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社会人共がクトゥルフやった時のリプレイ

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クロノスを喰らうもの
  Part.4

「さって、情報を整理するかねい。まずはあの理子ちゃん。ありゃあ、相当ヤバいことをされているねい」

「《精神分析》によりますと、解除手段の分からないマインドコントロールをかけられているようです。そういえば最後ちょっと攻めてみましたけど、大丈夫だったでしょうか?」

「上出来だ十六夜さん。支配人である叡史は特に気にも留めていなかったからたぶん私たちが調査のために訪れたことは気付いていない。あの能面みたいな薄気味悪い無表情が理人くんの写真で僅かとはいえ崩せたのはかなりの収穫だ。理子くんにはまだどこかに理性が残っている可能性がある。そしてそこを突けば正気に戻せるかもしれない」

「だがあの力……俺たちの情報を正確に言い当てたあの能力は厄介だ。もし仮に戦闘になった場合向こうに理子ちゃんがいたらこちらの攻撃がすべて無効化されてもおかしくない。そうなったらかなり不利だ。はたして対処手段はあるのか?」

「サングラスかけていても言い当ててきたから目は関係ないだろうねい。というかあんな暗い目の持ち主だ。もしかしたら見えちゃいけないものを見ちまっているかもわからんねい」

「兎にも角にもだ。引き取った娘があんな風になっても涼しい顔で接客していたあの支配人が真っ当な人間であるわけがない。当然、その妻の方もだ。気の毒だが理子くんは巻き込まれた被害者である可能性が高い。飛龍くんの言っていた、奇妙なカルトと繋がっているというのは本当のようだ。遊星くん、急いで【クロノスの光】の校舎に向かおう。自殺した子供が通っていた学校だ。ここ以上にとんでもない秘密が隠れていてもおかしくない」

「ですね。流石にマインドコントロールされた状態で理人くんのところに連れて行くわけにもいきませんし、なによりあの支配人が許してくれないでしょう」

「わかった。GM、俺たちは【クロノスの光】の校舎に向かうぞ」

 そうですか。では遊星がハンドルに手を取った……その時。全員、《目星》をお願いします。

 古美門《目星》25 → 40 失敗
 勇儀 《目星》25 → 19 成功
 咲夜 《目星》40 → 89 失敗
 遊星 《目星》48 → 98 ファンブル

「あ」

「遊星くぅん?」

「す、すまん。これどうなるんだ?」

 今回は見逃します。というかチーム古美門、こうしてみると本当に《目星》が低いですね。重要な技能なんですよ?

「あたしは戦闘型のキャラだからねい……」

「俺は機械と運転に強いキャラにデザインしてしまったんだ……」

「誰かが取ってくださると思って……」

「ロールプレイと他の技能でカバーする」

 ……まあいいでしょう。では唯一《目星》に成功した初期値の勇儀。あなたは反対車線に黒塗りのベンツが通り過ぎていくのを偶然目撃します。その後部座席に件の少女である理子と叡史が乗っていることにも気付きました。

「なんだって!? おい、みんな今の黒ベンツ見たかいっ!?」

「うん? いや……」

「すみません外を見ていませんでしたので……」

「俺もだ。その黒いベンツがどうかしたのか?」

「乗っていたんだよ、理子ちゃんと支配人が」

「! それは本当か? どうする古美門」

「GM、その車は《追跡》可能か?」

 反対車線の上もう通り過ぎた後ですので、追跡は不可能ですね。

「じゃあもう仕方がない。というかどういうわけか支配人が動き出したということは、今後何かよからぬことが起るかもしれないということだ。全くたったの5万円で受けるような依頼じゃなかったな」

「じゃあ目的地は変わらないな。勇儀。あれは追跡できない。ここは諦めて【クロノスの光】の校舎に向かおう」

「そうかい……それならしょうがないねい」

「というわけで俺たちも【クロノスの光】に行くぞ。この住所の所に行けばいいんだな?」

「そうだ。よろしく頼むよ、遊星くん」

「お安い御用だ」

「ようやく合流できるねぇ。暇だったんだよ、ボク」

 そうですね。ようやっと合流です。では京楽のシーンに移りましょう。


     ――――・――――・――――・――――


 車を持っていない京楽は電車やバス、徒歩を駆使して住所通り、多摩市にある【クロノスの光】の校舎にやってきました。……が。そこを見たあなたは驚きに目を見張ることになります。
 ホームページに乗っていた住所通りにそこにやってきたあなたですが、目の前に広がっていたのは殺風景な更地。写真にあったプレハブ小屋など見る影もありません。

