| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

カブソ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第六章

 それで夜の道頓堀を歩きつつだ、女は二人を出会った堀の傍にまで案内してだ、ネオンに輝く水面を見つつ話した。
「さて、今日はな」
「これで、ですね」
「お別れですね」
「そうなるな、ちなみにうちが何モンかっていうと」
「人間じゃないですよね」
「そうですよね」
 麻友も葵もこう女に返した。
「明治の頃の頃から道頓堀の隅から隅までご存知で」
「大阪全体のことも」
「織田作之助さんの細かい趣味まで知ってて」
「南海の鶴岡監督が何時どの店で遊んでたかもお話してくれましたし」
「そや、うちは人間やない」
 女自身笑ってこのことを認めた、そして。
 ドロンと白い煙を出してだ、その中で姿を変えた。煙が消えた後で出て来たのは一匹の尻尾の先が太くなっている黒猫だった。
 黒猫は二人に笑って話した。
「これがうちの真の姿や」
「化け猫ですか」
「そうだったんですね」
「いや、化け猫の親戚やけどな」
 それでもというのだった。
「ちょっとちゃうで」
「違うっていいますと」
「それじゃあ何なんですか?」
「うちはカブソっていうねん」
 それが女の名前だというのだ。
「こうした水辺に棲む妖怪や」
「だから道頓堀におられるんですか」
「それで大阪に」
「大阪って水の都ですからね」
「何かと川や堀が多くて」
 それはこの道頓堀だけではない、大阪の地名に橋が多いことも水が多いからだ。江戸が八百八町なら大坂、江戸時代まではこの言葉だったがここでは八百八橋だったのだ。
「それで、ですね」
「カブソさんみたいた妖怪もいるんですね」
「そや、うちは江戸時代の末に生まれてや」
 そうしてというのだ。
「今もここに棲んでるな」
「妖怪なんですね」
「この道頓堀の」
「そや、まあ大阪の妖怪では新顔やな」
 こうも言うのだった。
「戦国時代からおる先達さんもおるし」
「妖怪は長生きっていいますが」
「幕末からでもですか」
「そやで、それで今日は色々話したけど」
 それでもと言うのだった。
「今日の話覚えてくれたら嬉しいわ」
「絶対に覚えてます」
「そうさせてもらいます」
「そのこと頼むで。ほなな」
 それならと言うカブソだった。
「また会ったらな」
「その時はですね」
「道頓堀のお話をですね」
「いやいや、今度はカラオケ行ったりしてな」
 当然ながらカラオケボックスは道頓堀にもある。
「賑やかに遊ぼうな」
「そうしてですか」
「今度は一緒にですか」
「遊ぼうな、楽しくな」
 道頓堀らしくとだ、カブソは二人に笑顔で話してだった。
 二人を地下鉄の駅まで送って別れた、そしてその時に再会を約束して実際にまた会うのだった。親しい友人同士として。


カブソ   完


                 2018・11・29 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