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永遠の謎

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452部分:第二十七話 愛を呪うその二十二


第二十七話 愛を呪うその二十二

「ならば最早だ」
「ミュンヘンに留まる理由もないと」
「そうなってきた。ドイツの美の軸となるべきなのは」
 王はだ。やはりそこに行き着くのだった。
「ワーグナーなのだ」
「あの方ですか」
「彼の芸術、美こそがその軸となるべきなのだ」
 だがそのワーグナーはだというのだ。
「しかし彼はバイロイトに行く」
「あの街はドイツの中央にありますね」
「理には適っているのだ。ドイツ中から人が行き来する」
 ドイツの中央にあるが故だ。そしてそこならば彼を攻撃する者もいない。彼にとって悪いことはない。だからこそバイロイトを選んだのだ。
 王はそうしたことはわかっていた。しかし感情としては。
「彼は私の下から去ることを選んだのだ」
「そうなるのですか」
「なる。ミュンヘンは彼を拒んだ」
 二度も追い出した。結果として。
「そして私についても色々と言う」
「そういう者もいますが」
「言い、そして見る」
 このことが加わるとだ。ホルニヒもだ。
 言えなくなった。しかし王はさらに言うのだった。
「逃れたくなったのだ」
「そうなのですか」
「私は。ミュンヘンを出たい」
 王は確かに言った。
「そしてあるべき場所にあるべき場所を築き」
「そうしてなのですね」
「そこにいたい。私のこの世の最後まで」
 心からだ。そう思いだしていたのだ。
 王は次第にこの世も、そして人も厭いだしていた。そしてそれは止まらなくなってきていた。
 だからこそだ。己の部屋にいてもだ。
 周りの者達にだ。こう言ったのだった。
「部屋の中に胸像を置いて下さい」
「ゾフィー様のものをでしょうか」
「いえ、ワーグナーのものをです」
 彼のそれをだ。置いて欲しいというのだ。
「そうして下さい」
「えっ、お后様のものではなくですか」
「ワーグナー氏のものを」
「それをなのですか」
「はい、それを御願いします」
 ソファーに座りながらだ。王は何処か虚ろな声で告げた。
「彼の像を」
「既にあの方の肖像画がありますが」
「そこにさらにですか」
「ワーグナー氏ですか」
「あの方の」
「そうです。ワーグナーです」 
 やはりだ。彼だというのだ。
「彼です」
「陛下がそう仰るのならです」
「そう致します」
 周りはだ。王の言葉に戸惑いながらもだ。
 王の言葉だからこそだ。従うことにした。
 それでだ。早速ワーグナーの胸像が造られたのだった。
 その完成を待ちながらだ。王はまたホルニヒに話した。
「やはり私はおかしいのだろうか」
「といいますと」
「女性は愛そうとしても愛せない」
 ある一点を見詰めながら。そのうえでの言葉だった。
「幾ら努力してもだ。いや」
「いや?」
「シシィは愛しているのだろうか」
 オーストリア皇后については。どうかというのだ。
 
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