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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第187話「抉られる心」

 
前書き
ちょっと時間が跳んで件の政府との話し合い。
復興では作業だけしか描写する事がなかったので飛びます。
 

 






       =out side=









「結局は、貴方方の落ち度でしょう!」

「国民への被害の責任、どう取ってくれるんですか!?」

「そちらの事情をこちらに持ち込まないでいただきたい!」

 ……etc.etc.

 ……管理局を糾弾する、それらの言葉は、容赦なくなのは達の心を抉った。















 復興から一週間後、話で決まっていた通り、政府との会談が行われた。
 魔法や霊術をも用いた復興支援が効いたのか、電気設備も一部回復。
 テレビやラジオを通して生放送となっていた。

「…………」

 そして、その会談では管理局の素性説明や、今回の経緯。
 他にも軽い事情を説明してから話し合いが行われた。
 ちなみに、退魔師についても軽く触れられてはいた。
 ……そこからの、糾弾の声だった。

「……懸念が、当たってしまったわね」

「………うん」

 アリサが小さく呟き、すずかがそれに同意する。
 話し合いの主役として出ているのは、リンディやレティ、クロノと言った責任のある立場の人物ばかりで、なのはやフェイトと言った、いつものメンバーは、会談場所に行かずに生放送を見るだけだった。

「優輝や椿、葵はあの場で直に聞かされて大丈夫かな……?」

「あの三人なら、耐えてくれそうだけどね……」

「むしろ、問題なのはなのはちゃんとかの方だよね……」

 椿と葵は、式姫の代表として。
 優輝は魔導師と陰陽師を兼ね、戦闘で中心だったために会談に出席していた。
 覚悟できていたアリシア達は、何とか耐えていた。
 司や奏も、優輝や椿からその予想を聞かされていたため、大丈夫だった。
 しかし、なのはやフェイトのように、まだ子供で予測していなかったメンバーは、心を大きく抉られたように、俯いて沈黙していた。

「……遅かったようですね……」

「あれ?リニス?確かまだやる事があるんじゃ……」

「急いで終わらせてきました……と言いたいですが、プレシアが私の分まで引き受けてくれました。……それでも、間に合いませんでしたが」

 そこへリニスがやって来た。
 リニスはアースラで他にやる事があったのだが、プレシアが肩代わりした事でここに来る事が出来たようだ。
 アリシアが比較的無事だった事には安堵したリニスだが、フェイトを見て間に合わなかったとばかりに顔を顰めていた。

「……やっぱり、予想できたの?」

「今朝、司から不安な感情が少し伝わった事で、予測出来ました。……ただ、気づくのが遅かった上に、司はともかくフェイトが……」

 今朝……それは、すずかが懸念した時と同じくして、優輝と共にいた司と奏がすずかと同じことを懸念したタイミングだった。
 その時の不安な気持ちが使い魔のパスを通じてリニスに伝わったのだ。

