魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第185話「共に強く」
前書き
主人公以外の強化フラグ回。
司や椿達だけでなく、原作キャラ勢も総じて強くする予定です。
というか、そうしないとパワーバランスががが……
=司side=
椿ちゃんを探しに行った私達は、案外すぐに見つける事が出来た。
八束神社から少し離れた林で、椿ちゃんはちょっとした岩に座り込んでいた。
「椿ちゃん!」
「椿さん」
そんな椿ちゃんに、私達は声を掛ける。
「……何?」
「……っ……」
明らかに不機嫌な様子で、私達に反応する椿ちゃん。
一瞬、言葉が詰まってしまうけど、何とか言いたい言葉を絞り出す。
「椿ちゃん、私達は―――」
「来た所悪いけど、一人にさせて頂戴」
だけど、椿ちゃんは私の言葉を遮ってそういった。
「で、でも……」
「一人にさせてって言ってるの!!」
渋る私に対し、椿ちゃんは大声を放つ。
……その大声は、かつて葵ちゃんが殺された時と同じぐらいの悲痛さに満ちていた。
「っ……」
「私は!あんなに追い詰められた優輝を、見たくなかった……!」
「それは、私達だって……」
“同じ”だと、奏ちゃんは続きの言葉を紡げなかった。
なぜなら、椿ちゃんがその瞬間にこちらを睨んできたからだ。
「だったら!どうして貴女達は、優輝をああなるまで止めなかったのよ!」
「それは……!」
“そうする余裕がなかったから”。
そう言おうとして、寸前で押し留める事に成功した。
だって、これは結局の所言い訳にしかならないから。
優輝君がああなったのを、そんな言い訳で終わらせたくなかったから。
「……それは、私達が弱かったから。……ずっと、頼ってばっかりで、無茶をする優輝君の代わりになれない程、私達が弱かったから……!」
「優輝さんがああなって、私達だって平気じゃない。……何よりも、自分の無力を痛感したわ。だから、言い訳しない。私達が弱かったのが原因」
「………!」
反論すると思っていたからだろうか。
自分たちのせいだと認めた私達を見て、椿ちゃんは目を見開いていた。
「……ごめんなさい。八つ当たりをしたわ……」
だからか、すぐにそう言って謝ってきた。
「貴女達と同じように、私も無力を感じてたのよ。……ずっと無茶をしてた優輝を止められないまま、ここまで来てしまった。そんな自分が許せなかったのよ……」
「椿ちゃん……」
「椿さん……」
俯きながらそう言う椿ちゃんの足元に何かが落ちる。
それはすぐに椿ちゃんが流す涙だとわかった。
「さっき八つ当たりしたみたいに、自分以外の責任だと、確かに思ったわ。優輝が自制していれば、貴女達や他の誰かがもっと強ければ……って」
それは、私達にも当てはまる言葉だった。
優輝君がああなった事に納得が出来ない。そんな理不尽な思い。
何かに当たらないと気が済まない程、椿ちゃんはその思いが強かったのだろう。
「でも、一番強く思ったのは、自分が何もできなかった事への、怒りよ」
「………」
椿ちゃんの拳を握る力が強くなるのを、見るだけでも分かった。
無力感を、自分への怒りを、今も強く感じているからだろう。
「あの時と……とこよの時と同じなのよ。私は、肝心な時に戦線に立つ事すら出来なかった。……それが許せなかった。……私は、自分で自分を赦せないのよ……!」
「椿ちゃん……」
それは……辛いものがあるのだろう。そう、漠然と思った。
一度ならまだ立ち直れるだろう。でも、二度目だと……。
種類が違い、当時は思い込みが激しかったのもあるけど、私も似た経験をした。
自分がもっとしっかりしていれば……なんて、よく思った事だ。
だからこそ、椿ちゃんの想いは何となく理解できる。
「……だったら、強くなろう。一人で抱え込まず、皆で」
