魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第21-1話 新年魔法大会【スピードボード 其の三】
前書き
レンside
「こっちゃん避けてッ!!」
青藍さんの鋭い叫びに、琴葉が後ろを振り返り、即座に魔法を放った。固定魔法を無効化する魔法だ。
それにより、青藍さんの脚とボードは離れ、ボードは壁にぶつかって勢いを止める。青藍さんは、勢いのまま琴葉に突っ込んだ。
琴葉の方も固定魔法を解除したようで、ボードだけが水面に残っている。
会場がシンと静まり返った。
が、看守達は苦しそうな表情をしながらも、前進を続けた。きっと、止まってはいけないのだろう。
ミオウですらもマイクを持つ手に力が入らないようで、マイクを落とす。
今、何が…………琴葉は? 青藍さんはどうなった―――
「…………ってぇ……」
「……あー、びっくりした」
小さくそんな声が聞こえて、会場は一瞬で盛り上がりを取り戻した。
次の時には、琴葉と青藍さんが、壁に腰を掛けていた。
だが、そのタイミングで看守達がゴールしていた。
「あー……ごめんねー、こっちゃん。俺のせいで」
「いや、別に大丈夫。まだ負けたわけじゃ無いじゃん?」
青藍さんが目を丸くする中、琴葉がニヤリと笑うと、青藍さんの手を取って、ボードの近くに寄る。
「最高速度で勝ってやるよ」
琴葉は素早くボードに乗る。
「美桜ちゃーん! 水に浸かってないからセーフだよねー?」
「せ、セーフでぇえええええす!!」
「じゃあ……海斗! 先に行ってるから!!」
悪戯っ子の様に笑った琴葉は、高らかに叫んだ。
「『エクスプロージョン』ッッッッ!!!!」
◆ ◆ ◆
「第二種目結果は、一位は四舎、神白冬也!! 二位は二舎、橙条雅人!! 三位は一舎、黒華琴葉!! 四位は三舎、青藍海斗!! 五位は六舎、緑山葉!! 六位は五舎、柴田夕!! 七位は九舎、黄瀬輝!! 八位は七舎、桃瀬春となったぜッ!! っつーことで、現在合計得点七位、八位の九舎と七舎はここで脱落だぜ! ゴメンねぇええ!!」
ミオウも元のテンションを取り戻し、会場も元―――より高いかもしれないくらい―――のテンションに包まれていた。
「現在合計得点順は、第二種目結果と全く一緒だぜっ!」
だが、一舎の選手はそんな事は無かった。
「ごめん……順位落としちゃった」
目の前には申し訳なさそうに俯いている琴葉。まだボードも持った状態だ。
俺達がかなり燃えていたことを知っていて、かなり真剣に謝っているのだろう。
だが、その雰囲気は―――
「琴葉ちゃん、顔上げてよ」
グレースに全て持って行かれた。
「琴葉ちゃんはあの三舎の看守さんを助けただけじゃん。悪いことはしてないんだから、自分を責める必要無いよ。琴葉ちゃんが居なかったら、あの青藍って人、死んでたかも知れないんだし」
泣きそうになっている琴葉に、グレースは視線を合わせて笑いかけた。……変態担当が、イケメンして―――
「……ありがと。でも、子供扱いするな」
「あはは、可愛いねぇ! 照れ隠しぃ!? ごっふぁ」
「ううううるさい! 雰囲気ぶち壊しだわ!!」
「……待って、なんで殴ったの…………」
た時期があった。今は琴葉に脇腹を殴られて、脇腹を抑えながら蹲っている。
要が一度苦笑を浮かべてから、ポケットを漁る。そして、取り出したのは絆創膏だった。
「ココ、血でてる」
琴葉の二の腕を指しながら、要は琴葉の腕を持ち上げて、血が出ている箇所に絆創膏を貼る。そして、躊躇いも無くその上にキスをした。
「なっ!」
「よく頑張ったね、琴葉」
そして、軽く頭を撫でた。琴葉は林檎のように顔を赤くして照れている。
琴葉、そんな顔も出来るんだな。
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