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永遠の謎

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567部分:第三十三話 星はあらたにその十二


第三十三話 星はあらたにその十二

「何としても」
「そしてワーグナー氏の芸術と共にですか」
「私は空を飛びたい」
 この時は幻想としか思えないことをだ。王は現実として話す。
「ワルキューレとはまた違いだ」
「ワルキューレとは違うのですか」
「彼女達は華麗だが血生臭い」
 戦いで死んだ者達を運ぶ彼女達はだというのだ。
「その彼女達とはまた違う芸術だ」 
「ワーグナー氏のそれを」
「共に空に飛びたい」
 こうしたことを言ってだ。王は空にも夢を見ていた。そしてだ。
 その夢を抱きながらだ。バイロイトのこけら落とし、ニーベルングの指輪を最後まで観ることも考えてだ。そのうえでその時を待つのだった。
 そして遂にだった。王にその時が来たのだった。
 鉄道、バイロイトに向かう鉄道の中でだ。金と青で彩られ豪奢な装飾と絵画に覆われた車両の中でだ。ロココをイメージしたソファーに座りつつだ。侍従達に述べていた。
 その手にはグラスがあり紅の美酒もある。その美酒を飲みながらだ。
 王はだ。期待する声を出したのだった。
「待ち焦がれていました」
「ジークフリート、そして神々の黄昏ですね」
「その上演をですね」
「御覧になられることを」
「はい、そうです」
 まさにそうだとだ。王はワインを飲みながら話す。
「その通りです」
「既にあらすじは知っていましたし」
「楽譜もでしたね」
「持っておられましたね」
「どういったものかは目ではわかっていました」
 脚本等はだ。わかっていたというのだ。
「ですが。心ではです」
「心では」
「といいますと」
「心で観てはいません」
 それはまだだというのだ。
「ですから。心で観るそのことがです」
「楽しみなのですね」
「今から」
「バイロイト。そこは私の国にありますが」
 それは確かだった。紛れもなくバイエルンの中にある町だ。 
 しかしそれでもだった。その町は。
「確かワーグナー以外は何もない筈です」
「そうです。バイロイトはです」
「あの町は静かな町です」
「ただ静かなだけの町です」
「そうです。そうした町だと私も聞いています」
 そのバイロイトの主としてだ。王もそのことは知っていた。
 だからこそだ。ここでこう言うのだった。
「本当に願わくばです」
「ミュンヘンにですね」
「ミュンヘンにワーグナー氏の歌劇場を築いて頂きたかった」
「そうですね」
「しかしミュンヘンは彼を拒みました」
 これが現実だった。王は愛したが町、そしてそこにいる者達は拒んだのだ。
「だからこそバイロイトになったのです」
「ワーグナー氏は既にあの町に住んでおられます」
「ヴァンフリートという邸宅も設けられました」
「そこでジークフリート牧歌という曲も作曲されています」
「ジークフリート、息子ですね」 
 その名前を聞くとだ。王は自然にこう呟いた。
「彼の息子ですね」
「はい、御子息ですね」
「氏の三番目のお子様であり唯一の御子息」
「そのジークフリート君ですね」
「彼だけではありません」
 その彼だけではないというのだ。ワーグナーの息子は。
「歌劇のあの主人公です」
「これから上演されるジークフリートの」
「その主人公ですか」
「彼のことでもあります」
 現実と幻想がだ。ここでも一つになっていた。
 そしてだ。その一つになった中でだ。王は話すのだった。
 
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