デジモンアドベンチャー Miracle Light
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第73話:変態仮面をぶっ飛ばせ!唸れタケルの鉄拳!!
デジタルワールドの拠点となるハニービーモンの喫茶店の休憩室で一夜を明かした子供達。
ハニービーモンが出してくれたサンドイッチ(タマゴ、ハムチーズ、バターと蜂蜜、野菜)を口にしながら大輔はゆっくりとこれからのことを話す。
「やっぱり一度奴の基地に潜入すべきかもなあ」
バターと蜂蜜のサンドイッチで糖分を補給しながら、やはり基地に一度潜入するべきだと判断した大輔。
「だね、正直中に入らないと分からないことも沢山あるから、出来ればある程度内部のことは把握しておきたいね」
「でも何の対策もなしに中に入るのは…」
「危険すぎるわ大輔君」
賢が大輔に同意するが、タケルとヒカリは少し様子を見るべきではないかと意見する。
「そりゃあ2人の言いたいことも分かるさ。でも危険だからって何もしないんじゃ、何も解決しないぞ?なあ、ブイモン?」
「んー?まあ、そうだよな。正直不意打ちくらいかけないと勝てないんじゃないか?戦力…質はこっちが上でも量は向こうが圧倒的に上だからなあ…もぐもぐ」
「口の中に入れたまま喋るの止めなさい」
テイルモンがこめかみに青筋を浮かべながら言う。
「もぐもぐ…ゴクン。よし、とにかく、あの基地を追い掛けて……隙があれば入る。無かったら隙が出来るまで待つ…しばらく経っても駄目なら正面突入だ。」
「それで失敗したらどうすんのよブイモン?」
「大丈夫だ。例え失敗しても俺達には京と言う優秀な壁役がいる」
「おい」
「ああ、成る程ね。それなら大丈夫そうだわ」
「テイルモーン!?」
ブイモンの壁役発言に京がこめかみに青筋を浮かべたが、納得したテイルモンにショックを受けた。
「と言うわけで選ばれし子供達、出動だ!!」
【おー!!】
大輔の言葉に拳を天に向ける京を除いた子供達とデジモン達。
「私の台詞ー!!と言うか誰もツッコんでくれないわけ!?ねえ!?」
「まあまあ、これでも飲んで落ち着け」
苦笑するハニービーモンが渡したのは蜂蜜ミルク。
「ありがとう…美味しい」
ハニービーモンの優しさが心に染みる京であった。
そして準備が整い、一乗寺治の基地を探し始める大輔達。
因みに大輔はネフェルティモン、賢はホルスモンに再び乗せてもらってる。
「ありがとうなネフェルティモン」
「いいわ、まあ、大輔はともかくブイモンを乗せなきゃいけないのは業腹だけど」
「俺の何が不満だ?」
「あんた、前回人を死地に弾き飛ばしといてよく言えるわね」
「ふん、人に乗せてもらってる身分だった癖に偉そうなことを言うからだスフィンクスもどきの怪物ネズミめ!!」
「誰がスフィンクスもどきの怪物ネズミですってえ!?あんた海に叩き落とし…」
「やかましい!!移動中に喧嘩すんな!!」
「「ぐふう!?」」
即座に大輔の拳骨がブイモンとネフェルティモンに炸裂した。
口喧嘩中だったから頭より舌のダメージが深刻である。
「………何やってんだか」
「飽きないね本当に…」
京と賢が呆れたように見つめる。
本当によく飽きずに喧嘩するものだ。
しかし戦闘では抜群のコンビネーションだから仲は良いのだろう。
喧嘩するほど仲が良いと言う奴だ。
途中で伊織からメールが来て、一乗寺治の基地を発見したらしいので、了解と返しておいた。
タケルとペガスモンも基地に潜入することになり、大輔達はタケル達が脱出するのを待つことにした。
「大輔君…」
「うん…嫌な感じがしやがる…」
「え?何…?大輔もヒカリちゃんも…何か顔色が…」
「2人はこういう普通は感知出来ない物に関しては敏感ですから。多分…あまり良いものではないんでしょうね」