「ッ……言うだけ―――」
「言葉にするだけなら簡単なのは理解してる。……でも、だからと言って一人で抱え込むのはそれこそ優輝さんの二の舞になると思うわ」
どの道、ここで立ち止まっていては何も変わらない。
椿ちゃんもそれは理解しているだろう。
「優輝君も、椿ちゃんも、私達も。決して一人じゃないんだ。だから、苦しみも、悔しさも、強くなろうとする想いも、皆で共有しよう?」
「私達も強くなりたいし、無力だった事が悔しい。椿さんのように、優輝さんの心の拠り所にすらなれていなかった。……自分で自分が赦せないのは私達も同じよ」
今の椿ちゃんには既視感があった。
それは、以前の私じゃない。
でも、ついさっきの奏ちゃんの言葉で確信が持てた。
……緋雪ちゃんを失った時の優輝君に、椿ちゃんは似ていたんだ。
「(でも、そうだとしたら……)」
「……知ったような口を、利かないで!!」
「ッ!?」
やっぱりと言うべきか。椿ちゃんは怒りと共に霊力を開放した。
その力の圧力に、奏ちゃんは怯む。
私は直前で予想できたのもあって、何とか耐えた。
「人の気持ちは、心でも読めない限り本人にしかわからない!なのに、まるで理解しているかのような口振りで……!ふざけないで頂戴!」
「ふざけてなんかいない!」
放たれるプレッシャーに負けず、私も大声で反撃する。
「椿ちゃんの気持ちは確かに分からない!でも、私達だって優輝君が大事!その想いは椿ちゃんにも負けるつもりはないよ!そんな優輝君がああなったのだから、大事にしてるのなら誰だって悔しく思うし、自分の無力を嘆くよ!」
「っ、司……!」
人の本当の気持ちなんて、その人にしかわからない。
……ううん。場合によっては、本人にもわからない事がある。
でも、だからと言って、踏み込まない理由にはならない。
私は椿ちゃんの心に踏み込む。踏み込んで、その負の感情から引っ張り出す……!
「私達は椿さんの気持ちはわからない。……でも、これだけは分かる。今の私達と立場が逆だったとしたら、椿さんは私達を同じ事を言うはずよ」
「椿ちゃんは強い。私達よりも強いよ。それは戦う強さじゃない。心の強さ。……ただの子供でしかなかった私達よりも、ずっと強い心を持ってる」
そんな椿ちゃんが、こうなるまで追い詰められていた。
それ自体は驚きだし……何よりも、緋雪ちゃんを失った時の優貴君と重なった。
……とても見ていられない。
「こういう時立ち止まっちゃいけないって教えてくれたのは、他でもない椿ちゃんでしょ!?その椿ちゃんが、こうしてうじうじしてたら、それこそまた繰り返すよ!」
「私達はこれ以上優輝さんに壊れてほしくない。それは、椿さんも同じのはず。……だったら、意固地になってないで手を取り合うべきよ」
「………」
椿ちゃんにとって、優輝君があそこまで追い詰められた事は、どれだけ辛い事なのか、厳密には把握できない。
それでも“苦しい”事は分かっている。
そして、そこで立ち止まっていたら、それこそ“変わらない”のも分かっている。
「……そんな事、分かっているわよ……!」
私が分かっているからこそ、椿ちゃんも理解していた。
その上で、こうして意固地になりたくなったのだろう。
そういう気持ちになりたいのは、私も理解できる。
「私は、私達は……」
「今度こそ、優輝さんの助けに、支えになりたい」
「でも、私達だけでそれを成そうとしても、きっと失敗する」
だから、それを成功させるためにも。
「椿ちゃんの……ううん、皆の力が必要なの」
「一人一人で頑張っても、優輝さんの二の舞だから」
「……だから、椿ちゃんの協力も必要なの」
いくら特殊な経歴、力を持っていても、私達は一人の人間でしかない。
優輝君にも当て嵌まるように、一人では限界がある。
