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最後のティーゲル

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第二章

「戦車なんてな」
「幾らティーゲルでも」
「ヤーヴォにはどうしようもないからな」
「ソ連軍だったらT-34ですね」 
 ホルンシュタインはこの戦車を挙げてきた。
「それも何十両も」
「連中は今主力がベルリンに向かってるだろうな」
「首都にですか」
「守りきれるか」
「守りきって欲しいですがね」
「ああ、せめてな」
 首都はとだ、ケンプは心の中で祈った。
「そうして欲しいな」
「そうですよね」
「今年に入っていいことがないな」
 ケンプはこうも言った、四人で誰もおらず広場に停めたティーゲルの傍で。この街も空襲の跡があり半ば廃墟になっている。
「全然な」
「ええ、本当に」
「負けてばかりで」
「遂にドイツ本土に敵が来ましたし」
「四月も終わるがな」
 二十九日、今はその日だ。
「食いものも探してやっと、ガソリンも弾もな」
「そろそろないですね」
「あとどれだけ動けるか」
「そして戦えるか」
「わかったものじゃないな」
 そうした状況だった、彼等のティーゲルも。
 それでだ、ケンプは部下達にこうも言った。
「若しかすると俺達はな」
「俺達は?」
「っていいますと」
「何かあるんですか?」
「動いていて戦っている最後のティーゲルにな」
 それにというのだ。
「乗ったのかもな」
「昨日ですね」
「ここに来る前にヤーヴォから逃げましたけれど」
「あれですね」
「ああ、今だってな」 
 広場は上から見晴らしがいい、その見晴らしのよさに言うのだった。
「隠れないと駄目だしな」
「近くの建てものに隠れますか」
「俺達もティーゲルも」
「そうしますか」
「ああ、そうしような。それでな」
 ケンプは部下達にティーゲルを見つつ話した。
「今からな」
「こいつ隠しますか」
「すぐにでも」
「そうしますか」
「ああ、そして俺達もな」
 部下達も戦車を見ている、ケンプはその彼等にさらに話した。
「その建物の中に隠れるか」
「そうしますか」
「そしてこれからのことを考えますか」
「そうしますか」
「とりあえずな」
 そうしようとだ、部下達に言ってだった。
 四人で戦車に乗ってそうして近くの半ば崩れている大きな建物の中に戦車を入れて自分達もその中に隠れた。
 そこまでしてからだ、ホルンシュタインがケンプに言ってきた。
「人はいなかったですが」
「何かあったか?」
「食いものはありました」
 こう言ってだ、ひからびたパンを出してきた。
「これが」
「パンか」
「はい、これ食いますか」
「そうだな」
 ケンプはホルンシュタインのその言葉に頷いた。 
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