「あれ?でも、それだったらママの方が来るんじゃないの?」

「プレシアは……今のフェイトを見ると自分でも何をしでかすか分からないと考え、私に任せる事にしました」

「あ、プレシアさんもちゃんと考えてたんだ」

「(自制したとはいえ、それはちゃんと考えたと言えるのかな……?)」

 むしろ、ちゃんと考えられなくなるためにリニスに任せた訳なのだが、そこを突っ込むのは野暮だろうと考え、アリシアはそんな思いを心に仕舞っておいた。

「……ねぇ、リニスは……私達の扱い、どうなると思う?」

「希望を混ぜた推測でしか語れませんが……何とかなりますよ。あの場で受け答えしている人達は、皆優秀ですから」

「……そう、だね……」

 どことなく不安を残したまま、司はリニスの言葉に頷いた。











「想像以上に腹が立ったわ。何が起きていたか本当に理解しているのかしら?」

「戻って開口一番にそれか。いや、気持ちは分かるんだが」

 今回は素性と事情の説明のための会談だったため、一旦会談が終了する。
 用意された部屋に戻った直後、椿が苛立ちを隠さずにそう言った。

「一言目にどう責任を取るか。二言目も、その次も。……もっと別に言う事があるでしょうに!」

「責任を取ると言っても、その先に話が進まなかったな……」

 どう返答しても同じような事ばかり。
 その事に椿は苛立っていたのだ。

「今回は事情と素性についてだ。責任問題などの本題はまた明日となっている。……その時になれば、事件の経緯がどんなものだったか向こうも理解するだろう」

「……感情が消えたとしても、今の言葉が建前な事ぐらいは読み取れるわよ」

「……ばれていたか」

 会談中もずっと黙っていた優輝が気休めの言葉を言うも、椿にすぐ看破される。

「あれは目の前の事実を受け止めようとしていない。妖に対しても、“得体の知れない化け物がいた”とまでしか認識しようとしていない。……何があったか、実際どんな存在だったか、その先へ踏み込もうとしていない」

「要するに現実を受け止めきれてないって訳ね」

「何度もニュースとかで見てたけど、なんでああいう立場の人は皆頭が固いんだろうね。これなら秋葉原とかの方がすぐ受け入れてくれるよ」

 自身は比較的安全地帯にいたため、実際にどんな惨状か見た訳ではない。
 それも受け止めようとしない要因の一つだろうと、優輝は考えていた。

「……まぁ、オタク文化の聖地と政府を比べてもな」

「何はともあれ、重要なのは明日だ。明日の会談で、僕らの扱いの方向性が定まってくる。……この分だと、碌な結果にならなさそうだけどな」

「随分弱気な発言ですね」

「仕方ないだろう。実際、次元犯罪者を捕まえきれずにここに追い込んでしまったのは管理局の落ち度だ。……殉職した彼の事を踏まえてもな」

 同席していた澄紀の言葉に、苦虫を噛み潰したような顔で返答するクロノ。

「何よりも、さっきの様子が全国に生放送されたんだ。……印象としては、悪い」

「“死人に口なし”とはこの事だね。責任は確かにあるけども、過剰にそれを彼に負わせて、尚且つ管理局にも責任を負わせている。実際に正しい事も併せて一般人には悪印象に映っただろうね」

「糾弾するのにちょうどいいと思ってそうね……いえ、むしろ……」

「……かやちゃんも気づいちゃった?」

 会話の途中で、椿は何かに気付いたように黙り込む。
 葵も同じ考えをしていたようだ。

「どうしたんだ?」

「……糾弾し、責任を取らせるその先……貴方達管理局の……いえ、次元世界の魔法技術を取り入れる事が目的……?」

「……何ですって……?」

 その気づいた事を呟いたのが聞こえたのか、リンディが聞き返してきた。

「ただ糾弾するだけとは思えないのよ。むしろ、そうやって責任を負わせ、その責任を利用して魔法技術を取り入れようと交渉してきてもおかしくないわ」

「……なるほどね……でも、一体どうして?」

 状況を利用して欲しい技術をいただく。
 交渉の内容としてはおかしくないとリンディは判断するが、理由は分からなかった。

「先に聞くけど、会談を行う前に、話を通すために魔法については教えたの?」

「ええ。一応は、デバイスと簡易的な魔法。基本的な概念は一通りね」

「……そういう事か。管理局にとっては当たり前の技術になっているが、地球からすれば魔法部分を抜いてもオーバーテクノロジーになる技術だ。……そんな技術を欲しがってもおかしくはないな」

「そういう事ね……」

 優輝が代わりに気付き、その言葉でリンディ達も納得する。

「大きな被害を被ったと言うのに、先に技術を求めるのか……?」

「利用できるものはしたいのでしょう。別に、何もおかしくないわよ。人間の中でも狡猾な性格なら普通に考え着くわ。実際、過去に何度か見てきてるしね」

「……長年生きてきた椿が言うと説得力が違うな……」

「褒めても何も出ないわよ。……それで、予想の域は出ないけど、もしそうだった場合どうするのかしら?」

 技術を提供するのかどうか。椿はそれをリンディ達に尋ねる。
 ちなみにだが、“何も出ない”と言いつつ嬉しいのか花は出ていたりする。

「……その場合、地球は管理世界に認定されるわ。最終的な判断は上層部によって決められるでしょうけど、私個人としては……どちらに転んでもあまり変わらないわ」

「リンディと意見は同じね。私も、あまり変わらないと思っているわ」

 リンディもレティも“気にしない”と答える。
 実際、管理局としてはあまり痛手ではないからだ。
 魔法技術を地球に提供したとしても、地球で魔法を扱えるのはごく僅かしかいない。そのために、技術を100%利用される事もない。
 むしろ、これからは地球で魔法を秘匿する必要がないという利点まであった。

