永遠の謎
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558部分:第三十三話 星はあらたにその三
第三十三話 星はあらたにその三
「多くの者にそのことが理解されないだけなのだ」
「そしてそれがですか」
「狂気と思われるのだ」
そうだというのだ。人は理解できないものを狂気と言う。王はそのことを知っていた。そしてそのうえでだ。王はだ。さらに暗いになりだ。
そのうえでだ。彼のことを言ったのだった。
「だが。オットーは」
「殿下は」
「あの者は本当にそうなっている」
このうえなく暗い顔になりだ。弟のことを話すのだった。
「最早助けられない」
「公爵様も常に心配されているそうですね」
「叔父上だな」
「はい、あの方も」
「叔父上は心優しい方だ」
王に対してもだ。公爵はそうした人物だ。
その公爵だからこそだとだ。王は語る。
「オットーに対してもだ」
「ですがあの方は」
「それすらもわからなくなってきている」
真の狂気に陥っているが故にだ。そうなっているというのだ。
「そして私のことすらもだ」
「陛下のことも」
「この世で唯一の兄弟だというのに」
その兄のこともだ。彼はわからなくなってきているのだった。
「酷くなる一方だ」
「殿下は」
「オットーは我が家の原罪を背負ってしまった」
王は顔をあげた。そうして深い嘆きと共に述べた。
「我が家の長い歴史の中の罪をだ」
「罪、それは」
「我が家も多くの罪を犯してきている」
キリスト教的考えだった。実際はキリストにより清められているのだがキリスト教徒達にはこの考えが強い。教会がそう教えているからだ。
そしてその原罪がだ。全て彼に入ってしまったというのだ。
「オットーはその生贄となってしまった」
「だからこその狂気なのですか」
「そして私も」
王は自身の弟からだ。自身のことも考えていった。
「実はそうなのかも知れない」
「いえ、それは」
「私もまた狂っているのかも知れない」
こう言うのだった。
「だからこそ女性を愛せず」
王は知らなかった。自身の心を。だからそこの言葉だった。
「そして人を拒み。こうしたことを続けているのだ」
「陛下、そのことは」
「考えるべきではないか」
「はい」
そうだとだ。ホルニヒはあえて穏やかな声で告げる。
「そうされるべきです」
「では今は」
「もうすぐ開幕です」
そしてそれにだというのだ。
「ですから」
「わかった。では舞台に専念しよう」
王もだ。彼の言葉に頷くことにした。そうしてだ。
幕が開き王はその舞台を観た。それはロココ、フランスのそれだった。王が作らせたその劇を観てからだ。こうホルニヒに対して尋ねたのだった。
「あの主演の俳優だが」
「あの若い俳優ですか」
「いい演技をする」
まずはその演技を褒めてだった。
「それに顔立ちもいい。あれは誰だ」
「はい、ヨーゼフ=カインツといいます」
「カインツというのか」
王はその若い美男の俳優を観ながら呟く。今はカーテンコールだった。王だけに向けられているカーテンコールを観ながらの言葉である。
「そうか。わかった」
「それではですね」
「贈りものをしたい」
カインツを観ながらまた言うのだった。
「そうしたい」
「ではすぐにですね」
「そうだ。頼んだぞ」
「わかりました。それでは」
こう応えてだった。ホルニヒは王の傍から退くのだった。その舞台では。
王が注目したそのカインツがだ。こう周囲に漏らしていた。ロココの舞台衣装のままでだ。周囲にこう話していたのである。
「何度演じてもです」
「この舞台には慣れないか」
「そうなんだな」
「はい、何かぞっとします」
こう言うのだった。そうしてだ。
ロイヤルボックスの方を見てだ。今度は問うたのだった。
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