提督はBarにいる。
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聖夜にシャンパンで乾杯を・2
前書き
ども。『提督はBarにいる。』2019年1発目の投稿です。……しかし、新年1発目がクリスマスネタってのはどうなんだ(;´д`)
「ねぇねぇ、シャポンは用意してないの?」
仄かに酔ってきたのか、頬を赤らめたリシュリューが聞いてきた。
「あ?用意してねぇよ、そんな高いモン。フライドチキンならあるけどな」
「なんでよ!ノエルのご馳走っていったらシャポンでしょ!?」
「あの、店長?シャポンって一体なんですか?先程からのお話を聞いていると、鳥のようですけど……」
「あぁ、シャポンってのは雄鳥……つまりは雄の鶏だ。しかも、去勢した雄鳥な」
フランスだとクリスマスのご馳走用に育てている養鶏場が多いらしい。
「な、なんでわざわざ去勢するんです?」
「あ~、タマが付いてると肉に臭みが付く上に肉が固くなるらしい。男性ホルモンの影響らしくてな、だが去勢したとしてもオスはオスだから身体の発育もいいし、肉質も柔らかくなったりで良いことだらけらしいぞ?」
日本でも、食肉として出荷される家畜の雄のほとんどは去勢されたオカマらしい。知り合いの養豚業者だと、生まれて2~3日経ったら仔豚の去勢をするらしい。種類は違えど同じ男としてちょっと同情しちゃうぜ、俺ぁ。
「でも、クリスマスのご馳走といえば七面鳥だって聞いた事が……」
あ~、七面鳥か。鎮守府のパーティだと気にする奴がいるからそもそも料理として出す候補から外してたんだが……
「あれ、あんまり美味くねぇんだよな」
「え、そうなんですか?」
「伝統的に食ってる、ってのが正直なトコだと思うぞ?フランスのクリスマスにゃあ腹の中に皮剥いた栗を詰めて丸焼きにするのが定番らしいが、肉は鶏よりもパサパサしてるし、詰められた栗もパサパサで口の中の水分持ってかれるわ、肉より栗の方が量が多いから腹に溜まるわで、知り合いのフランス人は『アレのせいで栗が嫌いになった』とぼやいてたからな」
まぁ、そのフランス人は和菓子屋の娘さんと結婚して和菓子にドはまり、また栗が好物になった……なんてゲロ甘い後日談がセットになってるんだが。
話が逸れた。
「そんなワケで、七面鳥なんか食べるよりはフライドチキンでもかじってる方がマシなのよ……ハヤシモ、お代わり」
『ブルー・シャンパン』のグラスを空けたリシュリューが、ずいっとグラスを突き出してくる。 結構な数の杯を重ねているが、まだまだ序の口といった様子だ。
「はい……何にしましょう?」
「そうね……サッパリしたカクテルだったから、少し甘味の強いカクテルが良いわ」
「了解です」
早霜はふっ、と微笑むとフルート型のシャンパングラスにグレナデンシロップをティースプーン1杯垂らす。そこに出てきたのは不〇家のピーチネクター。それを10ml加え、2つを軽くステアする。よく混ざったのを確認したら、仕上げにシャンパンでビルド。
「……どうぞ、『ベリーニ』です」
「あら、確かイタリアの画家の名前だったかしら?」
「はい、イタリアルネサンス期の画家、ジョヴァンニ・ベリーニの展覧会が開かれた際に、その作品を見て感銘を受けたバーテンダーが作ったとされています」
「中々勉強熱心だな、早霜は。感心感心」
「あ、ありがとう……ございます…………////」
褒めてやるとすぐに赤くなる癖は治らんけどな。
「シャポンは諦めるわ。代わりにブーダンが食べたいわ」
「ブーダン?なんだそりゃ」
「ソーセージよ、知らないの?」
「聞いた事ねぇなぁ」
「いい?ブーダンっていうのはーー」
ブーダンってのは玉ねぎや豚の脂、それと豚の血を使って作る……所謂ブラッド・ソーセージって奴だった。血を使って作ると全体的に黒ずんだ仕上がりになるため、黒ブーダンと呼ばれるらしい。それとは別に豚の挽き肉をベースに卵、パン粉、牛乳(地域によってはキノコも)を加えて腸詰めにした白ブーダンも存在する。そしてこの白ブーダン、クリスマスの定番メニュー……らしい。古きよきフランスのクリスマスの定番コースは、夜遅くに元気な家族は教会のミサに行き、留守番をしている老人達がその間に白ブーダンを加熱(焼く、煮る、揚げる、なんでもいいらしい)しておく。そして帰ってきた家族皆で熱々な白ブーダンを頬張るんだそうな。何となくだが、初詣行って帰ってきて甘酒啜るのがイメージできた。