だからこそ、協力し合うべきだと、椿ちゃんに言う。
「………っ、はぁ……」
しばらくお互いに見つめ合う。
すると、椿ちゃんは諦めたように目を逸らし、溜め息を吐いた。
「ああもう、降参よ降参。そんな梃子でも動かない目で見られたら、意地になってる私が馬鹿みたいじゃない。まったく……」
疲れ切ったように椿ちゃんはそう言った。
椿ちゃんと口論になっていれば、経験の差から勝てなかっただろう。
さっきので説得出来てよかった。
「葵は、こうなるのが分かって貴女達をこちらに寄越したのでしょうね」
「葵ちゃんが?……そういえば……」
私達としては、葵ちゃんに制止されても、押し通ろうとしていた。
そのため、気にしていなかったけど、あの時葵ちゃんはあっさりと通してくれた。
椿ちゃんの言う通り、この結末になる事が予測出来ていたのだろう。
「……よしっ!」
「っ!」
そんな事を考えていると、椿ちゃんは思いっきり自分で両頬を叩いた。
意識を切り替えてという意思表示なのだろうけど、思った以上に音が大きかったために、少しばかり驚いてしまった。
「さ、戻るわよ。アースラに」
「……うん!」
意識を切り替えた椿ちゃんの表情は、見違えるかのようだった。
さっきまでの暗い様子は一切なく、いつもの気丈な椿ちゃんだった。
「(……まずは、スタート地点に立つ。……本番は、ここから……!)」
椿ちゃんを説得して終わりじゃない。
本番はここから。……ここから、私達は強くなる。
優輝君が無理しなくてもいいように、逆に頼られる程に、強くなる。
=out side=
「……復興支援?」
『そうだ。今回の事件で多くの地域に被害が出た。特に、東京と京都、そしてその二つの県の間は、守護者との戦闘で他の地域より被害が大きい。幸いにも、優輝達が配慮したのかは知らないが、住民にはあまり被害が及んでいないが、それでも人手が必要だ』
学校に一度戻っていたアリシア達の所に、クロノから念話が掛けられる。
戻ってきたアリシア達に沸いていた生徒達からアリシアと帝が抜け出し、話を聞く。
「……まぁ、必要だよね。普通は」
『提督が日本の上層部と話を付けてきた結果だ。後々国会等で僕らの立場が決まるかどうかに関わらず、復興の支援を行うとな』
「それは……今から?」
『出来る限り早くな』
話を聞いたアリシアと帝は、その言葉を聞いてどうしようかと顔を見合わせる。
現在、なのは達はもみくちゃにされるレベルで生徒達の中心にいた。
あの状態から、今の情報を伝えるには手間が掛かるからだ。
「……落ち着くまで、待つか」
「それしかないね……」
アリシアと帝は、とにかく騒ぎが収まるのを待つことにした。
一応、騒ぎが収まるまでに先生達に経緯を伝え、説明できる事はしておくことにした。
「つ、疲れたんやけど……」
「……我慢してくれ」
「二人共ずるいよ!いつの間にか抜け出していたなんて……!」
「正直すまんかったと思ってる」
しばらくして、まだやる事があると言って、なのは達はアースラに戻ってきた。
それまで質問攻めなどでなのは達は疲労しきっていた。
「戻ってきたわね」
「……って、椿……?」
「あたしもいるよー」
「葵も!?」
そんななのは達を、椿と葵が出迎えた。
アリシア達は司達に椿と葵が死んだ事を聞かされていたため、非常に驚いた。
「再召喚が成功したから、無事に帰ってこられたんだよ」
「そ、そうなんだ……」
「不安にさせていたみたいね……でも、もう大丈夫よ」
驚きで状況を上手く呑み込めないアリシア達。
とりあえず、二人が無事だった事だけは理解して、あまり気にしないようにした。
ちなみに、アリシア達が驚いたように、椿と葵がアースラに帰ってきた時も、事情を知っていた式姫達が驚いていた。