「どういうことだいこれは……」

 と唖然している京楽のもとに近づくなにかの音。エンジン音がほとんどなく気付きにくいですが、砂利道を走るタイヤの音から、それは車が近づいてくる音だとわかります。数秒も経たないうちにその車はあなたのそばに停まりました。真っ黒な新型センチュリーです。

「あ、それ俺たちの車だな。無事合流だ」

「でもこんなシチュエーションで来られたら身構えちゃうねぇ。持っていた杖を構えて警戒しよう」

「そんなこと気にせず車から降りる。そしてこの風景を見て声を上げよう。おいおいおいおいなんだねこれは一体どうなっている。遊星くん、本当にここで合っているのかぁ?」

「車から降りつつ古美門に言う。ああ、間違いない。ここがその住所だ」

「助手席から降りて口をぽかんと開けます」

「古美門の隣に立ちつつ苦笑いを浮かべる。あーあー、こりゃあ……」

 車から降りてきた人間は全員で4人。
 見るだけで高いとわかるようなパリッとしたスーツを着ている平均以下の身長であるものの美形の男。サングラスを掛けた全身スーツ姿の金髪女性。メイド服を着ているものの、見る人から見れば露出している腕や脚の筋肉の付き具合からタダ者では無いと一発でわかる銀髪の美人女性。奇妙な髪形をした白衣を着ている男。

「ヤバいね」

「ちなみに京楽はどんな服を着ているんだ?」

「ボクかい? 原作BLEACHの京楽隊長と同じ格好だよ?」

「おまえも充分やばいじゃないかい! 死覇装を堂々と着てんじゃないよ!」

「そんな恰好で電車とバスに乗っていたんですか」

「警視庁にもその服装で出入りしていたのか……」

「まあまあ、じゃあボクは車から降りてきた4人に話しかけよう。キミたちは何者だい? こんなところに何をしに来た?」

「他人に名前を聞くときはまずは自分の名前から名乗るのが筋だろう。ちなみに私はこういうものだ、と名刺を差し出す」

 京楽 《知識》90 → 21 成功

「ああ、あの有名な探偵の古美門先生でしたか。失敬失敬。ボクは京楽。こういうものだよ。と警察手帳を見せよう」

「……その恰好で刑事なのか? しかも警部なのか。おい、今の警察は大丈夫なのか?」

「ははは。まあボクが変わり者だっていうのは自覚しているけどねぇ。自分で言うのもなんだけど、ボクは優秀な刑事だよぉ?」

「だろうな。逆に無能なやつだったら速攻で解雇するくらいだ。ちなみにこの3人は私の優秀な仲間たちだ」

「メイドの十六夜咲夜です」

「用心棒の星熊勇儀だ」

「不動遊星。運転手だ。遊星と呼んでくれ」

「ははは、これはまた凄そうな人たちのお出ましだ。無礼を働いて申し訳ないねぇ、古美門先生。実はボクはとある事件を追いかけていてねぇ。その過程でここに来たんだがこの有様だよ」

