人徳?いいえモフ徳です。
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三十一匹目
「我が手に集え空の水 クリエイトアクア」
シラヌイの手に水球が現れる。
「水よ、我が声を聞け シェイプシフトトゥクロウ」
水は形を変え、大きなカラスとなる。
「水よその姿を現せ フェイズトランストゥソリッド」
ピキィ! と水が凍り、氷烏となった。
「凄いわ! どうやったらそんな風にできるの!?」
「まだまだだよ。凍てつく鳥に命を与う」
シラヌイが氷烏を上へ投げると、シャリシャリと羽ばたき、滞空する。
「わぁ………」
修練場をぐるりと一周した氷烏は、シラヌイの肩に止まった。
「シラヌイ! アナタすごいわ!」
「むふー」
クーコにおだてられ、シラヌイはドヤ顔だ。
「私にも魔法を教えて!」
「おっけー! 氷魔法の正体まで教えてあげよう!」
気を良くしたシラヌイはクーコに色々な事を教えた。
教えてしまった。
「やったわ! みてみてシラヌイ! 氷のお花よ!」
「おー…すごい…。まさかここまでとは…」
「シラヌイの教え方がよかったのよ! 私の魔法の先生なんて全然だもの。
私が魔法を失敗したら『エルフのくせにどうしてこの程度もできないのか』なんて言うのよ!?
アンタの教え方が悪いのよあんの耄碌ジジィ!」
「耄碌ジジィ? だれそれ?」
「宮廷魔導師次席よ。ほんっとやな奴なのよ」
「へー…。じゃ僕が教えてあげるよ。これでも中級魔法まではお母様とボーデンに習ってるんだ。
ついでだから錬金術も教えてあげる」
シラヌイは魔法で両手いっぱいの砂利を集めた。
「今なら、あのときより上手にできるかな」
すぅ、とシラヌイが深呼吸する。
「リゾルブクォーツ。シェイプシフトトゥバングル。
ストラクチャートランストゥクリスタル」
シラヌイの手の中の砂利…石英は形を失い光に溶けた後にリング状に成形された。
光が収まると、そこには複雑な紋様が描かれた透明な腕輪があった。
それも、二つ。
「はいこれ」
「?」
「プレゼント兼錬金術の見本。これを自分で作れるくらいまでなら僕が教えてあげられるよ。
どうする?」
「やってみたいけど、お母様が良いって言うかしら…」
「大丈夫じゃないかな? 言い訳としては僕と一緒に宮廷魔導師と国家錬金術師の授業を受けるって名目にしときなよ。
なんなら僕がお婆様に言っとこうか?」
「大丈夫なの?」
「さぁ?」
「さぁって…曖昧ね」
「曖昧さは大事だよ。まぁ、お婆様経由で国王陛下に言ってみよう。
どうやら僕の家はかなり偉いらしいからね」
シラヌイがクーコの手を取り、バングルをつける。
「うん。似合ってる似合ってる。じゃ、いこっかクーちゃん」
シラヌイはバングルを着けた後、クーコの手を引いて歩き出した。
「あぅ…………」
同年代の異性に手を握られ、クーコは顔を赤くする。
ませている、というよりは母と祖母の教育のせいであろう。
シラヌイは迷う事なく中庭からタマモの執務室までたどり着いた。
途中会った使用人や貴族達はクーコの姿とシラヌイの黄金の耳と尻尾を見るなり最敬礼をし、咎める者は居なかった。
シラヌイがドアを指で叩く、ドアノッカーはあるが、シラヌイでは手が届かないのだ。
「お婆様、シラヌイです。一つお願いがあって参りました」
「おお! シラヌイ! はよう入れ!」
シラヌイが背を伸ばし、ドアノブを捻る。
そこは西洋式の城には似合わぬ和室だった。
タマモはその中央に卓を置き、座布団に正座して書類を処理していた。
「おや、クー、どうしたのじゃ?」
タマモはシラヌイの後ろのクーコを見て尋ねた。
「お婆様、僕の魔法の勉強にクーちゃんも加えてあげたいんです」
「ふむ…儂は構わんが……。ツェツィーリアとトレーネに聞いてみるかのぅ…。
待っておれ、儂が聞いてくるでな」
タマモが立ち上がり、豊満な胸と飛び込みたくなる尻尾が揺れる。
「書類には触るなよシラヌイ、クー。あとクー、この部屋に入るなら靴を脱ぐんじゃ」
「はい、タマモ様」
二人が靴を脱いで和室に入る。
「座布団はそこの押し入れに入っておる。使うなら勝手に出せ」
そう言ってタマモは二人を部屋に残して出ていった。
「シラヌイ、尻尾触らせてちょうだい」
「んー…クッション出すから待って」
シラヌイは指示された押し入れを開け、座布団を取り出す。
「変わったクッションね」
「コレは座布団っていう物で、この畳の部屋専用のクッションだよ。
あとウィットに富んだ発言で数が増えて十枚集めると景品があるよ」
「?」
「遠い国の祭りのイベントだよ」
シラヌイは座布団を二つ並べて置いた。
「アニマ……あれ、フォクシネイトだっけ? まぁどっちでもいいや。アニマライズ」
シラヌイは座布団の上で子狐になり丸くなった。
「きゅー」
「触ってもいいのよね?」
「きゅ!」
クーコは隣の座布団に座ると、シラヌイの大きな尻尾を触り始めた。
モフモフモフモフモフモフモフモフ……。
四半刻程でタマモが戻ってきた。
「シラヌイー、クー。ツェツィーリアとトレーネに話をつけて……なんじゃ寝ておるのか」
タマモが眠る二人の傍に腰をおろす。
「小さいのぅ…」
クーコはシラヌイを抱くようにして、座布団二枚の上に寝ていた。
タマモの手がクーコの銀髪をすく。
「ふむ……」
タマモがシラヌイの額を指でトンと突いた。
シラヌイの獣化が強制解除され、クーコの腕の中に収まる。
「うむ。これはこれでいいのぅ」
銀髪と金髪。
褐色と純白。
揃えたように対照的だ。
「ふむ…」
タマモがシラヌイとクーコの耳に触れる。
ケモミミとエルフ耳だ。
「うきゅぅ………」
「んぅ……」
「無防備よなぁ…」
そう言いながら、タマモは優しく微笑んでいた。
その顔は、かつて傾国と謳われた『女』のそれではなかった。
もっと、優しく、慈しむような。
そう、それはまるで……。
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