永遠の謎
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540部分:第三十二話 遥かな昔からその一
第三十二話 遥かな昔からその一
第三十二話 遥かな昔から
王立歌劇場ではだ。今は。
真夜中だというのに活気があった。だがそれは舞台だけでだ。
舞台の用意をしているスタッフ達や俳優達、歌手達はだ。異様なものを感じながらそのうえで動き回っていた。その彼等はひそひそと話をしていた。
「音を立てるな、ですか」
「だからフェルト靴なのですか」
見れば彼等は普通の靴を使っていない。フェルト靴を履いている。
それで音を立てない様にして舞台の中を動きながらだ。そのうえでだ。
観客席を見る。しかしそこには。
誰もいない。暗がりだけがあるだけだ。その暗い観客席を見てだ。
彼等は無気味なものさえ感じてだ。こう言い合うのだった。
「話は聞いていたが無気味ですね」
「全くです」
「誰もいない観客席とは」
「こんな上演ははじめてですよ」
こう口々に言い合うのだった。
「観客は御一人ですね」
「陛下御一人ということですが」
「こんな上演があるとは思いませんよ」
「異様です」
こうまで言うのだった。
「これは陛下の希望と聞いていますが」
「こんな上演を望まれるとはどういうことでしょうか」
「訳がわかりませんね」
「全くです」
そのロイヤルボックスにもまだ誰もいない。ただオーケストラだけがボックスに入っている。だがその彼等にしてもなのだった。
劇場を観てだ。落ち着かないものを感じていた。そしてだった。
彼等もだ。こう指揮者に話していた。
「あの、この上演ですが」
「本当に宜しいのですね」
「今こうして私達も演奏して」
「何もありませんね」
「はい」
その通りだとだ。指揮者は答える。だがその指揮者の顔もだ。
これから行われることにどうしても納得出来ない様子だった。それが顔に出ていた。
そしてだ。彼自身もこう言うのだった。
「私もはじめてです」
「誰もいない演奏なぞ」
「観客が御一人とは」
「陛下だけとは」
「陛下は仰いました」
指揮者はさらに話すのだった。
「観客達が自分を見ている中では観劇に集中できないと」
「だからなのですか」
「こうして御一人での上演をされると」
「そういうことなのですか」
「その様です」
指揮者は浮かない顔でオーケストラの面々に話す。
「ただ。報酬はありますので」
「はい、それは弾んで下さるそうですね」
「それは聞いていますが」
「ならば我々はです」
どうするかというのだ。彼等はだ。
「演奏に専念しましょう」
「はい。陛下が望まれるのなら」
「我々はそうするだけですね」
彼等は釈然としなかったがそれでもだった。
それが仕事なのでその場にいたやがてだった。
深夜の歌劇場のロイヤルボックスにだ。光が宿った。その時にだ。
王の入場を知らせるベルが鳴った。それを合図にしてだ。
上演がはじまった。王が脚本を書かせた作品だ。舞台はバロックの頃のフランスだ。
その演奏の中でもだ。観客席には誰もいない。やはり王がいるだけだ。
王はそのロイヤルボックスの中でだ。傍らに立つホルニヒに述べていた。
「この方がいい」
「御一人での観劇ですか」
「いつも誰かに見られている」
王はそのことについても述べる。
「それは辛いことだ」
「だからですね」
「観劇の時はそれに専念したい」
王はぽつりとした口調になっていた。
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