「……まぁ、細かい事はそちらに任せるわ」

「いいのか?そのつもりがないとはいえ、上手く行かなければ君達にも今後の生活に大きな影響を与える事になるぞ?」

「そうでしょうね。でも、構わないわ」

 あっさりと、椿はそう言ってのけた。

「大体、さっきも言っていた通り向こうは今回の出来事を本当に理解できていないのよ」

「そうだねー。開いた発端は確かにロストロギアだけど、幽世の大門は元々日本にあったものだし、それも伝えたはずなんだけどねー」

 幽世の大門がなければ今回の事件は起きなかった。
 事実、解析した優輝以外誰も知らない事だが、パンドラの箱の効果範囲はそこまで広くない。大門があった位置が運悪く範囲内だっただけなのだ。

「向こうも責任云々で調子に乗らず、純粋に一般人の心配や支援を口にすればよかったのに。それを顧みずにこちらを利用出来そうだと企んじゃって」

「やっぱり、“良い人間”が偶然身近に集まってただけなんだね」

 呆れたようにそんな事を口にする椿と葵。
 だが、その内容にリンディ達はどこか嫌なモノを感じていた。

「……何をする気なんだ?」

「いえ?“何もしない”わよ」

「人は変わらないねぇ。数十年前の戦争と同じだよ」

 クロノが尋ねるが、二人ははぐらかすように言う。
 代わりに、優輝が気づく。

「……因果応報、自業自得、か」

「あら、気づいた?」

「優ちゃんが気づいたなら、あっさりネタばらししそうだね」

「そうね。せっかくだから順に教えていくわ」

 椿と葵は、改めてクロノ達に向き直る。
 傍で聞いていた澄紀も、聞いておくべきだと判断して耳を傾ける。

「まず、日本には八百万の神がいたと伝えられているわ。実際、そう言われる程の数、神々は存在していたわ。……でも、どうしてそんな神はいたのに、かつて戦争の時は手助けしなかったと思う?」

「……考えられるのは……手助けする理由がなかった。もしくは、その逆で手助けしない理由があったから……か?」

「ご明察。他にも理由はあるけど、今重要なのは、後者ね」

「それは一体……?」

 戦争において手助けしない理由があった。
 それをリンディは尋ねる。

「一言で言えば、“調子に乗った”からね。当時の日本の人間は、途中が優勢だったのもあって本当に醜く調子に乗っていたわ」

「だから、神々は人間を見放したんだ。……ううん、神々だけじゃなく、当時生き残っていた式姫もね」

「式姫も……?」

 今度は澄紀も聞き返した。
 陰陽師の家系として気になったのだろう。

「子供とかを個人的に助けたいと思った式姫は戦ったらしいけどね。あ、これは蓮に聞いた話よ。当時の私達は既に山に籠ってたから」

「皆が皆、勝ちを疑わずに命を散らすのは……見てられなかったよ」

 優勢であれば調子に乗り、負けを認める最後まで戦火に命を散らし続けた。
 自国の勝ちを疑わず、命を投げ捨てる事さえ誉れと思い特攻していく人たちを、神々も式姫も見ていられなかったのだ。

