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英雄伝説~西風の絶剣~

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第57話 守護者との死闘

side:エステル


「はぁ……はぁ……」
「ぐっ……負けたか」


 息を大きく乱しながら膝を付くあたし、その眼前に地面に倒れたリシャール大佐がおり何処か満足したような表情を浮かべていた。


「エステル!」


 そこに他の皆が駆けつけてきてくれた、どうやら皆も無事だったみたいね。


「皆、大丈夫?」
「大丈夫なのはあんたの方でしょ!?今回復するから」
「あ、待って。あたしよりもヨシュアの方を先に……」
「ヨシュアお兄ちゃんはクローゼさんが回復してくれたから大丈夫だよ、今はお姉ちゃんが先!」
「そっか、なら安心ね……」


 シェラ姉にありったけの薬と回復アーツをかけて貰ったあたしは、何とか立ち上がれるまでには回復できた。


「流石はカシウスさん……いやカシウス大佐の血を引き継ぐ者……完敗だ」
「リシャール大佐……」


 あたしはリシャール大佐に近づくと残っていた薬を彼に飲ませる。


「何を……」
「あなたはやり方を間違えただけ。この国の事を想っている同じ仲間、だから助けるの。もう敵味方なんて関係ないでしょ?」
「……」


 リシャール大佐に薬の飲ませ終え、最後に念の為に回復アーツもかけておいた。


「ん、これで良し。後はちゃんとした治療を受ければOKね、早く上に上がって応援を呼んでこないと」


 遺跡にはまだ魔獣もいるしボロボロのあたし達だけでは危険だからね、念の為に何人か残して直に応援を呼びに行かなくちゃ。
 

「……あら?何か音がするわね」


 近くから何か機械音のようなものが聞こえるわね、一体何なのかしら?


「エステル!あれを見るんだ!」


 ヨシュアが指を刺した方には例の黒いオーブメントが光っている光景があった。


「リシャール大佐、あれは何なの!?」
「……アレは輝く環を封印している装置だ、あのオーブメントはそれを解放するための鍵……」
『……警告します』


 な、なにこれ?いきなり声が聞こえてきたわよ!?


『全要員に警告します。《オーリオール》封印機構における第1結界の消滅を確認しました』
「あの機械から聞こえてくる……」
「封印だと?」


 困惑するあたし達を置いて声はなお続いていった。


『封印区画・最深部において《ゴスペル》が使用されたものと推測。《デバイスタワー》の軌道を確認』
「おい、周りにあった四つの柱が沈んでいくぞ!」


 ジンさんの言葉通りこの部屋にあった大きな柱が地面の中に沈んでいくのが見えた。


「あわわ、何がおきているんですか!?」
「何だかヤバそうな雰囲気ね。皆、直にここから脱出を……ッ!?」


 部屋の隅の壁の一部が開き、そこから何かが姿を現した。それは赤い四つの目に巨大な機械の体を持った何かだった。


「な、なに?このブサイクなの……」
「エステル!どうやらこいつは僕達を敵だと認識しているみたいだよ!」


 確かに目の前の存在はとても有効的な雰囲気には見えないわね……


『環の守護者《トロイメライ》。これより起動を開始します』


「う、動き出したわよ!?」
「どちらにせよこのままにはしておけないな」
「ああ、こんなものが地上に出てきたら大変なことになるぞ」


 アガットとジンさんの言う通りこんなデカブツが上に行ったら大変なことになるわ!


「皆!なんとしてもこいつを止めるわよ!」
『応っ!』


 あたし達は目の前の巨大な存在を止める為に最後の戦いに挑んだ。


「喰らえ、フレイムスマッシュ!」


 アガットの炎を纏った一撃がトロイメライに向かっていくが、背後から現れた青い物体がその一撃を受け止めた。


「なんだ、こいつは!?」


 すると蒼い物体は電撃を放出してアガットを攻撃してきた。


「ぐわっ!?」
「アガット!」


 電撃を浴びたアガットは堪らず後退する。


「接近するのは危険ですね、なら……」


 クローゼはアーツで巨大な氷塊を生み出して蒼い物体に目掛けて放つ、だが今度は赤い物体がそれを受け止めた。


「もう一体いるの!?」
「むっ、危ない!」


 赤い物体はクローゼ目掛けて振動弾を放つ、それをジンさんが受け止めた。


「ありがとうございます、ジンさん!」
「例はいいさ、しかし……」
「あの二つの物体が厄介ね。どうやら赤いのはアーツ、青いのは物理攻撃に耐性を持っているみたい。オマケに……」


 赤い物体が光ると上空から大きな岩石が落ちてきた。


「アーツも使ってくるのかよ!くっ!」
「はうわぁ!」


 アガットがティータを抱っこして岩石をかわすが、そこにトロイメライの目から砲撃が撃ち込まれた。あれは目じゃなくて大砲だったのね!


