永遠の謎
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604部分:第三十五話 葬送行進曲その三
第三十五話 葬送行進曲その三
「窮地にはお助けさせてもらう」
「そこまでされますか」
「あの方の為に」
「あの方はドイツの財産なのだから。それに私自身」
「閣下ご自身」
「となりますと」
「あの方が好きだ」
彼自身の好意もあった。ここでは私情も入れていた。
「公の意味もあるが私自身あの方を敬愛しているのだ」
「その意味でもお助けしたい」
「そうだったのですか」
「バイエルンの宮廷も内閣も何もわかっていない」
ビスマルクは今度はいささか軽蔑する様に述べた。
「あの方を止めるべきではない」
「ドイツの偉大な財産を残されるから」
「それが為に」
「まことに残念に思う」
心からの悔やみの言葉も出た。冷徹な筈のビスマルクの口から。
「あの方を理解できる者の少なさをな」
「今はですか」
「そうだというのですね」
「同じ時代にあっては見られることは少ないのだ」
現在ならばだというのだ。同じ時代にいると余計にだと。
「それは神が仕掛けた罠だ」
「ものを見えなくする」
「そうしたものですか」
「そうだ。あの方についても同じだ」
ビスマルクは今度は感嘆した。そうしてだった。
「それが為にあの方が不幸になるとすればそれこそが不幸だ」
「ドイツにとってですか」
「この国にとって」
「私は確信している。あの方は後世においてこそ讃えられる」
深い叡智があった。ビスマルクのその目には。
「偉大な芸術を残され何処までも純粋だった方としてな」
こう言ってなのだった。彼は王のことを考えていた。そこには悪意も冷徹もなくだ。ただ王への想いだけがあった。彼もまたその純粋さを持っていたのだ。
ワーグナーが死にだ。王はというと。
以前よりもさらに深い憂いに包まれる様になっていた。それでだ。
ホルニヒにだ。こう言われてもだった。
「陛下、裁決を求める文が来ていますが」
「いい」
首を横に振ってだ。こう応えるだけだった。
「それはいいのだ」
「ですがこれは」
「最早私にはどうでもいいものだ」
こうだ。厭世観と共に言うのである。
「昼の世界のことは」
「ではこの文も」
「そうだ。内閣に返してくれ」
これがその文に対する王の返答だった。
「それもな」
「わかりました。それでは」
「私のやるべきことは昼にはない」
何処までもだ。昼に憂いを感じる様になっていた。
「それは夜にこそあるのだから」
「では築城をですか」
「もう一つ築きたいのだが」
憂いの中に考えるものを見せての言葉だった。
「そう。新しいものをだ」
「そうされますか」
「そうだ。既に三つ築いている」
問題となっているその城達のことに他ならない。
「しかしそれをさらにだ」
「築かれますか」
「そうする。それではだ」
こう言ってだった。王は築城計画を進めることにした。その中の日々はだ。
ふとだ。森に出てだ。急に樵達の前に出ることもあった。
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