「え?普通じゃないって?」
「以前話したでしょう?大輔とヒカリちゃんは微妙な差はあれど僕達では見聞き出来ない存在を見聞き出来る不思議な体質を持ってるんです…だからあの渦の異常さを感じてしまっている…」
しばらくすると基地が浮上し、そして基地から飛び出してくる物体に目を見開く。
「キメラモンだと!?」
「そんな!?」
「え!?何!?キメラモンって!?」
「完全体のデジモンです…それでも下手な究極体より遥かに強い厄介な存在ですよ!!」
大輔、ヒカリ、賢の脳裏に蘇るのはピエモンとの戦いで戦ったキメラモン。
このキメラモンは量産型並みの強さなのかそうでないかで、大分一乗寺治撃破の難易度が変わる。
「…ブイモン!!運命のデジメンタル。ヒカリちゃん、ネフェルティモン。援護頼むぜ」
「分かった」
「「任せて」」
「行くぜ、デジメンタルアップ!!」
「ブイモンアーマー進化、ゴールドブイドラモン!!」
光を突き破って現れたのは黄金の龍。
ブイモンから事前に聞かされていた通りの容姿だ。
成熟期のブイドラモンをベースとしたデジモンのために本来なら完全体レベルのはずが、普通の完全体にはない不思議な力強さがあった。
「行くぞ!マグナムパンチ!!」
ゴールドブイドラモンの渾身のパンチがキメラモンに炸裂し、大きく吹き飛ばす。
「何だこいつ?あの時の量産型より弱いな…」
あの継ぎ接ぎ合成獣のデジモンは間違いなくキメラモンだ。
カブテリモンの頭部。
メタルグレイモンの髪。
グレイモンの体。
エンジェモンとエアドラモンの翼。
クワガーモン、スカルグレイモン、デビモンの腕。
ガルルモンの足。
モノクロモンの尾。
成熟期と完全体の様々なデジモンを組み合わせた姿は一度見たら忘れられる物ではない。
「失敗作か?それとも合成元のデジモンの力が弱いのか…まあ、好都合だ。一気に叩き潰してやる!!」
ゴールドブイドラモンが基地にめり込んでいるキメラモンに強烈な飛び蹴り叩き込んで顔面を何回も殴りつけるのであった。
一方タケルは基地の内部を足早に進んでいた。
「タケル、待ってよ!!勝手な行動取ったら大輔怒るよ!?」
「大丈夫だよパタモン。あの変態仮面に対することなら全て許されるから」
ある物を見たタケルは荒れ狂う激情を表面に出さずに前進していた。
タケルがある場所で見たのはデビモン…正確にはそのデータだった。
恐らくファイル島で戦ったあのデビモンの残滓データだろう。
それの回収作業ををしているところを目撃したタケルは凄まじい怒りに全身を震わせた。
「(あの時、僕はどんなに願ったことか……時間が巻き戻せるものならばと……けど、時間は戻らない。嫌でも向き合わなければならない現実。僕は底なしの絶望の中、自分の運命を呪っていた)僕達が…どんな思いでこの世界を救ったのか。どれだけの犠牲を払ったのか…何も分かっちゃいない癖に…口だけは一丁前で…」
3年前の冒険は何も楽しいことばかりではない。
相当辛い思いはしたし、自分達の知らない所で苦しんでいるデジモン達も沢山いたはずだ。
ようやく手に入れた平和を掻き乱し、おまけに暗黒の力を利用しようとする馬鹿がよりにもよって賢の兄だ。
「君ぃ…良い度胸してるじゃないか…」
賢に似ているが、粘着質で嫌悪感を出させる声。
言うまでもなく一乗寺治。
「暗黒のパワーすら操り、愚か者達に裁きの鉄槌を下す神にも等しい僕の要塞に忍びこむなんて、いい度胸をしてるじゃないか」
「……ぷっ…ぷふっ、ねぇ、一乗寺さんさぁ、暗黒のパワーなんて言ってるけど、意味分かってる?分かってないよね?…怪我だけじゃ済まされないよ。いい加減大人にならないとね…生まれてくる順番を間違えたんじゃない?賢君と」
あまりの世迷い言を言う治に嘲笑して挑発するが、治の肩が震え出す。