「ふん。ちなみにとある事件とは奥多摩山中で発見されたという小学生男児の自殺事件のことか?」

「ははは、流石名探偵だ。ああそうだよ。あの自殺体には奇妙な点が多くてね、単独で調べるように命令されてこうして調査に乗り出しているんだよ」

「奇妙な点とは何ですか?」

「……話をしてもいいけど、1つだけ条件があるよ」

「条件?」

「うん。簡単なことさ。探偵だから守秘義務があるのはわかっているけど、そちらがどういう案件でここに来たのかを教えてほしいねぇ。ギブアンドテイクってやつさ」

「要するに情報を交換しよう、ということかい?」

「そうだよ。こうして同時に辿り着いたのも何かの縁だ。どうだい? 一緒にこの事件を追いかけてみないかい? ボクは刑事だから何かと便利だと思うよ?」

「……。……いいだろう。こちらの握っている情報と交換だ。GM、私たちが持っている情報を全て京楽に開示する」

「ボクも全部開示しよう」

 わかりました。ではそれらの情報をPCは知った体でロールプレイを進めてください。特に《SAN》チェックや《アイデア》チェックはありません。

「なるほど、確かにその目の傷は異常だな」

「だろう? それにそちらの理子ちゃんとやらもまずいものに巻き込まれているみたいじゃないの」

「ええ。あんなに可愛い子なのに、酷いですよね……」

「……ロールプレイはここまででいいか。GM、周囲を見渡すぞ。俺たち以外に人影はいるか?」

 はい、います。ここから少し遠いところにあるベンチに、更地を眺める初老の男性がいます。

「あ、居たんだね人。古美門くんたちが濃すぎて気付かなかったよ」

「おまえが言えたことじゃないがな」

「その人に話しかけよう。どんな状態だ? 《心理学》は必要か?」

 必要ありません。ベンチに座っていた初老の男性は物憂げな表情です。雰囲気から悲しそうな感じがビンビン伝わってきます。

「ボクが話しかけよう」

「私もフォローに回ります」

「じゃあ残った我々は更地を探索するとしよう」

「わかった。じゃあ警察手帳を見せながら話しかけようかね。失礼、こういう者です」

「はぁ……警察の方でしたか」

「はい。少し、お話を聞かせてもらってもよろしいかな?」

「はい……」

「まず、あなたは?」

「私はここにあった学校の……【クロノスの光】の元代表です」

「おや……では祟道議員が代表になる前の……」

「はい……」

「自殺した児童について何か知っていることはありますか?」

「あの子ですか……。いい子でした。ですがあの女が来てからは……」

「あの女、とは祟道議員のことですか?」

「はい。あの女が来てから、【クロノスの光】は狂い始めてしまったのです」

「詳しく聞かせてくれますかねぇ」

「かつての【クロノスの光】は私と同じ、有志を持った人間が恵まれない子供たちのために勉強を教えるだけの、本当に小さな営利目的なんてない、いわば慈善団体のようなものだったのです」

「ええ。それは把握しています。とても素晴らしい教育をしていたとか」

「そう言っていただけると嬉しいです。……ですが祟道議員が団体に参加してからその方針が狂い始めてしまったのです。都議会議員が参加していただけることはこちらにとって大歓迎でした。私たちの活動を評価していただいて、日本のみならず世界中の子供たちに真っ当な教育を受けらさせられたらどんなに素晴らしいことか。そんな夢を見て、私たちは議員を迎え入れたのです。しかし……」

 元代表の男は怒りと苦悶の表情を浮かべ、こぶしを握ります。ぶるぶると震えていることからその感情の大きさは計り知れません。

「議員が来てから【クロノスの光】は徐々に、得体のしれない宗教儀礼に傾倒し、当初の理念を離れ【宇宙との交信】を目的としたカルトじみた組織に変貌していったのです。私は何回も抗議しましたが、気付けば私の権限の大半がなくなり、学校から遠ざけられてしまったのです……。自殺事件が起こったのはそれからしばらくしてからでした。名前を見て間違いなくあの女が何かしたと思った私がここにきてみればこの有様……。新しい校舎は長野県の面金村という廃村だそうです」

「そうだったんですか……それは酷いですねぇ」

「御気の毒に……」

 ではそのような情報を得たところで、京楽の携帯電話が鳴り響きます。

「誰から電話がかかってきたのかな?」

 あなたの上司です。

「出ようか。もしもし。京楽だよぉ?」

「やあ京楽。捜査は順調に進んでいるかね?」

「まぁ進展はありましたよ。まだ報告できるような段階ではありませんがねぇ。ところで何用で?」

「奥多摩山中で発見された自殺体の検死結果が出た」

「! 詳しく聞かせてもらおうかねぇ」

「ああ、説明する。まず男子児童の体内から麻薬の陽性反応が出た。濃さからして死ぬ前に摂取したとみて間違いない。それからもう1つ。死体の目の傷だが……検死官が言うには、これは他人が付けたというより、自分で付けた可能性が高いらしい」

「……麻薬を摂取したのち、何かがあって自分で自分の目を引き裂いた、と? 小学生の男児がかい?」

「ああ……京楽。これは思った以上に厄介な案件かもしれん。くれぐれも気を付けて捜査してくれ。限界ならば応援も手配しよう」

「わかったよ。それじゃあ。と電話を切る」

 さて、探索組にシーンを移しましょう。旧校舎跡を調べていたあなたたちはその足元に、埃を被った鉄板を見つけます。まるで観音開きの扉のようです。人1人分は通れそうです。

