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カブソ

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第四章

「それでやっと建ったさかいな」
「空襲でなくならくてよかった」
「壊されなくて」
「ほんまにな、それでや」
「それで?」
「それでといいますと」
「道頓堀のことよかったらな」
 二人がとだ、女は言ってきた。
「もっと話そか」
「そうしてくれるんですか」
「お姉さんが」
「自分等がよかったらな」
 それならというのだ。
「そうしよか」
「はい、ちょっと道頓堀の話をしてて」
「何か知りたくなってきました」
「私達の知識だけじゃ足りないですし」
「実はあまり知らないですから」
「若いからな、ほな話すな」
 女は二人の言葉に頷いた、そしてだった。
 女は二人を川辺から戎橋のところに来た、そして戎橋のところに行くと女は足元を見つつこう言った。
「この橋は昔木製やった」
「ああ、昔はですね」
「コンクリートはなかったから」
「それで建てものもな」
 今度は橋の周りを見て言った。
「コンクリートはなくて瓦ばかりやった」
「そうですよね、昔は」
「橋だけじゃないですね」
「建てものも木で」
「瓦の屋根で」
「グリコも河豚も蟹もなかった」
 そういったものもというのだ。
「ほんまにな」
「そういうのが全然ない」
「そうだったんですね」
「そやで、ほんま全然ちゃうかったわ」
 二人を喫茶店に案内しての言葉だ。
「それで吉本も阪神もな」
「ああ、大正とかには」
「なかったですね、言われてみれば」
「阪神は昭和十一年ですし」
「吉本にしてみても」
「ほんまになかったんや」
 昔の道頓堀にはだ。
「そういうことこれから話させてもらうで」
「わかりました」
「宜しくお願いします」
「紅茶がええかコーヒーがええか」
 喫茶店に入ってだ、女は二人の飲むものについて尋ねた。
「それで」
「紅茶お願いします」
「私もです」
 二人は微笑んで同じものを頼んだ。
「ミルクティーを」
「私はレモンティーを」
「わかったわ。うちはコーヒーにするわ」
 ウェイトレスに席を案内されつつだ、女は述べた。店の中に入ってパラソルは奇麗に折り畳んでいる。
「蝶子さんと一緒や」
「蝶子って誰ですか?」 
 麻友はその名前を聞いてもぴんとこずに女に問い返した。
「一体」
「夫婦善哉の主人公や」
「ああ、自由軒の」
 そう言われると二人もわかった。
「私達の住んでいる場所の近くに織田作之助さんの銅像あります」
「あの人の作品だったんですね」 
 葵も言ってきた、ここで三人共席に座った。
「それに出て来る主人公でしたか」
「そや、オダサクさん自身コーヒーよく飲んでたわ」
 織田作之助を親しく仇名でも呼んだ。
「それでうちは今もや」
「コーヒーが好きで」
「それで、ですか」
「今も飲んでるわ。ほなな」
「今からですね」
「織田作之助さんのこともですか」
「話そか。あの人もここによお来たしな」
 それでとだ、二人に言ってだった。 
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