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戦国異伝供書

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第二十二話 川中島にてその五

「謙信公の戦での勘はまさに神憑り」
「その神憑りに殿は策で対される」
 こう言ったのは荒木だった。
「そして我等は勝つ」
「そうした戦になる、殿ならば勝てる」
 丹羽も言い切った。
「我等はここは胆を据えて戦うだけじゃな」
「臆病風に吹かれるのが一番の愚よ」
 佐久間盛政の言葉だ。
「そのことを忘れずに戦わねばな」
「その通りじゃ」
 佐久間大学も言うことだった。
「戦の常じゃが」
「うちの兵達は臆病じゃ」
 中川も言った。
「そこがどうもな」
「尾張だけだった時から臆病で弱い」
 池田もどうかという顔で言った。
「その弱い兵でどう戦うか」
「いつもそれに腐心してきて戦ってきたのう」
 坂井の言葉もしみじみとしていた。
「我等は、特に殿はな」
「そのうえでこれまで勝ってきたにしても」
 原田も言う。
「さて、この度はどうして勝つか」
「殿の策で勝つ、そして」
 柴田がまた言った。
「勝ち鬨を挙げるぞ」
「ですな、この度は」
 堀が柴田のその言葉に応えた。
「まさに我等にとって武田との戦に並ぶ正念場ですが」
「殿の言われる通りに戦い」
「勝ちましょうぞ」
「そうじゃな、しておのおの方今宵はよく寝なければならんからな」
 柴田は諸将にあらためて話した。
「酒は飲まずな」
「勝った時に思う存分飲めばよし」
 林が笑って述べた。
「それ故に」
「うむ、飲まずに寝ようぞ」
「権六殿がそう言われるなら」
 酒を飲む方と言われる彼がとだ、安藤が述べた。
「それならば」
「うむ、ここは飲まずにな」
 稲葉は安藤のその言葉に応えた。
「早いうちに寝てじゃ」
「よく寝ようぞ」
 氏家が続いた。
「そうして休むとしよう」
「上杉との戦も大戦」
 間違いなくそうなるとだ、柴田はまた述べた。
「それだけに食ったし後は寝て休む」
「そうしてこそ勝てまするな」
「そうじゃ、して猿よ」
 柴田は自分に今応えた羽柴にも声をかけた。
「お主この度の戦でも」
「やれるだけのことをやります」
「そうするな、しかしお主馬も槍もそれ程ではないが」
 そうした己の武芸は相変わらず不得手だ、馬は大名になりいつも乗っているだけにそれなりに上手になっているが。
「しかしな」
「それでもですか」
「采配自体はよいのう」
「いや、何かコツがです」
「わかっておるか」
「はい、特に飯や武具のことが」
 それをどう買って運び届けるかをだ。
「頭の中に自然とです」
「わかってか」
「出来ます」
「それも才かのう」
「そうでしょうか」
「わしは武辺じゃ」
 柴田は自分をこう考えている、戦の場でしか信長に応えられないとだ。実際は政でも役立っているにしても。 
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