永遠の謎
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649部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその二十六
第三十六話 大きな薪を積み上げその二十六
一人静かに待っていた。その王の前にだ。
彼等が来た。グッデンもいる。その彼等がだ。玉座の前に来て恭しく一礼してからだ。そのうえでこう告げたのである。
「陛下、宜しいでしょうか」
「お話したいことがあります」
既に退位が発表されている。しかしだ。
それでも王は王だ。彼等も礼を忘れてはいない。
それが為に一礼してからだ。こう王に話したのである。
グッデンが前に出てだ。そのうえで王に言ったのである。
「私の人生の中で最も辛いことを申し上げます」
「それは何でしょうか」
わかってはいてもだ。問う王だった。
「一体」
「陛下はパラノイヤと診断されました」
真実を偽りだ。王に告げたのである。
「それが為に一年と一日の間公務ができず」
そしてだった。
「完治されることもありませんので」
「私が病にあるというのですね」
「そうです。御心が」
「そうですか。だから私は退位するのですね」
「残念なことに」
「わかりました」
王はグッデンの言葉に玉座から頷いた。
そしてそのうえでだ。こうその彼に問うたのである。
「ではです」
「何でしょうか」
「誰も私に会っていません」
王が問うたのは真実についてだった。
これはその通りだった。まさに今王の前にいる誰も王に会っていない。いや、この世にいる殆どの者が王に会っていない。これが真実だった。
その真実からだ。王は問うたのである。
「それでどうして私が狂っているとわかるのでしょうか」
「そのことについてですが」
「何故わかったのですか」
「直接診察するまでもありませんでした」
視線を何とか泳がせまいとしながらだ。グッデンは答えた。
「だからです」
「それでなのですか」
「そうです。お話は聞いています」
「わかりました。ではどの程度でしょうか」
王はグッデンの嘘、他の者達の嘘をわかっていた。しかしだ。
それは隠してだ。グッデンにさらに問うたのである。
「私が治療を受けるのは」
「はい、それはですが」
何時までなのか。グッデンはこのことには答えられた。
それは何時までなのかとだ。王に答えたのである。
「一年と少しになります」
「そうですか。一年とですか」
「はい、少しです」
退位に必要な時と重なっていた。それが口実なのだから当然だった。
王はこのことも当然としてわかっている。しかしだ。
このことについてもだ。王は問わずにだ。今度はこう言ったのである。
「わかりました。しかし一年ですか」
「完治は見込めませんがそれだけあればかなりよくなりますので」
「それだけ時はかからないでしょう」
王の言葉はその時に関するものだった。そうした意味ではグッデンと同じだ。しかしだ。
王は言った。その考えを。
「私が去るのは間も無くですから」
「あの、くれぐれも申し上げます」
グッデンは王の今の言葉に暗殺を疑われていると考えた。それでだ。
すぐにだ。身をやや乗り出してそのことを否定したのである。
「我々はあくまで陛下のことを考えてです」
「身の安全はというのですね」
「それをどうして害するのでしょうか」
このことは誰もが保障できた。ルッツやホルンシュタインでさえもだ。
だからこそ言ったのである。しかしだ。
王はだ。王と他に僅かな者だけがわかることをだ。今言ったのである。
「間も無く私の旅は終わるのですから」
「旅行も一年の後でしたら」
「そういうことだと思われますか」
「違うのでしょうか」
「いえ、そう思われているのなら構いません」
グッデンにも今自分の前にいる誰にもわからないことだとわかっているからこそ。王はこう述べた。
そしてだった。グッデン達に静かに述べた。
「では馬車を用意して下さい」
「それは既にできています」
「今にでも出発できます」
彼等は王に即答した。
「では馬車に乗って頂けますか」
「そうして頂けるのですね」
「はい」
暴れることはしなかった。最初からそのつもりはなかった。
しかしだ。その行く先は尋ねたのだった。
「それで何処に向かうのでしょうか」
「シュタルンベルク湖です」
そこだと。グッデンが答える。
「その湖のほとりの城にです」
「私は入るのですね」
「そこで私が診察させて頂きます」
「わかりました。それではです」
「今からそちらに向かいましょう」
こう話をしてだった。王は玉座から立った。
そしてそのうえでだ。グッデン達に周りを囲まれてだ。
それから部屋を後にして城を後にする。その動きはあくまで静かで気品があった。王であるのに相応しいその身のこなしでだ。王は今この世の玉座から降りたのである。
第三十六話 完
2011・12・14
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