永遠の謎
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552部分:第三十二話 遥かな昔からその十三
第三十二話 遥かな昔からその十三
「ビスマルク卿だ」
「あの方ですか」
「あの方は常に私のことを気遣ってくれる」
言うのはこのことだった。
「そのことが有り難い」
「お節介であってもですか」
「あの方は私を理解してくれている」
王になる前に会ったその時からだというのだ。
「そして私を助けてくれる」
「確かに。資金援助の話が来ています」
「わかっていてくれているのだ」
またこう言う王だった。
「私をな」
「そしてなのですね」
「そうだ。私の為すべきことを助けてくれる」
「築城をですか」
「バイエルンでそれを理解してくれているのはワーグナーだけだ」
その城達の元となっている芸術を生み出した彼だけだというのだ。
「だが。ドイツにはだ」
「ビスマルク卿がおられますか」
「オーストリアにもいてくれている」
「あの方ですね」
「そうだ。シシィだ」
皇后の名前をだ。王は言った。
「あの方はいつも私を理解してくれている」
「そのエリザベート様ですが」
ホルニヒは皇后のことが話に出たところで王に告げた。
「御手紙が来ています」
「そうか」
王はベッドの中で半身を起こしている。見事なガウンで。そのガウン姿のまま顔をホルニヒに向けてだ。そうして応えたのである。
「それで何と」
「あの方は旅を続けておられますが」
ウィーンの宮廷を離れてだ。これは奇行とさえ言われている。その為人は彼女を流浪の皇后とさえ呼んでいる。ハプスブルク家の皇后として疑問があると。
「来られるそうです」
「ここにか」
「はい、バイエルンに」
そうなるとだ。ホルニヒは王に話す。
「来られるとのことです」
「里帰りだな」
皇后にとってはそうなった。ヴィッテルスバッハの家の出だからだ。
「我が国への」
「そうですね。皇后様にとっては」
「あの方にとってハプスブルク家は窮屈なのだ」
「我がバイエルンよりも遥かに作法に五月蝿いのでしたね」
「ハプスブルク家は名門だ」
欧州随一とさえ言われている。このことについてはドイツ皇帝家となったホーエンツォレルン家も勝てはしない。あのイギリスのハノーヴァー家も。
「名門であればそれだけ作法等が五月蝿くなる」
「まして帝国ともなればですね」
「そうだ。かなりのものとなる」
そうだというのだ。
「だからだ。あの家はシシィにとっては牢獄なのだ」
「牢獄ですか」
「どれだけ美麗な宮殿も時としては牢獄になる」
王はこうホルニヒに話す。
「ましてや常に誰かに見られているのだからな」
「陛下と同じくですね」
「そうだな」
ホルニヒの今の言葉を受けてだ。王はだ。
少し微笑みだ。こう言ったのだった。
「私もまた。その牢獄から逃れて」
「そうしてここにですか」
「逃れている。同じだな」
まさにそうだとだ。王はやや自嘲を込めて呟く。
「牢獄からな」
「ミュンヘンが。陛下にとっての」
「あの王宮もだ」
「牢獄なのですか」
「だから私は逃れたのだ」
そうだったとだ。王は話す。
「そうした意味もあったのだ」
「このノイシュヴァンシュタインに」
「ヘーレンキムゼー等もですね」
「人は自由を求める」
王は今度はこんなことも言った。
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