永遠の謎
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
639部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその十六
第三十六話 大きな薪を積み上げその十六
「バイエルン王のことばかりに目がいきです」
「我々やオーストリア皇后の動きには気付いていません」
「人は一つのことに神経を集中させると他のことには気付かない」
人のそうした特性をだ。ビスマルクは熟知していた。
そしてそのことからだ。今自分の周りにいる側近達に話したのである。
「そこが狙い目だ」
「彼等が気付かないうちにですね
「打つべき手は全て打っておく」
「そうしてそのうえで」
「計画を成功させる」
ビスマルクは強い声で言い切った。
「今回の計画をだ」
「バイエルン王を。オーストリア皇后と協力してお救いして」
「そのうえで、ですね」
「バイエルンからお連れできれば我等の勝ちだ」
ビスマルクはまた言い切る。その厳しい顔に確かなものを宿らせて。
「後はオーストリアに入って頂くなり何なりしてだ」
「バイエルン側の陰謀を暴く」
「そうされるのですね」
「そしてそのうえで」
「あの方にはバイエルン王に留まって頂く」
強くだ。ビスマルクは王の在位を支持する言葉を出した。
「是非共な」
「そしてその為にもですね」
「まずはあの方をお救いする」
「そうされますか」
「そういうことだ。既に舞台ははじまっている」
王を救い出すだ。その舞台がだというのだ。
「あの方は。王でなければならないのだ」
「あの国の、ですね」
「バイエルンの」
「これからもまた」
「いや、王はこの世にだけあるものではない」
ビスマルクはその目に見えているものを話した。
「モンサルヴァートもある」
「パルジファルのですか」
「あの作品で描かれていた」
「あの城の玉座ですか」
「あの方はパルジファルなのだ」
ワーグナーが言っていたことをそのままだ。ビスマルクも言うのだった。
そのうえでだ。躊躇を、彼にとっては非常に珍しいそれを微かに見せてだった。
そうしてだ。彼は今言ったのである。
「聖杯城の主なのだ」
「しかしあの城はこの世にはありませんが」
側近の一人が話す。
「それでもなのですか」
「世界は一つではない」
この世だけではないというのである。
「だからだ。あの方はだ」
「聖杯城の主となられる」
「そうなられると」
「私はあの方をお救いしたい」
その望みは確かだった。しかしそれと共にだった。
「だが。それが正しいのかどうかはだ」
「わからない」
「そうだというのですか」
「あの方はドイツにとって素晴らしい宝だ」
この考えは変わらなかった。彼がまだ太子である王と会ったその時からだ。
「掛け替えのないな」
「だからこそお救いするのですね」
「閣下も」
「その通りだ。財政問題なぞ何ということはないのだ」
ドイツの宝という視点から見て考えてだ。ビスマルクは話した。
「そんなものはドイツ全体で援助できるものだ」
「バイエルン国内で駄目ならば」
「そうできますか」
「芸術には予算なぞ関係ない」
ビスマルクは言い切った。こうだ。
ページ上へ戻る