「人は、善にも悪にも簡単に偏る」

「悪になれば……そうでなくとも、失望されるような事をすれば、神々も式姫も当然のように人を見捨てるよ」

「そんな……!」

「……だって、よく言うでしょ?“神は気まぐれだ”なんて」

 葵の放ったその言葉に、澄紀は押し黙る。
 結局は、人は神を都合よく見ている節があるのだと、再認識させられたからだ。

「……なんだか、話がずれていったわね。要するに、今回も同じなのよ。もし、政府の人間が私達にとって身勝手な……理不尽な選択を取れば……」

「……見放す、という訳か」

「そういうこと。……あぁ、今回は大丈夫だけど、貴方達管理局も例外じゃないわよ?というか、既に上層部の怪しい部分が野放しになっているのは減点ね」

「っ……!」

 自分達も見放されるかもしれない。
 そんな考えが浮かんで、クロノは言葉を詰まらせる。

「もし、椿達が……もしくは神々が見放せば、今度こそ日本を守る抑止力はなくなる。守りたい存在だけしか守らなくなる。突飛な話だけどな」

「そんな……!」

「……忘れないで。状況や事情によって私達は人の味方に立っているけど、その実、中立の立場よ。全面的に味方するだなんて、思わない事ね」

 椿はそう冷たく言い放った。
 今回でこそ、式姫として幽世の大門については解決しなければならなかった。
 だが、もし式姫達を貶めるような選択をすれば、今度は手助けされる事はないのだ。

「……自分で勝手に信じなくなって、いざ存在が露見すれば都合よく扱う。……そんな事、させる訳ないじゃない」

「……どういう、事だ?」

「式姫も神々も共通している事だけど、伝承や逸話の存在と、何よりも信じられなければ存在や力を保つのは難しい」

「優輝の言う通りよ。江戸時代から現代に至るまでに、ほとんどの神々と式姫は力を失ったの。さっき言ってた“他の理由”がこれよ。……今は一度幽世の大門が開いたのもあって、式姫はその力をほとんど取り戻しているけどね」

 軽く説明を挟み、クロノ達にも理解できるようにする。

「あたし達からすれば、つい最近まで信じていなかった癖に、実在するとわかった途端に掌を返したように接してきているようなものなんだよ」

「……確かに、それは理不尽を感じるな」

 ぞんざいな扱いからあっさり掌を返されるのは誰でも思う所はある。
 クロノも想像できたのか、納得するように呟いた。

「……長ったらしく言ったけど、要は政府が自分勝手な事を考えたら見放すってだけの話よ。今回、管理局側がどんな選択を取っても、姿勢は変わらないわ」

「……そう……」

 改めて椿と葵について考えさせられる事になったのだろう。
 話が締め括られた後、優輝以外の全員が考え込むように黙り込んだ。









「………」

「…………」

「……うぅ……」

 夕方。生放送があっても復興の支援はなくならない。
 そして、会談の影響があったのか、一般人からの視線が変わっていた。
 なのは達は山の整地をひと段落させ、街の避難生活の手伝いをしており、その視線に晒される事になった。

