永遠の謎
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74部分:第五話 喜びて我等はその十二
第五話 喜びて我等はその十二
そのうえでだ。彼はこう言った。
「だが。思った以上にだ」
「彼は反発を受けています」
「それも深刻なものになろうとしています」
「それがどうなるでしょうか」
「これから」
「破局だな」
ビスマルクは一言で述べた。
「これはだ」
「破局ですか」
「そうなるというのですか」
「結果は」
「バイエルン王にとっては残念なことだが」
ビスマルクの言葉に同情が宿っていた。その厳しい顔にも同じものが宿っていた。そうしてそのうえで言葉を出すのであった。
「このままいけばだ」
「破局なのですか」
「そして結果として、ですか」
「バイエルン王とワーグナー氏は」
「そうなると」
「人は出会い別れる」
ビスマルクはまた述べた。
「それが人生というものだ」
「確かに。人生はそうです」
「出会いと別れのものです」
「生まれてから死ぬまで」
「その二つが常に向こうからやって来るものですね」
「つまりは」
「その通りだ。ただ」
ここでだ。ビスマルクはミュンヘンの方をちらりと見てだ。王について話した。ここでの王は彼が仕えるプロイセン王ではなく異国のバイエルン王だ。
「あの方がそれに耐えられるか」
「別れに」
「それに」
「繊細な方だ。触ればそれで折れてしまうかの様に」
バイエルン王のことを話していく。
「そうした方だから」
「ワーグナー氏と別れるとなると」
「それでどうなるか」
「あの方のことを理解するべきだ」
ビスマルクは言った。
「宮廷の者達もミュンヘンの者達もだ」
「では理解すれば」
「どうせよというのでしょうか、彼等は」
「一体」
「王の考えを受け入れるべきだ」
そうだというのであった。
「是非な」
「左様ですか」
「それではですか」
「ワーグナー氏はあのままミュンヘンに」
「そうするべきなのですね」
「些細なことだ」
ビスマルクはこうも述べた。
「実にな。一人の芸術家のその贅沢や女性関係なぞは」
「それよりもその芸術家がもたらす芸術ですね」
「それなのですね」
「そうだ、それだ」
まさしくそれだというのである。
「芸術の前にはだ」
「その者の行いなぞ」
「些細なのですね」
「芸術はそれだけ尊いものだ」
ビスマルクは言うのだった。
「それは永遠に残り」
「永遠にですね」
「歴史に」
「その通りだ。人の歴史に永遠に残る」
まさにそうだというのである。これがビスマルクの言葉だった。
「その心にもだ。特にワーグナーはだ」
「ワーグナーはですか」
「とりわけなのですね」
「その通りだ。モーツァルトやベートーベンに匹敵する」
そこまでだとだ。ビスマルクもまたワーグナーを高く評価していたのだ。
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