魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第183話「異変と再召喚について」
前書き
前回判明した異常について。
久しぶりのキャラが登場します。
=out side=
「……これは……」
とある世界、とある場所に存在する研究所。
そこで、一人の少女が研究所の機械で判明した内容に目を走らせていた。
「……通りで、時間移動が不可能になったのか、理解できました……もしや、あの二人を帰す際の違和感も、これが……?」
「ユーリ、何をしているんだい?」
「っ!」
後ろから話しかけられ、少女……ユーリは驚く。
「……博士でしたか……」
「ここは時間に関する研究施設だけど……何か気になる事でも?」
「はい。ここしばらく、時間移動に関する事が不可能になっていました。最初はただの時空の乱れ……私達の時間移動による反動だと思っていたのですが……」
そう言って、ユーリは博士……グランツに研究データを見せる。
「どうやら、それとは関係ないようです」
「時間移動の影響は別にあったと言う訳だね?しかし、これは……」
「先ほど、運よく見つける事が出来た解析データです」
そのデータに示されているのは、空間や時間に関するものだった。
それを見て、グランツも驚愕に目を見開く。
「よく時間からこんな観測を……と言いたい所だけど、それ以上に……」
「はい……時間と言う境界が薄れています」
「……これは、まずいね……」
ユーリの返答に、グランツは顎に手をやって考えこむ。
傍から見ればどういう事か聞きたくなる事だが、二人は今ので通じ合ったらしい。
「あの時、彼女たちを帰した時の違和感も、それという訳だね……」
「推測ですけど……はい。……多分、境界が薄れた事による“過去と未来の融合”が起きていると見られます」
時間の境界が薄れる。
それは、簡単に言えば過去と未来の区別がつかなくなるという事。
優輝達の方であった、“幽世と現世の融合”と同じように、こちらでも“過去と未来の融合”が起きるかもしれない状態になっていたのだ。
「不思議なのは、そんな事態になっても空間に悪影響が起きていない事だね……」
「まるで、混ざる事が自然現象かのようです」
「原因は……掴めてるかい?」
「いえ。心当たりもありません」
優輝達と違い、こちらでは何が原因なのか、手掛かりが一切ない。
そのため、対策を練る事もできなかった。
「ただ、この世界と別の時間が融合するという事は、相手側の世界でも何かが起きているという事です。……これは、世界そのものに異常が発生していると見ていいかもしれません」
「……至急皆を集めよう。これは“死蝕”以来の緊急事態だ」
「はい。シュテル達はこちらで呼びます。アミタ達は博士が」
「任せてくれたまえ」
すぐに解明と対策を行うために、そのメンバーを集める行動に出る。
娘たちを呼びに行った博士を見送ったユーリは、解析データを見直す。
「……相手側の時間軸。僅かにしか信号を捉える事が出来ませんでしたが……」
そう呟きながら、ユーリはその僅かな信号を思い出しながら、機械に打ち込む。
「……やはり、ですか」
その信号データから出た解析結果に、ユーリは予想が当たったと溜息を吐いた。
「おおよそ三年後。ここから混ざっていくのですね」
それは、ユーリ達がいた時間からの計算。
つまり、ちょうど優輝達が幽世の大門を閉じた後辺りの時間だった。
「っ………!」
「……ドクター?」
一方、優輝がいる時間軸。
とある次元世界にある研究所で、ジェイルが普段は見られない切迫した表情をしていた。
「……ウーノ、至急クアットロを呼んでほしい。ドゥーエもいればいいが、彼女は潜入している身なのでね……」
「……了解しました」
ジェイルのその様子に、ウーノは内心驚愕する。
どんな状況でも正面から笑って受け止めるようなジェイルが、冷や汗を掻いているのだ。
明らかに重要な案件だと察し、すぐさまクアットロを呼び出す事にした。
「(クアットロと無理だったとはいえドゥーエを呼ぶ……頭脳派を集めるつもりですね)」
選んだメンバーから、ウーノは頭脳派を集めるのだと理解する。
同時に、知恵を集める必要があるのだとも理解した。
「(ドクターが真剣になるほど……一体、何が?)」
大胆不敵な笑みが消えていた。
それだけでウーノにとっては信じられない事だった。
何事なのか気になる事もあったが、まずは言われた事をこなすのだった。
「はぁーい、ドクター。お呼びですかぁ?」
数分後。ジェイル、ウーノ、クアットロが揃った。
クアットロも口調こそいつも通りだが、ジェイルの様子を見て、すぐにただ事ではないと理解していた。
「……発見したのは偶然でね。私は時空間に関する観測を行っていたのだよ」
「時空間……なるほど、幽世ですか」
「そう。優輝君の世界に存在する次元世界とは違う異世界。つい興味を持って調べていたのさ。……しかし」
ジェイルは幽世の大門が開いた事を観測していた。
その時に幽世について知り、独自に調べていたのだ。
空間ではなく時空間なのは、ジェイルなりのアプローチの仕方だったりする。
「その最中、異常を見つけた」
