存在する価値がないんだ。だから皆懸命に練習してる。
あなたも?
僕は…他に比べればあまり積極的な方ではないとは思う。でも一応任務はこなせてるから問題無い。
……ふぅん。
そろそろ時間だ。僕は戻るよ。
また来る?
さぁね。僕は教官に言われてここに来てるだけだ。何の意図があるかよくわからない以上、次があるかはわからない。
そう……。また来て欲しいな。ここは暇だから……。もっと色んな話が聞きたい……。
……今度があればね。それじゃ。
うん。またね。
φ
ここは、とても静か。
最初に皆で島全体を探索した時に見つけたお気に入りの場所。天気がいい日は太陽の光が差し込み、お昼寝にも最適。そのせいか少しうたた寝していたみたい。
私はいつもの木の下で、一人ぼんやりと時を過ごす。これがこの島に来てからの日課になっている。
もちろん、他の皆と仲が悪いわけじゃない。むしろ皆こんな私に良くしてくれてる方だ。ただ、少し一人でいる時間も欲しいだけで、皆と一緒にいるのが一番楽しいのは変わりない。
最初に会った時には本当に緊張した。
「……というわけで、彼女がルナだよ。はい。じゃとりあえず自己紹介。」
「……ぁ、あの、私、ルナ……です。その、…………。」
「んみゅ、どうしたの?」
「…………。」
「あぁ、えっと彼女はあまり人と話したことが無いから、恥ずかしがってるんだよ。」
「…なるほど。シャイボーイならぬシャイガールってわけですね。」
「……ぁ、その…」
「ったく!埒があかねぇ!オラ!パッパッと済ましちまえ。」
「ひ、ひぅ!」
「カズ、あまり刺激しないでよ。怖がってる。」
「そうだー!お前は一生黙ってろバカー。」
「鬼畜ですね……。」
「…テメェら全員後で覚えとけよ……。」
「…ぇ、と……。」
「時にルナさん。」
「は、はい?」
「とりあえず今のうちに敬語止めてもらえませんか?私とキャラが被ってしまうので。」
「「「いや、それはない。」」」
「ぇ、えっとその、はい、…じゃなくて、うん。」
「あー堅苦しい!これから一緒に暮らすっつーんなら遠慮なんかしてんじゃねーよ。」
「じゃあさじゃあさ、愛称とか付けたらどうかな?」
「それはいい考えです。あなたもそれでいいですか?」
「……ぅ、うん。」
「それじゃ決まり。うーん、そうだねぇー……なら、ルナちーってのはどうかな?」
「……私はルナルナがいいと思います。某戦艦アニメ風に。」
「えールナちーのほうがかわいいと思うけど?じゃ、本人に決めてもらおう。」
「そうですね。」
「「さぁ、どっち?」」
「え、えっと、その……。」
「……あの二つしか選べないっつーのはまた可哀相だな…。普通に呼びゃいいだろ…。」
「そう?僕はどっちもいいと思うけど?」
「……俺か?俺がおかしいのか?」
「そ、その…………じゃあ、ルナちー、で。」
「イエース!ルナちーけってぇぇぇぇ!!」
「……残念。」
「というわけで、ルナちー、これからよろしくー!」
思い出して一人こっそりと笑う。
サヤはこっちが見ているだけで楽しい気分になる。ユキは色々変なこと言い出すけど面白い。カズは最初怖かったけどここ最近になって実はこのメンバーを一番気に掛けてくれてる優しい人だということが分かった。
そして、シュウ。彼のおかげで、私はあの牢獄とも呼べる場所を出ることができた。
ここでの生活はとても楽しい。まるで、夢を見ているよう。
あそこから外に出ることができるとは思わなかった。”あの時”私が語ったことも、半ば憧れのようなものだった。
だから、彼がやってきて約束を覚えてくれていた時、本当に嬉しかった。そして、見事私の夢物語を実現させた。
この時が永遠に続けばいいと思う。けど、施設はそんなに甘くはない。いずれ、必ずこの島を突き止め、総力をあげてやってくるだろう。
その時が来たら、私は――――――――――――――――
……やめよう。せっかく良い気分だったのに、こんな事を考えるのは。私は思考を遮断する。
歌を歌おう。気分直しだ。
私は歌を歌うのが好きだ。けど、人に聞いてもらうのは恥ずかしい。サヤにせがまれた時は焦ったけど、最近やっと諦めてくれたみたい。
歌を歌っているときは、自分が別の自分になったような不思議な気分になれる。
私の歌のレパートリーは少ない。そもそもずっと閉じ込められていたから、音楽を聴くことなんてほとんど無かった。私が歌っている曲は、施設の職員が聞いていたラジオから流れてきた、どこかの外国の曲だけ。
一所懸命耳を澄まして何度も何度も繰り返し聞いて覚えたのだが、歌詞が合っているのかどうかは自信がない。
ユキが、なら今度ラジオ作ってあげますよ、とか言ってたけど、ラジオってそんなに簡単に作れるものなんだろうか?とても楽しみだ。
……知らないうちに小鳥さんや猫さんやリスさんがやって来ていた。嬉しくなって私はもっと歌う。
時間を忘れて歌い続けていたが、その時、がさ、という不協和音が聞こえる。
私は反射的に身を竦める。施設の連中かもしれないからだ。
しかし、その音を立てた張本人は私のよく知る人物で、彼は申し訳なさそうな顔を浮かべながら
「ごめん、邪魔しちゃったね。」
と、微笑んだ。
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