「く、くくく…凡人よまたか?凡人よまたなのか…」
「はあ?」
いきなり笑い出し、訳の分からないことを言う治にタケルは眉間の皺を寄せる。
「凡人は常に天才を否定する。何故だ?天才が偉大な故か?天才が崇高過ぎる故か?」
「(っ…想像以上に気持ち悪っ…)」
容姿は悪趣味な格好をしているが顔立ちはやはり兄弟のためか賢に似ている。
しかし中身がアレ過ぎて全然違う。
正直同じ格好、背丈だとしてもタケルは見分けることが出来る自信がある。
「だが、悲しいな。そして哀れむべきかな?天才の行動は全て正しくても、凡人の行動はただの愚行となり罪となるのだから」
「君さ、人が一般的に君みたいな奴を何て言うか知ってる?ナルシストだよ」
「自分に酔う。それは天才にのみ…いや、僕にのみ許される特別な行為!!」
「タケル、あいつやっぱり気持ち悪い」
「うん、僕も正直吐き気がしてきた。あんなのと兄弟だなんて賢君に同情しちゃうよ」
「そうだ…君の勇気を称えて特別に外の状況を見せてあげよう。」
治が指を鳴らすと、モニターが出現し、ゴールドブイドラモンとキメラモンの戦闘が映し出された。
「キメラモン!?」
忘れはしない。
3年前の戦いで完全体であるにも関わらず驚異的な力を発揮したデジモン。
「知っているのかい?僕のオリジナルだと思ったんだけどなあ…何だい…?信じられないかい?無理もない!けれどこれは紛れもない事実だ…キメラモンは、僕が作ったデジモンだ!!」
「デジモンを作る…?本気で言ってるのか…?」
「何だ嫉妬かい?凡人は妬むことだけは一丁前だねえ。まあいいあいつらが消されるところを特別に君に見せ…」
振り返ろうとした瞬間、タケルの拳が治にめり込んだ。
「ぐはあ!?」
「デジモンを…命を作るって…何だよそりゃあ…!?僕達がどれだけの思いをして…どれだけの傷を負ってこの世界を救ったと思ってんだよ…!!」
「何だ?このゲームをしてたのかい?なら邪魔しないでくれるかなあ?このゲームの今のプレイヤーは僕なんだ。ああ、君達がこのゲームのボスか。なら倒さなくては…あぐ!?」
「ああ、そうだね。ゲームの主人公気取りの馬鹿はさっさと叩き潰してあげないといけないね…!!」
タケルの怒りが臨界点を突破して治を叩き潰しにかかる。
「うおりゃああああ!!」
ゴールドブイドラモンがキメラモンの脳天に強烈な拳を叩き込む。
先程のように勢い良く吹き飛んでいくと思ったのだが、耐え抜いたのだ。
「何ぃ!?」
「ゴールドブイドラモン!!」
「おお、エンジェウーモン。何時の間に!?」
何時の間にテイルモンは完全体に進化したのだろう。
気付けばワームモンも成熟期に進化していた。
「あんたが戦っている間に進化させてもらったわ。タケル達が出て来るまで踏ん張るわよ!!」
「おう!!」
「ホルスモン、アーマーチェンジ!!」
「アーマーチェンジ、ピーコックモン!!」
奇跡のデジメンタルを使用して誕生したのはブルーメタリックのクロンデジゾイド合金のボディの孔雀のようなマシーン型デジモン。
両腕のレーザーウィングから光線を放つ。
「レインボーシャワー!!」
放たれた光線はキメラモンに見事命中し、ダメージを与える。
「ビンゴ!!」
「流石、奇跡のデジメンタルのアーマー体。普通のアーマー体とは桁外れのスペックだ。スティングモン。スピードで攪乱するよ」
「分かった」
回収した暗黒のデジメンタルで成熟期に進化したスティングモンはキメラモンをスピードで攪乱する。
「気をつけろエンジェウーモン。あいつどんどん強くなっていく」
「ええ、あんたも気をつけなさい」
ゴールドブイドラモンが再び突撃し、エンジェウーモンはサポートに徹する。
基地の中でもタケルと治の戦いは続いていた。
「お前みたいな奴にこれ以上滅茶苦茶にされてたまるか!!」
