勇者クリストファーの伝記
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第1章 たった一人の勇者
魔を討ち払う剣
剣が翻り、一閃。
異形の怪物の首に刃が叩き込まれ、肉を引き裂き、骨を粉砕。そのまま振り抜かれる。切断された頭部が空中を舞い、地面に落下。遅れて濃紫の血が噴出。刺激臭が鼻腔を刺激する。怪物の肉体は力を失い、崩れ落ちた。
再び、剣身が翻る。背後から忍び寄る悪魔に向かって、振り払う。防ごうと腕が上がり、強靭な皮膚が受け止めようとする。刃を通さないはずの皮膚は何の抵抗もないかのように、引き裂かれる。腕が切断され、胸部から背中へと剣が抜ける。そのまま胴体を斬り抜ける。切っ先に血が引かれて落ちる。苦鳴をあげながら、悪魔は絶命した。
周囲にいた他の魔族たちは、恐怖のあまり動けない。
地響き。木々を押しのけながら、三メートル以上の体長を持つ大型の悪魔が現れた。頭部には二対四本の角。濃紫の皮膚、蝙蝠に似た三対六枚の翼。全身を筋肉の鎧が覆っていた。目の前の人間を見下ろす瞳には、憎悪と憤怒。
右手に持った巨大な斧が振り上がる。刃渡りだけで僕の身長ぐらいはある。それが真っ直ぐに振り下ろされる。それを、左手だけで受け止める。
悪魔の表情には驚愕。普通の人間であれば掠めただけで即死のはずの一撃が、片手だけで防がれたのだから、驚きもする。
刃を掴み、左に動かす。悪魔の右腕が筋肉で膨らむ。膂力が押さえ込もうとするが、全く打ち勝てていない。
がら空きになった胴体めがけて、右手の剣を振るう。刃は全く、胴体に届いていない。
苦鳴。遅れて悪魔の胴体を縦に、一筋の直線が走る。直線は頭部と股間にまで届き、巨体を真っ二つに分断した。
絶叫が発せられた。周囲を取り囲んでいた魔族たちが、我先にと逃げ始めたのだ。いずれも表情には極大の恐怖。自分よりも上位の存在が、目の前で一瞬にして死んだことによる恐慌状態だった。
悪いけど、逃すつもりはない。
一歩目を踏み出し、二歩目が続き、三歩目には颶風となって駆け出す。数十メートルもの距離を、一瞬で詰める。
逃げ遅れていた一つ目の悪魔を両断。返す刃でその先にいた人間形の魔族も斜めに斬り払う。膝を曲げ、跳躍。空中を飛んでいた山羊顔の悪魔の頭部を踏み抜く。反動を利用してさらに空中を進む。飛び回る悪魔を斬り落としながら、着地。
逃亡していた一団の先頭に立ちはだかる。四つ足で逃げていた人狼が、全力で急停止。反転、しようとしたところに、剣を叩き込む。
人狼の一体が素早く接近。刃のように鋭利な爪を振り下ろしてくる。鎧さえ引き裂く強靭な爪は、腕で受け止められる。人狼特有の腕力で押し込もうとするが、爪が突き刺さることはない。
左手で拳を作り、人狼の胸部に打ち込む。骨の軋む音と共に、人狼が吹き飛ぶ。後方にあった樹に叩きつけられ、身体が真逆にへし折れる。
爪を受け止めた箇所をよく見たら、服が破れていた。あとで直さないと。
まだ魔族は残っていた。意識を集中させる。脳裏に周囲の地形が浮かび上がり、どこに魔族がいるのかが感覚として掴める。
剣を握りしめる。刃に魔力が纏わりつき、光り輝く。振り抜くと、極光が走る。目が眩むような光が溢れ出し、直進。逃げ惑う悪魔たちを飲み込んでいく。
衝撃音と土埃。光が通った後には、極大の破壊痕が現れていた。大地は扇状にえぐり取られ、木々が吹き飛ばされている。悪魔たちは、跡形もなく消え去っていた。
「……はぁ」
剣を鞘に戻して、溜息をつく。僅かばかりの虚しさがあった。
それでも、これが僕の役割だ。
これが、『勇者クリストファー』の役割だ。
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