「……それが、ドクターを驚かせる程のものだった、と?」
「その通り。さしもの私も冷や汗が止まらなかったよ」
「それはまた……」
“あのドクターが”と言った風に、ウーノとクアットロは驚きを隠せない。
そんな二人に構わず、ジェイルは話を続ける。
「空間の異常。それだけなら私もそこまで驚かない。しかし、今回は“時空間”だ。……発見したのは、本当に偶然だったよ。私ほどの天才でもなければ、気づいても見逃していたほどだ」
「一体、何を発見したのですか?」
「……世界の歪みさ」
ジェイルの答えに、ウーノもクアットロもピンと来なかった。
「例えるなら、布などにあるほんの小さな皺。そんな歪みが、地球に存在していた。尤も、ただこれだけなら、ただ単に魔力などの力場の影響で済んだだろう」
空間の歪み。それ自体はさほどおかしいものでもない。
それは、次元震が起きれば確実に発生するようなものだったからだ。
「しかし、これはそんな範疇には収まらない。マッチの火だと思っていたものが、アルコールランプの火だったように、消える事なく燻り続ける。ここからは私の予想になるが、この歪みはやがて全ての次元世界に影響するだろう」
「……それは、つまり全次元世界の崩壊が?」
「いや、例えでアルコールランプを使ったように、飽くまで小さな歪みのままだ。プール一杯の水を、少しばかり濁らせたに過ぎないさ。世界にそこまで影響はない」
「それだと、大した問題じゃないと思うのだけどぉ?」
ウーノもクアットロも、そこまで問題には思えなかった。
しかし、ジェイルは依然として真剣な顔のままだった。
「これは、布石なのさ。この歪みはその世界を“特異点”とするのだよ」
「特異……点……?」
「“何か”が地球に楔を打ち込んだと見るべきだろうね。……これから何が起きるのか私にもわからない。だからこそ、二人にも共に考えてほしいのだよ。これから、どうするべきかをね」
抽象的で要領の得ない説明に、ウーノとクアットロは理解に時間がかかる。
だが、地球で何かが起こると言うのは、すぐにでも理解できた。
故に、その対策のためにもすぐに知恵を巡らす事になった。
「どうだったんだ?」
アースラへ帰還した優輝達に、クロノが声を掛ける。
「……管理局に、世界の融合を止める技術はあるかしら?」
「は……?」
鈴から出た唐突な質問とその内容に、クロノは間の抜けた声を出す。
直後に何かあったのだと即座に理解した。
「大門の封印は完璧。瘴気の影響も徐々になくなっていく。……だけど、調査すれば大門周辺の空間に異常が発生していた」
「世界の融合……という言葉からして、違う世界と混ざるかもしれないのか?」
僅かなワードから何があったのか推測するクロノ。
そんなクロノの理解の早さに感心しつつ、優輝は簡潔に事情を伝える。
「っ……また、面倒ごとだな……」
「今回ばかりは何の対策も持ち合わせていない。幸いにも猶予はあるようだから、時間を掛けて解析をすれば或いは……と言った所だな」
「表裏一体の世界の境界が薄れる……そんな事象は管理局の歴史上にない出来事だ。……無限書庫から情報を得ようにも、該当しないかもしれないな……」
二つの世界が混ざり合う。
それはクロノに言わせれば二つの次元世界が混ざるようなものだ。
そんな出来事は今までになかった。あったとしても、混ざる事はなく対消滅するような事件としてしか記録されていないだろう。
「管理局も万能じゃない。……こちらも、打つ手はない」
「そうか。……とりあえず、こちらで解析してみる。彼女も躍起になっている事だしな」
大門の後始末の事もあり、これ以上クロノ達は事情を背負う事が出来ない。
その上に打つ手もないため、全面的に優輝達に任せる事になった。
一方で、鈴はこの状況に躍起になって解決しようと張り切っていた。
地球の、それも現世と幽世が大きく関わっているため、無視できないようだ。
「……幽世側もこの事に気付いているかもしれないな」
「幽世側……と言うと、幽世の神などか?」
「幽世の神、大門の守護者、そして緋雪。この三人は間違いなく向こう側にいるだろう。……そして、幽世を管理する立場であれば、この異常にも気づけるだろう」
この問題は現世側だけでなく、幽世側の問題でもある。
そして、幽世そのものを管理する立場である紫陽ならば、二つの世界の境界が薄れている事に気付いているだろうと、優輝は推測していた。
「もしかすれば、向こう側からコンタクトがあるかもしれない」
「なるほど……上手く連携を取って解決できればいいが……」
「それ自体は今後に期待するしかないだろう」
問題が山積みだと言うのに、さらに問題が積まれていく。
その事にクロノは溜息を吐いた。
「……とにかく、そちらに関しては後手に回るしかないだろう。少なくとも、今直面している事にひと段落を付けない限りはな」
「だろうな」
今は対処に回れない。クロノがそう言って、この話は締めくくられた。
その後、優輝達四人は一度個室に移動した。
「一体、どうなっちゃうんだろう……」
「もう少し詳しくわからないと何とも言えないわ。……最悪、取り返しのつかない事態になるかもしれないけど、様子を見るしかないわね」