「させないわ!」


 あたしはアーツ『アースガード』で砲撃を防いだ。


「チッ、まずはうっとおしい赤いのと青いのを叩くぞ!」
「なら僕はその間本体を足止めしておきます!」
「あっ、ヨシュア!」


 ヨシュアはトロイメライの顔に上ると武器を大砲の一つに突き刺した。


「うおおぉぉぉぉぉ!!」


 深々と突き刺したダガーには爆弾が仕掛けられており、それが爆発して砲台の一つを破壊した。


「無茶するわね。でもヨシュアの頑張りを無駄には出来ないわ!」
「ああ、あいつが本体の気を引いているうちに俺達はあのうっとおしい奴らを叩くぞ!ジン!」
「承知した!」
「え、援護します!」


 物理攻撃の得意なアガットとジンさんが赤い物体を攻撃する。赤い物体も反撃しようとするがティータの導力砲を受けてよろめいた、そしてその隙にアガットの大剣が突き刺さりジンさんの拳がめり込んだ。
 良し、効いているわね。


「エステル、私達は青い方を叩くわよ!あんたは攻撃を防いで頂戴!」
「分かったわ!」
「私もアーツなら……!」


 あたしは青い物体の電撃を防ぎながら皆のサポートに徹する、そしてシェラ姉とクローゼのアーツが完成した。


「喰らいなさい!」
「行きます……!」


 巨大な落雷と氷塊が青い物体を飲み込んだ。あたし達の攻撃を受けた二つの物体は煙を上げながら地面に落ちていく。


「やったわ!」


 二つの物体を倒したあたし達はヨシュアの援護に向かう。


「ヨシュア、こっちは終わったわよ!」
「よし、なら残るはこいつだけだ!」


 トロイメライから放たれるミサイルをかわしながら、あたしは懐に飛び込んだ。


「金剛撃!」


 あたしの一撃を受けたトロイメライは大きく後退するが、怯んだわけではなく大きな腕を振り回して攻撃しようとしていた。


「させるかよ!」
「はあぁ!」


 だがアガットとジンさんの攻撃が腕を止める、そしてシェラ姉とクローゼが放った竜巻と氷塊がトロイメライを飲み込んだ。


「やったの……?」
「いや、まだだ!何かくるぞ!」


 嫌な予感を感じ取ったあたし達はその場を飛んで動いた、すると赤い熱線が走り地面を焼いてしまった。


「危ないわね!これでも喰らいなさい!」


 あたしはさっきのお返しと言わんばかりにアーツを発動する、そしてトロイメライの頭上から巨大な岩石を落として叩きつけた。


「漆黒の牙!」
「行きます!やあああぁぁぁぁ!」


 そこにヨシュアの素早い攻撃がトロイメライの全身に切り傷を付けていく、そこにティータのガトリングガンから多数の銃弾が撃ちだされて更に傷を増やしていく。
 トロイメライは全身から煙を出しながら動きを鈍くしていた。


「さ、流石にここまでやれば壊れたでしょう」


 ようやく止まったかと思ったが、後ろの機械から再び声が聞こえてきた。


『トロイメライ、ダメージラインが規定以上を超えました。これよりモード《ジェノサイド》に移ります』
「えっ……?」


 するとさっき倒したはずの赤と青の物体が復活してトロイメライの両腕にくっついて巨大な手になった、更に足も太くなり上半身も変形する。
 さっきまでのブサイクな感じから一変して禍々しい姿へと変わってしまった。