「僕は何をしても許される!!優れた存在の僕が格下の存在をどう扱おうが僕の勝手だ!!」
「どこまで傲慢なんだお前は!!」
「傲慢?違うね、これは当然のことさ。世界を動かしてきたのは僕のような天才なんだ!!」
「だったら、お前のその傲慢さを打ち砕いてやる!!」
タケルの攻撃は熾烈さを増していき、馬乗りになって殴りつける。
モニターではゴールドブイドラモン達とキメラモンの激闘が映っており、ゴールドブイドラモン達の表情は怒りで染まっていた。
当然だ、キメラモンは幾つもの命を犠牲にして作り出される。
それを大輔達が怒らないはずがない。
ゴールドブイドラモン達を見た治は笑みを浮かべてタケルを弾き飛ばした。
「くっ」
「ふふふ…成る程、あのデジモン達が妙に強いと思ったら感情を力に変えているのか。何て野蛮な戦い方だ。」
「野蛮なのはお前だろ…っ」
「だが、キメラモンを強くするヒントにはなったかな」
「は?」
治の言葉に疑問を浮かべた瞬間、治の体から黒い靄が噴き出す。
「っ!?」
「キメラモン、僕のパートナーデジモンよ。僕の感情を力に変えるがいい。向こうの虫螻達への!!僕の邪魔をする凡人達への!!そして…僕という優れた存在がいるにも関わらず、凡人達を選んだこの腐りきった世界の理不尽への感情を取り込んで力に変えろ!!」
靄がキメラモンに向かって突き進む。
キメラモンが黒い靄に包まれ、ゴールドブイドラモン達を吹き飛ばした。
「あ!?」
「ふははは!!どうだ凡人共!!いくら数がいても凡人が天才に勝てるわけがないんだ!!」
「(何だあいつ?本当に…人間なのか…?いや、あれはもう人間の皮を被った化け物だ。)パタモン、大輔君達に加勢するよ。その前に…デジメンタルアップ!!」
使用するのは暗黒のデジメンタル。
「パタモン進化、エンジェモン!!」
「む!?」
「まずはキメラモンをパワーアップさせているあいつを止めるんだ!!」
「ヘブンズナックル!!」
「ぐあああ!?」
キメラモンのパワーアップ源である治にエンジェモンは威力を限界まで弱めた一撃を放った。
人間でもただ軽い痛みが走る程度の威力だったのだが。
「あ…が…ああああ…」
直撃を受けた治は悶え苦しむのを見たタケルは違和感を感じた。
「まるで、暗黒デジモンのよう…うわっ!?」
熱線がタケルの近くの壁を破壊する。
「考えてる暇はないか…一乗寺治!!お前が人間じゃないことは良く分かった。次は手加減なんかしないからな!!」
のたうち回る治に構わず、タケルはエンジェモンと共に基地を飛び出した。
「ブイブレスアロー!!」
ゴールドブイドラモンが放った熱線とキメラモンが放った熱線が拮抗している。
「ヘブンズナックル!!」
デビモンの腕に聖なる光を叩き込む。
闇の属性を持つデビモンの腕にはエンジェモンの攻撃は効いたらしく、熱線の勢いが弱まる。
「吹き飛べ!!」
ゴールドブイドラモンが熱線の勢いを倍増させ、キメラモンを吹き飛ばした。
「タケル!!」
「大輔君!!みんな!!ここは一度撤退しよう。」
「…ああ!!」
タケルに撤退を促され、大輔達は基地から離れる。
「まさかキメラモンを出してくるとはなあ」
「…キメラモンもだけど、一乗寺治はもう人間として見ない方がいいと思う。僕は見たんだ。あいつから放たれた暗黒の波動がキメラモンを強くしたのを。それにあいつ、エンジェモンの攻撃を受けた際凄く苦しんでた。」
「いや、デジモンの技喰らったら…」
「ちゃんと威力は弱めてたよ。少し痛いくらいの威力でだよ。まるで暗黒デジモンだ」
「……あの野郎、マジでどうなってんだ?」
大輔の呟きが妙に子供達の耳に残った。
後書き
因みに伊織は脱出してます
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