「開けるか。GM、鉄板は3人がかりでどかせそうかい?」

 はい。余裕でどかせるでしょう

「じゃああたしと古美門、遊星の3人がかりで開けよう」

「いいだろう」

「よし、いくぞ。せーのっ!」

 では鉄板を開けると、そこには地下へと続く階段がありました。

「京楽警部と十六夜さんを呼ぼう。京楽警部、十六夜さん! こっちに来たまえ!」

「呼ばれたので行きましょう。元代表に会釈して先生たちのもとに向かいます」

「ボクも携帯電話をしまって古美門先生の所に行こうかねぇ。そして足元に広がる階段を見る。これは……地下への入り口かい?」

「先程見つけたんだ。さて、入るかい?」

「全員で行くか、それとも見張り組と探索組に分けるか……悩ましいですね」

「全員で行った方がいいんじゃないか? 外に残っていたって、ここしか出口がないならあんまり意味ないぞ?」

「確かにそうかもしれないねぇ」

「じゃあ全員で行くか。GM、地下は暗いか?」

 薄暗い感じですね。《目星》に成功するか、懐中電灯を持っていれば探索できます。

「よし。じゃあ私はミニライトを取り出す」

「あたしもミニライトを点けようかねい」

「私もミニライトを持っています。取り出します」

「俺はカバンから大きめの懐中電灯を取り出す」

「ボクはスマホの電気を点けよう」

 全員で地下に行くんですね?

「うん」

 あなた達が鉄製の扉に隠されていた階段を降りていきますと、小さな地下室に辿り着きます。

「地下室には何がある?」

 古びた書籍が並ぶ本棚、鉛色の床にはチョークのようなもので描かれた五芒星の魔法陣がうっすらと残っています。部屋の奥は薄暗くてよく見えません。懐中電灯を照らせば見えるでしょう。

「部屋の奥を懐中電灯で照らす」

 部屋の奥には鉄格子があります。まるで牢獄のようです。そしてその中には1人の少女が閉じ込められていました。
 その少女は痩せ細り、肌は白く、衰弱してしまっていますが、それ以上にあなたたちはあるものに目を張ってしまいます。
 それは少女の目。
 少女の両目は鋭利な刃物で切り裂いたような傷で潰れてしまっており、彼女はもはや何も見えない目でぼんやりと虚空を眺めている。
 彼女の周囲には白骨化した死体が幾つも並んでおり、あなた達はその大きさから彼女と同じ年頃……小学生程度の子供の亡骸だと気付きます。
 たくさんの子供たちの白骨死体、及び尋常じゃない状態に陥っている少女を直視した皆さん。《SAN》チェックのお時間です。チーム古美門は2/1D4+1、京楽は事前知識により両目を刻まれた子供の姿を見ているため1/1D4の《SAN》値減少です。

 古美門《SAN》65 → 11 成功
 勇儀 《SAN》64 → 77 失敗
 咲夜 《SAM》49 → 90 失敗
 遊星 《SAM》54 → 80 失敗
 京楽 《SAN》54 → 27 成功

「(コロコロ)……4」

「(コロコロ)……2」

「(コロコロ)……3」

 さて《SAN》チェックも済んだことですし、あなた達の足音で誰かがここに来たのを察知したのでしょう、「誰か……いるの?」と小さな声が聞こえます。どうやら衰弱した少女が喋ったようです。目が潰れてしまっているためあなたたちがどこにいるのかわからないのでしょう。キョロキョロと辺りを見渡しています。

「ボクが少女に話しかけようか」

「私も行こう」

「私も行きます」

「じゃあ俺は他の場所を探索しよう」

「あたしは地下の入り口で待機する」

 わかりました。では古美門と咲夜、京楽の3人のシーンから行きましょう。

「牢屋の中に入れるかい?」

 入れません。鉄格子越しに話しかけてください。

「じゃあボクから最初に話しかけるよ。やぁ、こんにちは。おじさんは刑事だ」

「次は私だ。私は探偵だ」

「最後に私です。そのメイドです。失礼ですがあなたのお名前は?」

「弓香……弓香っていうの」

「弓香ちゃんですか。どうしてこんなところに?」

「それは……私が『悪い子』だから……」

「どうして『悪い子』なんだい?」

「私……学校で勉強を教えてもらっていたの」

「学校というのは【クロノスの光】のことだな?」

「うん。……でも私は『悪い子』だったの。お勉強、あんまりできなかったし、【クロノス様】が怖くて怖くて、しょうがなかったから……。だからここでお仕置きを受けているの」