「嘘でしょ……?」
「まだ隠し玉があったのかよ!」


 まさかの展開に軽く絶望するあたし達、こっちはリシャール大佐との戦いもあって既にボロボロの状態なのにまだ奥の手があったなんて……


『モード《ジェノサイド》に移行、速やかに殲滅行動に入ります』


 トロイメライは辺りに小さな球体のような魔獣を召喚してくる。その球体はあたし達に向かってビームを放ってきた。


「このっ!」


 あたしはスタッフを叩きつけて魔獣を破壊する、だがトロイメライは更に3体の魔獣を召喚してきた。


「いくらでも出せるっていうのかよ、畜生が!」
「ならアーツで一気に……」


 シェラ姉とクローゼが再びアーツで攻撃しようとする、するとトロイメライが赤い腕を上空に上げるとレーザーのようなものを発射した。


「何をするつもり?」


 すると打ち上げられたレーザーは無数の弾丸となってあたし達に降り注いできた。


「あぐぅ!?」
「きゃああ!!」


 あたし達は何とかかわせたが、アーツを発動していたシェラ姉とクローゼがまともに攻撃を受けてしまった。


「シェラ姉!クローゼ!」
「こいつ!」
「許せん!」


 アガットとジンさんは倒れた二人を見て怒りの形相を浮かべる。そしてトロイメライに向かっていった。


「うおおおぉぉぉぉ!ファイナルブレイク!!」
「奥義、雷神掌!!」


 アガットの一撃が地面を砕きながらトロイメライに直撃する、そして続けざまにジンさんの雷神掌が追い打ちをかけた。


「はぁはぁ……やったか?」


 流石に息を切らしている二人だがあの威力ならもしかしたら……


「ぐっ!?これは……!!」
「体が、動かねぇ……!?」


 ジンさんとアガットは急に動かなくなってしまい更には体が宙に浮き始めた。そして煙が晴れるとダメージを負ったトロイメライが現れた。


(赤い腕がひび割れている、腕を盾にしてボディへのダメージを減らしたのね!)


 トロイメライはそれぞれの腕を宙に浮いた二人に向ける、すると十字架のような爆炎が二人を飲み込んだ。


「アガット!ジンさん!」


 地面に叩きつけられる二人に急いで向かう、幸いにも生きてはいたがこのダメージじゃ……


「ティータ、確か回復用のクラフトを使えたわよね?」
「う、うん……」
「なら皆をお願い、ヨシュア!」
「ああ、行こう!」
「お、お姉ちゃん!お兄ちゃん!」


 皆をティータに任せたあたしとヨシュアは二人でトロイメライに向かっていく。二人でなんて勝てるか分からないけどそれでもやるしかないわ!


「はぁぁぁ!!」


 あたしはトロイメライのレーザー攻撃をかわして赤い腕に金剛撃を叩き込んだ。さっきのアガット達の一撃で大分ダメージが蓄積されていたのか赤い腕は煙を上げて機能を停止した。


「よし、これでアーツが使える!喰らえ!」


 ヨシュアはトロイメライの周囲に魔爪を召喚してそのボディをズタズタに切り裂いた。


「あいつのボディは硬い、なら狙うとしたら……ヨシュア!」
「……!そういう事か、任せてエステル!」


 あたしはヨシュアにアイコンタクトを送ると彼は過ぎにあたしの考えを読み取ってトロイメライを翻弄するように動き出した。
 それに釣られたトロイメライはヨシュアに目掛けてレーザーを放とうとお腹の装甲を開いて砲台をさらけ出す。


「まだ駄目よ、チャンスを待たないと……」


 あたしはエネルギーが一番溜まる瞬間を待つ、そしてエネルギーが充填されてレーザーが放たれようとする。


「今だ!」


 その瞬間を待っていたあたしは、事前に準備していたアーツ『フォトンシュート』を奴のお腹の砲台に放った。
 綺麗に奴のお腹に吸い込まれていったフォトンシュートは砲台に直撃する、するとエネルギーが暴発して砲台が大きな爆発を上げた。


「やったわ!」


 確かな手ごたえを感じたあたしは、思わずガッツポーズを取った。


「エステル、まだだ!」


 ヨシュアの指摘通りトロイメライはまだ生きていた。お腹から煙を上げながらも立ち上がったトロイメライの背中の突起物が光り出す。すると両腕にエネルギーが集められていきこの部屋全体を包み込むように電撃が走り出す。