「……そんなに意識しない方がええよ」

「はやて……」

 無論、全員が全員変わった訳ではない。
 むしろ、変わったのはごく少数だ。
 だが、会談で心を抉られた今、そのごく少数の批難する視線だけでも辛かった。

「……天巫女な分、思った以上に辛いね……」

「はやては比較的気にしてなさそうね」

 司が気まずそうに呟き、アリサははやての様子を気にして尋ねる。

「……私の場合は、まだ車椅子やった時の視線で慣れてるのもあるんよ。……批難の視線も、闇の書関連でちょっとあったからなぁ……」

「はやて……」

 皮肉にも経験が生きたと、はやては言う。
 側にいたヴィータはそんな言葉を聞いて心配する。

「そんなあからさまに落ち込むな。あんた達は精一杯戦ったんだ。子供が何でもかんでも背負おうとしなくてもいいんだ」

「組織と言うモノは確かに連帯責任が生じます。ですが、貴女方はその上で最善を尽くそうと力を振るった。そこに何も恥じる事はありませんよ」

 落ち込む面々を、蓮と山茶花が励ます。

「む……あたしは子供じゃねーよ」

「お、そうなのか?それは悪い」

 なお、子供扱いされたヴィータが少し文句を言っていたが、それは余談である。

「……大方、マーリンの予想通りになったみたいね」

『陰陽師に連なる人達はともかく、管理局の人達はやっぱり責める視線になる……うん、ここまで予想通りとは。こういう所は分かりやすいね、人間は』

 そこへ、鈴がやってくる。
 土御門の家に行っていた鈴だが、時間が空いたのでこちらを手伝いに来たのだ。

「時々人に対して毒を吐くわね。貴女」

『ボクは人間じゃないからね。元となった存在も夢魔だからね。人とは違った観点から見ているのさ。……まぁ、だからこそ面白いとも思うんだけどね』

「貴女は……まぁいいわ」

 相棒と言うより、腐れ縁の相手と話すような呆れた顔をする鈴。
 そんな空気を読んでいないような雰囲気が、皆の暗い雰囲気を若干和らげる。

「……予想通りって、どういう事?」

「そんな大した事じゃないわよ。管理局と比べて、私達陰陽師と式姫は責めるような視線で見られていないってだけ」

「……なるほど。私達式姫及び陰陽師は、知られていない、もしくは信じられていなくとも元々存在していた者。対し管理局は言わば外来の存在です。どちらが受け入れやすいかと問われれば、考えるまでもないでしょう」

「あー……加えて、パンドラの箱の責任問題だもんね……そりゃあ、扱いも違うか」

 司が聞き返し、鈴が答える。
 その言葉に補足するように蓮とアリシアが続け、聞いていた者達は納得した。

「……正直言って、これはどうしようもないわよ。組織として責任が生じている今、下手に言い訳する方が立場が悪くなるもの」

「……そうね。管理局員が犯罪者を地球まで逃がしてしまい、結果的に災厄を引き起こした……その事実は変えられないから、批難的な目で見られるのは避けられない」

 鈴はお手上げだと言い、アリサがそれも仕方ないと続ける。

「じゃあ……大人しく耐えろって事?」

「そうね。その上で、これからの行動によってようやく……って所ね」

「それこそ、管理局も同情される程のとんでもない真実が判明……みたいな、突拍子もない事が起きない限りね」

 経験が豊富な鈴と、頭がいいアリサがアリシアの言葉に答える。

「……ここだけの話、地球出身の魔導師だけならまだ何とか出来るわ。……ただし、権力等に頼った汚い手で、だけど」

「それって……」

「あたしとすずかの家の力。後は士郎さん達の伝手ね。了承はしないでしょうけど、その気になれば国の中枢ぐらい掌握できそうね」

「……割とあり得そうなのが困るよアリサ」

 本人達にそれを実行する気がないため、それは現実にはならないが、実際にバニングス家と月村家、そして士郎……と言うより、御神や不破家の伝手を合わせれば、アリサの言った通りの事は実現できてしまう。

「……何気に、良い所の子供なのね、貴女達」

「お互い様よ。そっちだって、分家とはいえあの土御門じゃない」

「腫物扱いだったけどね」

 なんだかんだと、打ち解けているアリサと鈴が軽口を叩き合う。
 その証拠に、優輝相手のように年上なはずの鈴相手でも敬語を使っていなかった。

「しばらくは悪霊退治もできないわね」

「悪霊退治……?」

「普段の陰陽師……いえ、退魔師がやっている事よ。那美も度々やっているのだけど、聞いてないかしら?」

「聞いた事あるような……」

「ま、私の場合は自業自得で死んだ癖にやけに強い悪霊を退治してたのよ。……って、今はそんな身の上の話してる場合じゃないわ。ほら」

「あっ」

 鈴に促され、アリシア達も手伝いに戻っていく。
 鈴も鈴で、自分に手伝える事を手伝いに向かった。

「(良い目で見られないのは、覚悟してた。すずかのおかげで、予測も出来ていた。……でも、そうだとしても……)」

 炊き出しや、物資の運搬をする中で、アリシアは自分に向かう視線を感じ取る。

「(……やっぱり、“そういった目”で見られるのは辛いなぁ……)」

 実の所、半分程はアリシア達の容姿が良い事への視線なのだが、当の本人にとっては僅かな責めるような視線の方が気になってしまう。
 その視線は、常にアリシア達の心を抉り続ける。