「戻って来た所早速で悪いが、これからの行動について説明する。まぁ、休みながら聞いてくれ」
「あれ?優輝は?」
「優輝なら今は休んでいるわ。再召喚も負担がない訳じゃないもの」
クロノの言葉に、なのは達は若干疲れを見せながらも聞く姿勢を見せる。
ふと、そこでアリシアが優輝がこの場にいない事に気付く。
「負担って……倒れたばかりなのに……」
「だから私達が休ませたのよ」
「優ちゃんったら、全然負担がないように見せかけてたからねー。いつもならそのまま次の行動に移る所を、あたし達が無理矢理休ませたんだよ」
詰まる所、これでもいつもよりマシなのである。
実際、負担自体はアリシア達が危惧する程大きなものではない。
しかし、それでも大門を調査するための術式構築、再召喚における霊力の行使と霊脈の操作という事を行っているため、負担がない訳でもない。
「……始めるぞ?まず、支援する場所だが、今回は京都と東京に集中させて―――」
説明を始めるクロノ。
そんなクロノの話を頭に入れながらも、アリシアはふと気になる事を考える。
「(……椿と葵、戻って来たばかりだけどなんか……。いや、二人だけじゃないね。司と奏も、“何か”が変わってる。見た目とか中身とかじゃなくて、もっと別の……)」
椿と葵、そして司と奏。
四人の“違い”に、アリシアは何となく気づいていた。
「(何か、見覚えがあるんだよね……どこだったかなぁ……結構身近で見た気がするんだけど……うーん……)」
そして、アリシアにはその“違い”にどこか見覚えがあった。
「(……そうだ!なのは!確か、なのはが“諦めない”って決めた時に似てる……!)」
そう。それは、守護者が繰り出した式姫達との戦闘の時。
一度戦闘不能に陥り、そこから復帰してきたなのはの目と似ていたのだ。
「(決意……そう。なんというか、芯のある強い意志を感じるんだ)」
それを思い出し、アリシアはようやく椿達の“違い”に気付いた。
今までなかった新たな“意志”が感じられたからだった。
「……アリシア?どうしたのよ?」
「あ、いや、なんでもないよ」
アリサに声を掛けられ、アリシアは目の前に意識を引き戻される。
「……アリシアちゃん、話聞いてた?」
「えっと……一応?」
「……これは、聞いてないわね」
「ごめんごめん……ちょっと、考え事しててね」
ある程度なら話の内容も聞いていたアリシアだったが、一部分は聞き流してしまっていたため、結局聞いた内容は穴だらけだった。
「考え事?」
「視線は椿さん達に向いていたみたいだけど……」
「んー、ちょっと気になる所があってね」
アリシアは先程考えたことをアリサとすずかに伝える。
「なのはに似た……あぁ……なるほどね」
「あ、やっぱり二人も知ってるんだ」
「状況は全然違うけどねあたし達の場合は……うん」
そこまで言ってアリサは言い淀む。
なぜなら、アリサが思い出したのはなのはやすずかと初めて会った時の事。
つまり、喧嘩した時の事だったため、負い目があったからだ。
当時も、アリサを止めに入ったなのはの目は、アリシアの言っていたような諦めない意志のような“強さ”を持っていた。
「……何か、決めたんだろうね」
「まぁ、悪い事ではなさそうだし、気にする事はないんじゃない?」
「そうなんだけどね……」
気になるものは気になる。
アリシアは、ついそう考えてしまう。
「(……まぁ、時間が空いた時にでも聞けばいっか)」
とりあえずは後回しにし、目の前の事……復興支援について集中する事にした。
「うん……?あれは、司……?」
その夜。
復興支援のための準備を整えるだけに今日は終わっていた。
そのため、皆は思い思いの夜を過ごしていた。
そんな中、アリシアは偶然廊下を歩く司を見かけた。
「司、どうしたの?」
「あ、アリシアちゃん」
