魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第12話 その後
前書き
レンside
現在、グレースと一緒に、あの医務室の奥の部屋に入れられている。
目の前に、琴葉。
「九〇四番は奴等のこと、よく覚えてるでしょ? レンは覚えてないと思うけど」
グレースが、周りで寝ている六人から、琴葉の言葉に意識を向ける。ピクリと眉が動いた所から、図星のようだ。
でも、殺し屋とグレースが繋がっているって、如何言うことなのだろう。
それに、俺は覚えてないって?
「二人とも、奴等が来た目的は聞いたよね?」
「うん。俺とレン、そして琴葉ちゃんを回収するためだよね」
グレースの方を見ると、いつになく真剣な様子で話している。
琴葉も、先程のように騒ぐこと無く、落ち着いて話している。
「そ。九〇四番は分かるでしょ? その理由」
「……まぁね。でも、何で俺が分かるって事を知ってるのかな?」
「……理由、分かってるでしょ?」
「……まぁ、流石に琴葉ちゃんも覚えてるよね」
…………話に着いていけない。
多分、グレースも琴葉も、肝心な部分は言わないで、隠し通すと思う。どれだけ追い詰めたとしても、気付かぬうちに答えから遠ざけられる。
もっと、色々なことを知っておけば良かった?
「…………レン。一つ言っておくと、あのメイドが所属する組織で、九〇四番……グレースは"裏切り者"、レンは"被検体"、私は"裏切り者"、"被検体"、"人殺し"って呼ばれてる」
「…………は?」
グレースが裏切り者? つまり、メイド兄弟と同じ組織に居たってことか?
俺は被検体? 何かの実験に使われたのか?
琴葉は裏切り者? 被検体? 人殺し? メイド兄弟と同じ組織で、何かの実験に使われて、誰かを殺した?
分からない。分からなすぎて、頭が鈍器で殴られるような感覚に襲われる。
「やっぱり、琴葉ちゃんはあの子だったんだ」
「恐らく、お前の言う"あの子"だよ。"人殺しを繰り返した後、友達と、一緒に心中しようと思って組織を逃げ出した挙げ句、その友達を殺して、組織を抜けた"、あの悪餓鬼だ」
琴葉はそう言いながら笑う。だけど、"心からは笑っていない"。
気付けば、琴葉を引き寄せて、抱き締めていた。
「……え、ちょ……レン?」
「えっ、あ、これは……琴葉、泣いてたから…………」
切なそうな笑顔の奥に隠れていたのは、やはり涙だった。
悲しそうな笑顔で琴葉が笑ったのが証拠だ。
「レンには何でもお見通しか」
「流石だね。同じ事をしてきただけある」
グレースも言うが、やっぱり意味が分からない。
琴葉とグレースは、俺が覚えていなくて、だけど俺は知っている事を、覚えていて、知っているのだ。
「ところで、琴葉ちゃん。幹部サマに此処の存在を教えちゃっていいの? 二人に言うかもしれないよ?」
グレースが満面の笑みを浮かべて問う。対して、琴葉は一瞬動きを止めた後、笑い出した。
「アハハハ! そんな事心配してると思ってるの? お前は裏切り者だよ? 魔法の会合が開かれた時、必ず組織で、そのためだけに雇ったヤツを参加させるような、非常に用心深い組織が、裏切り者の言葉なんか信じるわけ無いでしょ! 例えお前があの二人に言ったとしても、あの二人は信じない」
「ハハッ、そうだね」
間。
「って、何で話したんだっけ!?!? この変態を信じるとか、マジ無理なんですけどー!?」
「ねぇ酷くない!? 何で変態!? イケメン枠だよ、俺!」
「はぁっ!? 顔面偏差値二三点が何言ってんの!?!?」
「ひっく!! 絶対低くしてるでしょ!」
「自惚れんな! イケメンは自他共にイケメンと認め、イケメンではないヤツに、『イケメン死ね!!』とか言われて、イケメンオーラを放つことが出来るようなヤツを言ってんだよ!? 前、一回でもイケメン死ねとか言われたことあんのか!?」
「…………ない」
「だろぉ!? お前がイケメン枠な訳ないんだ! お前、いつも四番とレンにイケメン死ねとか言ってんじゃねぇか! もう一舎のイケメン担当は四番とグレースって決まってんの!! 興味ないけど!!」
「でも変態は酷いって!」
「ピッタリだよ! この前だって、房の前に悪戯で置いてみたえっちな本に一番最初に食いついてたじゃん!」
「ぐっ……それは男として仕方な」
「仕方ない訳あるか! 目の前を通った女性看守を、舐め回す様な視線で追いやがって。反省しろ、変態担当!!」
「………………………………すいませんでした」
「ゴラ"ァ!! 医務室で騒ぐなボケェ!!」
「ぎゃぁあああああ! ギブ、ギブゥウウ!! 首絞まってるからぁあああ!!!! たすっ、助けてぇぇええええ!!!!」
「だから、静かにしろっつってんだろうが! レンみてぇに大人しくしやがれ!!」
「翁もうるさいじゃ……痛い痛い痛い痛い!! ストップ、これ以上は死んじゃ」
「うるせぇ!!」
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああ…………」
―――シリアスを返せ。
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