「(恩着せがましく思う訳じゃない。……でも、それでも、助けたと言うのに、この仕打ちはキツイものがあるね……)」

 第三者からすれば、同じ組織の者の不始末を片付けていただけ。
 そのために、そう考えている者は“恩”などは微塵も感じていなかった。

「アリシアさん」

「っ、蓮さん……」

 心苦しく思っている所に、蓮が話しかける。

「あちらの方からの指示です。貴女方は、子供の相手をしてください、と」

「子供の……?」

「どうやら、指示を出す方は私達をちゃんと理解してくれているようです。心苦しく思う貴女方に、少しでも楽な思いをしてもらうために、指示を出したようです」

 それは、大人びてきたとはいえまだ子供であるアリシア達に出された指示だった。
 アリシア達の監視や指示を任されている政府の人間は、アリシア達が決死の覚悟で戦った事をしっかりと理解していた。
 そのために、少しでも苦しい思いをさせないように配慮したのだ。

「でも……」

「……子供は、純粋です。組織的な責任なども関係ないでしょう。ですから、きっと気に病むことはありません」

「……分かったよ」

 蓮に促され、アリシアはなのは達を連れて子供達の相手を務める事になった。





「(とりあえず、子供の前で暗い顔は出来ないね)」

 少しでも気持ちを切り替えようと、アリシアは頬を軽く叩く。
 同じような事を思ったのか、なのは達も深呼吸するなどして、気持ちを切り替えた。

「ねぇねぇ!お姉さん達って、ママとパパが言ってた魔法使い?」

「あ、うん。そうだけど……」

 そこへ、好奇心が勝ったのか、子供の一人が話しかけてきた。
 話しかけられたフェイトは戸惑いながらもその言葉に答える。

「ホント!?じゃあ、魔法見せて!」

「えっ……と……」

「簡単のなら、見せていいんじゃないかな?」

 無闇に魔法を使う事は禁じられている。
 そのためにフェイトは戸惑うが、アリシアが横からそういった。

「あまり派手なのは出来ないけど……」

「わぁ~!」

 フェイトはそう言って、魔力弾を三つ程出し、自在に操る。
 その様子を、頼んだ子供と後から集まって来た子供が楽しそうに眺める。

「フェイト、最後は花火みたいに……」

「うん。……それっ」

 最後に、三つの魔力弾は弾けるように霧散する。
 その際に、まるで花火のように弾け、子供達を魅了した。

「すごーい!」

「……よかった……」

 歓声を上げる子供達に、フェイトだけでなくなのは達も安堵した。

「(……そっか。子供なら純粋に楽しんでくれるから、だから私達を……)」

 そこで、アリシアはどうして子供達の相手を自分達に任せたのか理解した。

「よし、アリサ、すずか!」

「え、あたし?」

「私も?」

「フェイトに……魔法に負けてられないよ!私達も色々見せよう!」

 そう言って、アリシアも霊術で子供が喜ぶような事を見せるように張り切った。

「(子供の無邪気さに、きっと皆も助けられる。子供も楽しめるし、一石二鳥だね!)」

 普通の遊び道具なども使い、アリシア達は子供達を楽しませた。
 同時に、皆の傷ついた心も癒されていった。
 既に、一部の者が向ける責めるような視線は受け付けなくなっていた。













 
 

 
後書き
抉られる心(抉る側じゃないとは言っていない)
※フィクションなので、実在する政府の人達とは一切関係がありません。ご注意を。
※戦争については椿達の主観です。作者の本意と言う訳ではありません。

何か言われる前に念のための注意書きを……。
いえ、そんな事するならそういう展開に持っていかなければいいんですけどね。
まぁ、話の都合上そんな扱いになってる程度で軽く流してください。
ちなみに、椿がいきなりこういう事を言い出したのは、本体の力を受け取った事で神としての側面が強く出ているからだったりします。

本編でも繰り返し書かれていますが、管理局勢を責めている視線はごく僅かです。それでも皆が精神的に追い詰められているのは、ひそひそ話が自分の陰口に聞こえてくる的な奴です(語彙力)。 
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