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永遠の謎

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554部分:第三十二話 遥かな昔からその十五


第三十二話 遥かな昔からその十五

「そしてこの城達も」
「だからこそだと」
「理解されず。言われるのは私だけでいい」
 再び悲しみと共にだ。王は言うのである。
「この城達は悲しみの中に置きたくはない」
「ですがやがては」
 ホルニヒは王の悲しみを止めようとだ。切実な声で王に言った。
「この城達も」
「理解されるというのか」
「そうなるかも知れません」
「そうだろうか」
「はい、何時かは」
 そうなるとだ。ホルニヒは言うのである。
「ですから。そうした御考えは」
「そうであればいいが」
「そして陛下も」
 ひいてはだ。王もだというのだ。
「今でも理解者はおられるではありませんか」
「シシィ、ビスマルク卿」
「そしてワーグナー氏です」
「彼等がいてくれているというのだな」
「そうです。今もです」
 その理解者がいないだ。今もだというのだ。
「ですから後世も」
「そうであればいいが」
「希望はあります」
 ホルニヒは切実に王に話していく。
「それは必ず」
「あるのか」
「はい、あります」
 ホルニヒはここからだ。ギリシア神話の話をした。欧州の文化、文明の根幹にローマ、キリスト教と共にあるだ。それの話をしたのである。
「人には常に残っているものですから」
「パンドラの箱だな」
「確かにこの世には多くのものがあります」
「憎しみ、嫉妬、苦しみ、嘆き」
 王はその悲しむべきものを言葉に出していく。
「中傷、そういったものだな」
「そうです。ですがそれでもです」
「希望はあるか」
「それは常に」
「そうだな。確かに希望はある」 
 王もこのことは否定しなかった。そうしてだ。
 あらためてだ。こうも言うのであった。
「あの騎士もそうだな」
「ローエングリンですね」
「彼はエルザの危機に訪れた希望だ」
 あの歌劇からだ。王は希望を見た。
「彼は常にいるのだから」
「常にですか」
「そうだ。常にいる」
 王と共にだ。このことがわかった。
 そうしてだった。ホルニヒを見てもだ。
 そのうえでだ。彼に対しても言った。
「そなたもまた」
「私もですか」
「希望なのかもな」
 ここでだ。王は微かな微笑みになった。そのうえでの言葉だった。
「私にとって」
「私がですか」
「そうだ。そなたもだ」 
 こう言うのである。
「私にとって希望なのだろうな」
「いえ、私は」
「常に。何があろうとも私の傍にいてくれる」
 このことに感謝もしていた。ただ言葉には出していないだけで。
「それでどうして希望ではないのか」
「私はただ」
「ただ?」
「陛下の臣です」
 畏まって王に告げるのだった。
「ただそれだけですから」
「私の臣だからか」
「はい、ですから」
「臣が希望でないとは誰が決めたのだ」
 王はその微かな笑みのままホルニヒに話す。
 
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