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永遠の謎

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627部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその四


第三十六話 大きな薪を積み上げその四

「ですから偽りの診断をすることは気が進みませんが」
「ですがそれでもです」
「このままでは」
「わかっています」
 グッデンは溜息と共に会議の参加者達の切実な言葉に応えた。
「私もまたバイエルンの者ですから」
「だからお願いです。是非です」
「ここはバイエルンの為に」
「偽りの診断を公表する」
 また溜息と共に言うグッデンだった。
「そうさせてもらいます」
「それでなのですが」
 ルッツは憂慮する顔でグッデンに尋ねる。その尋ねることは。
「オットー様はどうなのでしょうか」
「相変わらずです」
 グッデンは悲しい顔で首を横に振って答えた。
「とても外には」
「そうなのですか」
「あの方を王にされることは進められません」
 医師としてだ。こう言ったのである。
「ですがそれでもですね」
「はい、そうです」
「今のままではバイエルンは」
「私は正直に言わせてもらいます」
 医師としての良心からだ。グッデンはまた言うのだった。
「陛下は。直接御会いしていませんが」
「狂気には陥ってはおられない」
「そうだというのですね」
「はい、あの方は正常です」
 こう言いきったのである。
「確かに多少鬱だと思いますが」
「それは心の病ではないのですか?」
 ホルンシュタインは身を乗り出してグッデンに問うた。
「鬱というのか」
「そうかも知れませんが王位に支障はありません」 
 それはないというのだ。
「決してです」
「ではそれは理由にはなりませんか」
「とてもです。ただ」
 ここでだ。グッデンは目を伏せて言うのだった。
「あの方は何かを求めておられるのでしょうか」
「何か?」
「何かとは」
「子供がおもちゃを、いえ女性が恋人を求める様な」
 ロマンを。彼はふと感じたのである。
「そうしたものでしょうか」
「ではそのロマンでバイエルンが傾いている」
「そうなるのでしょうか」
「私の専門は医学です」
 グッデンは難しい顔で話す。
「そうしたことは詳しくはないので」
「はっきりとは言えませんか」
「左様ですか」
「申し訳ありませんが。しかしです」
 グッデンは一旦顔をあげた。そして言うのだった。
「私は陛下に関する全ての話は事実無根であり陛下は正常であると確信しています。しかしそれを認めればバイエルンは傾くままです」
「では是非共」
「お願いします」
「わかりました。バイエルンの為の診察をします」
 患者を診ない、その診察をだというのだ。
「ではこれよりはじめます」
「ただ。お断りしておきますが」
 ルッツも誰もがだ。このことは真剣に述べた。
「我々は陛下に悪意はありません」
「退位は考えていますがお身体を害することはあってはなりません」
「そのことはご理解下さい」
「わかっています」
 それはグッデンも承知していた。しかしだった。
 
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