こんな夜更けに何をしているのか気になったアリシアは声を掛ける。
「あまり夜更かししてると、明日からが大変だよ」
「大丈夫。そこまで時間は掛けないし」
「時間は掛けないって……やっぱり、何かしに行くの?」
明日から本格的に復興を始める。
そのために、あまり疲れるような事はするべきではない。
だから、アリシアは司が無理をしていないか心配していた。
「ちょっと、特訓をね」
「どう考えても明日からに支障を来す事なんだけど……」
アリシアからすれば、特訓はきついイメージだ。
特訓内容は知らないとはいえ、明日から大丈夫なのかと心配になった。
「大丈夫。それは椿ちゃん達も分かってるから、片手間に出来る簡単なもの且つ、有用なものを教えるって言ってたしね」
「椿も関わってるの?」
「うん。他にも葵ちゃんと奏ちゃんもね。……よかったら、アリシアちゃんも教えてもらってみる?どの道、しばらくは霊力の特訓が出来ないだろうから」
「うーん、そうだね……」
アリシアは少し考える。
司の言う通り片手間に出来るなら、やっておいて損はないだろう。
だが、それ以上に司達の行動が唐突なのが少し引っかかっていた。
「(……まぁ、再召喚の時に何かあったんだろうね)」
心当たりがあるとすれば、別行動していた時。
アリシアはそう結論付けて、今すぐに分からなくてもいいと判断した。
「……うん、やるよ」
「そっか。……あ、せっかくだからなのはちゃんとか他の皆にも教えてほしいな。理論自体はそこまで複雑じゃないから、霊力も魔力も関係ないし、アリシアちゃんも覚えるだけで教えられるみたいだからね」
「アリサやすずかだけじゃなくて、なのは達にも?……と言うか、そんな簡単に教えられるって尚更何するのか気になって来たよ」
同じ霊術を扱うアリサやすずかどころか、自分達の特訓と関わりがないなのは達にも教えておくように勧められ、アリシアはやはり疑問に思う。
「……私達だけ強くなっても、意味がないからね」
「……今は聞かないけど、いつか事情を聞かせてもらうからね?」
「うん、わかってる」
そんなアリシアの思いを感じ取ったのか、先に司が答える。
それを聞いて、アリシアは事情を聞くのは後回しにした。
「今、私達が一番の目標としてるのは、“皆で強くなる事”だから。一人一人でじゃなくて、共に。一緒に強くなろうって、決めたんだ」
「……そうだね。私やアリサ達は霊力だから椿達に師事してもらってたけど、同じ魔導師でありながらなのはや司、フェイト達でバラバラだもんね」
共通した特訓がなければ強さがまばらになる。至極当然の事だ。
だが、当然ならばわかり切っている事でもある。
「でも、同じ方法でも結局差があるんじゃ?」
「大事なのはそこじゃないよ。飽くまで、“皆で強くなる事”が重要なんだよ」
アリシアが疑問をぶつけると、すぐに司から答えが返ってくる。
「“皆で強くなる事”?」
「一人で物事を背負うには、限界がある。それはアリシアちゃんも知ってるでしょ?……もっと、助け合う、支え合う事が大事なんだ。だから、皆で」
「……なるほど……」
効率などではなく、気持ちの問題。
実際はそれだけではない複雑なモノがあるが、意味の捉え方としてはそういう事なのだろうと、アリシアは結論付けた。
「(……皆、もうこれ以上後悔したくないんだろうな)」
覚悟の決まった司の目を見て、アリシアは思う。
優輝が倒れ、司はショックを受けていた。
そして、今まで頼っていた立場から変わろうとした。
その決意を、アリシアも感じ取っていたのだ。
「(共に強く……いいよ、司。私も協力する。もう後悔したくないのは、司達だけじゃないからね。……自分の無力を味わうのは、誰だって嫌だからね)」
被害を抑えられたとはいえ、怪我人どころか死人も多く出た。