「だから、白ブーダンが食べたいのよ」
「食いたい、って言われてもなぁ……」
生憎とウチらどこぞのイケメン検事が通う、強面のマスターが何を頼んでも『……あるよ』と何でも出してくれるBarではない。むしろ深夜に繁華街の片隅で開いてる食堂の方がイメージは近い。あの食堂の店主よろしく、ある物なら大概の物は作れるが、無いものは出せない。……あ、貰い物だが、レモンとパセリの香りを付けた白いソーセージがあったな。
「よし、白ブーダンじゃねぇが白いソーセージで美味いツマミ、作ってやるよ」
《米にも合うぞ!ソーセージとジャガイモのアヒージョ》※分量:2人前
・ソーセージ(お好みのでいいが、ハーブで香り付けされてるのがオススメ!):8本
・ブロッコリー:1/4株
・ジャガイモ:小さめの2個
・マッシュルーム:4個
・ニンニク:1片
・赤唐辛子:2本
・オリーブオイル:大さじ4
・塩、粗挽き胡椒:各少々
・醤油:小さじ1
※お好みでバゲット等を準備しましょう。
さて、作るとしようか。まずは材料の下拵えから。ソーセージは長さにもよるが斜めに半分の長さになるように切る。ジャガイモは一口大、マッシュルームは縦半分に、ニンニクはみじん切りにする。ブロッコリーは小房に分け、赤唐辛子はヘタを切り取って種を取り除いておく。
耐熱皿にジャガイモが重ならないように並べ、ラップをしてレンジで3~4分加熱する。一旦取り出してラップを外してブロッコリーを並べたらもう一度ラップをして、電子レンジで1分加熱する。
小さめのフライパン(スキレットなんかオススメだぞ)にオリーブオイルとニンニクを入れ、中火にかける。ニンニクの香りが立ってきたらマッシュルーム、唐辛子、ソーセージ、チンした野菜を加えて、時々かき混ぜながら2~3分炒めていく。この時、具材が小さく切り揃えられているのが美味しさのポイント。全体にオリーブオイルが被る位になっていると、揚げ焼きされたソーセージから旨味が出て、具材も油も味わい深くなるぞ。
全体にこんがりと焼き色が付いたら、今回の隠し味、醤油を一回し。コレが入ると酒の肴のアヒージョが、米にも合うおかずに化ける。後は塩、胡椒で味を整えたら冷めにくいように陶器の器に盛り付けて完成。スキレットみたいな平たくて小さく、深底のフライパンならそのまま鍋敷きの上などに置いて出しても良いかもな。……実際、ウチの店ではそうやって出すしな。
「ハイよ、『ソーセージとジャガイモのアヒージョ』だ。バゲットは今軽くトーストしてるからな」
「ありがとう、熱そうね……」
リシュリューは目の前のグツグツと煮えたぎるスキレットを覗き込んで、ゴクリと生唾を飲み込む。
「その熱いのがいいんじゃねぇか。ほれ、熱い内にパクっといきな」
俺に促されて決意を固めたのか、フォークをジャガイモに突き刺してフゥフゥと息を吹きかけてから口の中に放り込む。
「あふっ!……あひ、あひ、あひ」
やっぱ熱い時のリアクションってのは万国共通、ハフハフするんだな。すかさず早霜が冷えたシャンパンをグラスに注いで手渡す。それをグイッと飲み干したリシュリューは、安堵の溜め息を吐き出した。
「ふぅ……ちょっと、これはあまりに熱すぎるんじゃないかしら!?」
「バカ言え、この手の料理は熱い内に食うから美味いんだ。冷めた鍋なんて虚しさの象徴みたいなモンだぞ?」
「ふん!……まぁ、美味しいのは認めてあげるわ」
その後も熱い熱いと文句を言いながらも、食べる手は休まらないフランスのプライドの高いお嬢様を眺めつつ、ゆったりとした時間が流れていく。たまにはこんな静かなクリスマスも、悪くねぇさ。
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