許されない罪、救われる心
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112部分:第十一話 迎えその一
第十一話 迎えその一
第十一話 迎え
入院した如月は暫く意識を失っていた。しかしである。
入院して三日後に目を覚ました。目を覚ましたその場所は白い病室だった。何もかもが白くその中央に彼女がいるベッドが置かれている。
その中で目を覚ましてだ。最初に思ったことは。
「・・・・・・生きてるのね」
このことに気付いたのである。そしてだった。
起き上がろうとする。だが。
すると全身に鈍いが強い痛みが走った。特に後頭部にだ。
「痛っ・・・・・・」
この時に何が起こったのか思い出した。雨の夜の公園で襲撃を受けたその時のことをだ。思い出したのだ。
「あの時・・・・・・」
その痛みで自分のことにも思いを巡らせてだ。そして呟いた。
「死んでれば」
こう思わざるを得なかった。もう生きていることに疲れていた。
その彼女のところにだ。誰かが来た。
白いナース服の看護士だった。若い女だ。黒髪を後ろで束ねアップにしている。細くはっきりとした眉に優しげな目をしており唇はやや大きい。背は高くすらりとしている。その彼女が如月が今いる部屋に来たのだ。
そしてだ。ベッドから何とか起き上がっている彼女を見て言った。
「あら、目を覚ましたのね」
「ここ、病院ですよね」
「ええ、そうよ」
その通りだとの返答だった。
「貴女入院しているのよ」
「そうなんですか」
「それにしてもよかったわね」
看護士はにこりと笑って如月にまた言ってきた。
「目を覚まして」
「そうですか・・・・・・」
如月はその看護士の言葉に俯いて力なく応えた。
「目を覚まして」
「生きていても」
「生きていればいいことがあるわよ」
看護士は如月にそれ以上言わせなかった。
「絶対にね」
「はあ」
「それでだけれどね」
「それで・・・・・・」
「お粥持って来るわね」
次に話したのはこれだった。
「お粥をね」
「食べ物ですか」
「だって。三日間ずっと意識を失っていたのよ」
看護士もまたこのことを話すのだった。
「点滴は打ってたけれどね」
「これですか」
言われてはじめて気付いた。今自分の右手に点滴がある。そしてそこから何かが送られてきている。それを見ながら看護士に話す。
「そうなんですか」
「そうよ。食べるのが一番よ」
「食べたら」
「勿論元気になるわ」
まずはこう言う看護士だった。
「それで起きれるようになるし」
「起きれるように」
「早く退院しましょう」
看護士の声だけが明るい。沈みきっている如月とは対象的に。
「そうしましょう」
「退院しても」
「そんなこと言わないでね。そうね」
「はい・・・・・・」
「他に何かいるかしら」
今度はこんなことを言ってきたのである。
「それで」
「別に」
如月は俯いて返した。
「何もいりません」
「いらないのね」
「あの」
俯いて顔を向けないが。それでも問うた。
「私、一体どうなったんですか」
「入院してるんだけれど」
看護士が答えたのはこういうものだった。
「それがどうかしたの?」
「あの時公園で襲われて」
「凄い怪我だったのよ。もうね」
「そうなんですか」
「けれど幸い命に別状はなかったわ」
それはだというのだ。
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