身近な存在だった椿と葵だけでなく、他の戦闘部隊の局員や、現地の退魔師。
逃げ遅れ、身を隠す事も出来ずに妖に襲われた一般人など。
その事実から目を逸らしたくなるぐらいには、被害が出ていた。
中には、自分がもっと強ければ助けられたと思えるような命があった。
……誰もが、力不足による後悔をしていたのだ。
「椿ちゃん、来たよ」
「いらっしゃい。……って、アリシアも一緒だったのね」
そんな事をアリシアが考えている内に、椿がいる部屋に辿り着いた。
「別に構わないよね?」
「ええ。元々教えるつもりだったもの。手間が省けたわ」
「(普通の個室でも出来る事なんだ。……何をするんだろう?)」
普通に考えれば、特訓に使えるような部屋ではない。
出来たとしても、簡単なストレッチなど、その程度だ。
「アリシアちゃんも気にしてたけど、何をするのかな?片手間に出来ると聞いても、私にはピンと来ないんだけど……」
「え、司も知らなかったんだ」
「そりゃあ、教える前だもの。知らないに決まってるでしょ」
椿に、とにかく部屋に入るように促される。
中には、既に奏と葵もいた。
「先に来た奏にはもう教えているわ」
「これは……霊力の操作?」
「そう。それも精密な……ね」
奏は集中しやすくするためか、手を組んだ状態でじっとしていた。
そんな奏から、微弱な霊力の動きをアリシアは感じ取った。
「さて、明日からは復興支援の活動もあるから、手っ取り早く教えるわ。最初は立ったままじゃ難しいと思うから、座りなさい」
椿に促されるままに、適当な場所に司とアリシアは座る。
「最初に言わせてもらうけど、“強くなる”と言ってもそんな一朝一夕で強くなれる訳がないわ。アリシア、貴女達も才能があったから実戦可能な所まで強くなれただけで、これ以上ともなれば簡単には行かないわ」
「えっ、それじゃあ……」
“聞いていた話を違う”。そう思ったアリシアを制するように、椿は続ける。
「尤も、それはさらに力を身に着ける場合の話ね」
「……どういう、事?」
椿の言葉を上手く理解できずに司は聞き返す。
「私達が教えるのは、貴女達の今の力を研ぎ澄ます方法よ。それこそ、伸びしろがあまりない私達にも効果があるわ」
「……まぁ、あたし達の場合は長らく戦いから離れていたのもあるんだけどね」
椿と葵も、数百年のブランクは大きい。
実戦ばかりとは言え、数年程度では取り戻しきれていなかった。
厳密には、環境の違いも要因ではあるのだが、ここでは関係ない事である。
「教えるにあたって、断言するわ」
かなりの自信に満ちた顔で、椿は二人に向き直る。
「これを極めれば、かなりの効率で霊術や魔法を行使できるわ。それこそ、優輝みたいに霊力と魔力を同時に扱える程に見違えるわ」
それは、今までの限界を塗り替える言葉だった。
後書き
アリシア達の椿達との再会が、随分とあっさりとしていますが、それはほとんど日にちが経っていなかったために、死んだという実感がなかったからです。その状態で戻って来たので、“実は生きていた”的な感覚でしか驚いていません。
椿達が言った“力を研ぎ澄ます”と言うのは、ポケモンの努力値を上げるようなものです。または、かくりよの門でのボーナス値です。研ぎ澄ます事で、かなりステータスが変わります。
……実の所、ポケモンでの努力値=実戦経験みたいなものなので、例えとしては割と不適切だったり……他の分かりやすい例えが思いつきませんでした。
結局本文には出なかったこれからの行動に関する話。
一応、簡潔にここで説明すると、復興支援にあたる役割分担など、そこまで複雑な話ではなかったりします。アリシアもアリサ達に後で教えてもらいました。
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