「【クロノス様】? なんだそいつは」

「この世の全てを知っている神様……って先生たちが言ってたよ。でも……私は怖かったの」

「怖かった? ということは、キミはその【クロノス様】とやらを見たのかい?」

「うん。でも【クロノス様】を見たらなんだか頭がおかしくなりそうになっちゃって……だから私、自分で目を潰したの。そうしたら楽になれたの……」

「……京楽警部、これは……」

「うん。奥多摩の山中で発見された子供も、その【クロノス様】とやらを見ちゃったんだろうねえ。更に麻薬の効果と合わさって錯乱状態になって……」

「自殺した、ということですか」

「刑事さん、探偵さん、メイドさん。奥の壁は見ない方がいいよ。見たら多分、頭がおかしくなっちゃうよ」

「……ということは、いるのかい? その【クロノス様】が」

「うん。いるよ……今は壁の中にいるけどね」

「……どうする?」

「私は見よう」

「私は見ません」

「そうかい。じゃあボクも見ておこう。この事件を解決するためには避けては通れなさそうだからねぇ。スマホの光を奥の壁に当てる」

(おやおや)では古美門と京楽が奥の壁に光を当てると、そこに描かれているものを見ることができました。
 そこには謎めいた図形が描かれていました。
 いくつもの半球体が長い円柱状の棒で連結されたその幾何学的な図形は、平坦な塊のようにも奥行きを持った立体のようにも見える。その図形を目の当たりにしたあなたたちは根源的な恐怖から咄嗟に目を逸らしたくなるような衝動に駆られますが、それは叶いません。
 なぜならあなたたちは、図形が孕んだ何らかの冒涜的な魅力、あるいは呪術めいた引力を視線で捉え、平坦な図形の奥行きの最奥へと引きずり込まれような感覚に一時といえど身を委ねてしまっているのですから。
 視線が滑る。半球を、それを接続する無数の棒の上を、探索者の視線がぐるぐると辿る。いや、知らず知らずのうちに辿らされていく。『それ』に関する知識が無くとも、あなたたちの魂が確信するであろう。
 この図形は、決して理性の世界に生きる人間が触れてはならない、恐るべき禁忌であるということを……。
 少女の語る【クロノス様】とやらを象ったその図形を目撃した古美門、京楽の両名は1D3/1D6の《SAN》チェックです。

「た、助かりました……」

 古美門《SAN》63 → 27 成功
 京楽 《SAN》53 → 51 成功

「(コロコロ)……1」

「(コロコロ)……1。2人とも最低値で済んでよかったねぇ」

 そうですね。ではシーンを映して遊星くん、君のターンだ。どこを探索しますか?

「本棚があると言ったな。そこについて調べよう。だが俺は《図書館》を持っていない。《目星》で代用させてほしい」

 いいでしょう。《目星》でどうぞ。

 遊星 《目星》48 → 18 成功

 本棚の中に並んでいる本の中に、特に特出すべき本はありません。しかし、遊星は並べられた本と本の間にきらりと光るものがあったのに気が付きました。それは……監視カメラでした。ちなみにまだその機能は生きていますね。

「は?」

「お、おい、これはマズいぞ! GM、俺はみんなにこのことを伝えて全力でこの場から離れ――」

 却下。遊星が監視カメラを見つけた丁度そのころ、古美門と京楽が壁に刻まれた【クロノス様】を見た後でした。その時……突如、地下室内に設置されたアラートが鳴り響き、天井のランプが激しく赤く点滅する。
 そして、部屋の奥に取り付けてあった小型スピーカーから女性の声が響きます。

「初めまして。そして、さようなら。見てはならないものを見たあなた方を、生かして地上に帰すわけにはいきません」

 そう女が言うと、次に冒涜的な呪文を読み上げる声が聞こえる。その最中、弓香が「祟道先生」と小さくつぶやきますが、状況をどんどんと進んでいきます。そして、呪文によって奥の壁の謎めいた図形が発光する。壁を透過するようにしておぞましき、謎の生命体が這い出してくる。
 暗闇の中で足を引きずりながらやってくるソレは、冒涜的なフォルムを有する怪物でした。
 その姿は巨大で、黒々とした体躯の生物。猿に似ていましたが、どこか昆虫のようなところもある。体からは皮膚がだらしなく垂れ下がっており、退化した目の痕跡のあるシワだらけの頭部が、酔っているかのように不気味に右へ左へと揺れています。長く伸ばした前肢の手の平には、大きく広がった鉤爪が付いている。
 顔には何の表情もありませんでしたが、異界的な錆のような臭いと共に、残忍凶悪な殺意をその体全身から漲るように強く、強く発していました……。




     ――To be continued… 
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