「な、なんかヤバそうよ」
「マズい、直にアースガードを使うんだ!」


 あたしは事前に準備していたアースガードで防御しようとするが、背後に皆がいることを思いだした。


「ヨシュア!皆が!」
「しまった……!!」


 そしてトロイメライから膨大なエネルギーが放出されてあたし達を爆炎が包み込んだ。部屋全体を煙が多い暫くすると傷ついたあたしとヨシュア、そして無傷のティータ達が姿を現す。
 ぐふっ……何とか間に合ったわね。


「お姉ちゃん!お兄ちゃん!」
「ま、間に合ったみたいだね」
「大丈夫、ティータ?」
「私達は大丈夫だよ!でもお姉ちゃん達が!」



 あたしとヨシュアは皆を守る為にアースガードを皆に使った。何とかラ・クレストを使うだけの時間はあったがそれでも立っているのがやっとのダメージを受けてしまった。
 トロイメライは再びさっきの技を使おうとしていた。


「はぁ……はぁ……マズいわね、さっきのをまた使われたら……」
「万事休すか……」


 その時だった、何者かがトロイメライに攻撃を放ち背中の突起物が破壊された。


「リシャール大佐!?」


 攻撃を放ったのはリシャール大佐だった。


「ど、どうして……」
「こんなことで私の罪が許されるとは思わないが、さっきのお礼だ」


 リシャール大佐はそう言うとトロイメライに突っ込んでいった。


「こいつは私が何とかしよう、だから君達は早く逃げたまえ!」
「で、でも……」
「良いから行くんだ!」


 リシャール大佐はトロイメライの攻撃をかわしながら攻撃を仕掛けていく、でもトロイメライの一撃が武器に当たると折れてしまった。


「武器が……!?」


 その隙を逃さなかったトロイメライはリシャール大佐を捕えてしまった。


「ぐわぁぁぁぁ!?」
「た、大佐!?」


 ミシミシと嫌な音が聞こえこのままではリシャール大佐が危ないと分かった、でも悔しい事に身体が動かない……!


「君達、早く行くんだ!」
「そんな……見捨てることなんて出来ないわよ!」
「いいんだ。例え国の事を想ってしたこととはいえ、私がしたことは許されることではない。君達を守って死ねたのなら少しは罪を償えるはずだ……だから気にすることは無い……」
「嫌よ!そんなの間違っているわ!死んで償えることなんか何もない、貴方は生きなきゃいけないの!」
「エステル……」


 絶対に死なせないわ、だってあたしは遊撃士だもの!


「よくぞ吠えた。それでこそ私の娘だな」
「えっ……?」


 誰かの声が聞こえたかと思った次の瞬間だった、リシャール大佐を捕えていたトロイメライの腕が破壊された。
 

「なっ……!?」


 宙に投げ出されたリシャール大佐を誰かが担ぎあげて地面に降り立つ。あたしはその人物を見て心底驚いてしまった。


「と、父さんっ!?」


 そう、リシャール大佐を助けたのはあたしの父であるカシウス・ブライトだったからだ。


「遅くなってしまってすまなかったな、エステル」
「ど、どうして父さんがここに!?仕事でいないはずじゃ……」
「それよりも父さん、トロイメライが……!」


 背後でトロイメライがもう片方の腕を父さんに叩きつけようとしていた。


「父さん、危ない!」


 あたしは咄嗟に叫んだ、だがトロイメライの腕は突然の爆発で吹き飛んでしまった。


「ふえっ?」
「おいおい旦那、娘が気になるのは分かるが先走りすぎだろう?」


 背後から声が聞こえたので振り返ってみると、そこには刃の付いた大きな銃を構えた初老の男性が立っていた。


「えっと……」
「すまないな、ルトガー君。息子さん達を迎えに来たはずなのにこんな所まで付き合ってもらって」
「なぁに、息子と娘が世話になったんだ。借りはキチンと返すのが流儀なんでね」


 父さんと親しそうに話しているって事は父さんの知り合いかしら?


「エステル、ヨシュア。話は後だ、今はそいつをどうにかしろ!」
「わ、分かったわ!」


 あたしとヨシュアは最後の力を振り絞って立ち上がりトロイメライに突っ込んでいった。そして―――――



「太極無双撃!!」


 あたし達の一撃が今度こそトロイメライを沈黙させたのだった。



 
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