不安そうに呟いた司に、鈴が難しそうな顔をしながら答える。
その視線は、マーリンが記録していた先ほどの調査結果に固定されている。
「……やっぱり、基点はここね」
〈彼らの言う“パンドラの箱”が起動した場所だね〉
鈴はずっと少ない情報で分かる限りの解析を試みていた。
その結果、原因が“パンドラの箱”だと確信できるぐらいまで判明した。
「となると、その“パンドラの箱”を探らないと話にならなさそうね」
「……でも、肝心の“パンドラの箱”はもう封印されてるよ?」
「あのロストロギアの得体の知れなさは異常だ。……藪蛇でしかない」
「…………」
事件を巻き起こした“パンドラの箱”を探るべきだと、鈴は言う。
しかし、不用意に探るのは危険だと優輝が忠告する。
「そもそも、あれはどうやら僕に解析させるように用意したみたいだからな。僕以外では碌に解析もできないと考えるべきだろう」
「貴方だけが?……おかしくないかしら?それ」
「……ああ。そうだな」
鈴の指摘に、優輝は否定する事なく頷く。
「残念ながら、僕の記憶の限りでは心当たりはない」
「聞く前に答えるのね。……なるほど、“記憶の限りは”……ね……」
「そういう事だ。尤も、根拠も何もない憶測だが」
「……?どういう事?」
言外で交わされたそのやり取りを、司は理解できずに尋ねる。
奏も同じくわかっていないようで、首を傾げていた。
「簡単に言えば、覚えていないだけで関わりがあるかもしれないのよ」
「元々、転生して記憶が残っているケースの方が珍しい。転生者という立場なせいでその感覚は薄れているだろうがな」
「それって……」
「前世の前世、そのまた前世。……まぁ、わからないが、“志導優輝”として生きているのは今と前世だ。“パンドラの箱”を仕掛けた下手人は、飽くまで今の僕の名前を知っていただけで、それより以前の人生で関わっていたのかもしれない」
優輝にとって、導王時代も前世も心当たりがない。
それなのに今の自分を知ると言う事は、自分の知らない自分と会っていると考えた。
……例え、その存在が明らかに人智を超えた存在かもしれないのだとしても。
「そ、そんなの……!それで優輝君を標的にするなんて、おかしいよ!」
「相手にとってはそうではないんだろう」
「肉体や記憶ではなく、その魂に用があるって事ね」
「理不尽……」
「相手はおそらく神の類だもの。おかしくはないわ」
司と奏の文句を、鈴は切って捨てる。
人間としては理不尽だろうが、神のような立場ならあり得なくはない。
魂に執着していても、然程おかしくはなかった。
「まぁ、今注目するべきなのはその“パンドラの箱”よりも幽世と現世の融合についてなんだけどね。……その対処法の鍵を握ってそうなのも“パンドラの箱”だけど」
「……あれ?詰んでないかな?それ?」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず……だな」
「さすがにいきなりは厳しいと思うから、別の方法を探すべきだけどね」
話が逸れていたが、結局の所目下の目的は幽世と現世の融合を防ぐ事だ。
例え、その方法を解明できそうだとしても、大きなリスクを冒すため後回しにした。
「……とにかく、今は後回しにするしかないわね。幸いと言うべきか、猶予はあるわ。その間に手札を揃えれば……」
「でも、こんなの前例がないから、手札を増やそうにも……」
「そこは何とかするしかないわよ」
全てが手探りになる。
だが、例え手探りになろうとも、出来る限り手札は増やすべきだと鈴は判断した。
「手始めに、行く前も話していた再召喚についてね」
「あっ、そうだった!忘れてた……」
「まぁ、あんな事があれば仕方ないわよ」
元から調査するとはいえ、ついでで行った調査で驚愕の事実が判明したのだ。
再召喚について失念してしまっても無理はない。
「再召喚……と言うより、式姫を召喚するにはいくつか条件があるわ。まずは型紙の存在。普通の召喚なら触媒になり得る呪いが必要だけど、再召喚の場合はその式姫との“縁”と型紙があればいいわ」
「型紙と“縁”……なるほど、だからあの時確かめたのか」
昨日、鈴が優輝の持つ型紙を確認したのは、それを確認するためだった。
前提としてこれらが存在しなければならないが、しっかりと存在していたため、鈴はあの時確信して言っていたのだ。
「次に式姫を召喚するに足る陰陽師としての力。これに関しては説明する必要はないでしょう。元々契約出来ていたもの」
型紙があっても、使役する力量が伴っていなければならない。
これは式姫だけでなく、様々な存在を使役する際に当然のように問われる事だ。
尤も、元々契約出来ていた優輝には関係のない事だったが。
「最後に召喚する際の環境ね。これにはいくつかに分けられるわね。一つは伝承や信仰ね。これは妖や神も同じだけど、存在が信じられなければ存在そのものを保てないわ」
「……椿さん達に聞いた事があるような……」
「霊術を習う時に言ってたよね?」
「知っているなら話が早いわ。これも貴方達が知っているのと、皮肉な事だけど大門が開いた事で妖などが信じられるようになったから問題ないわ」
式姫を知るにあたって重要な事である。
そのため、優輝だけでなく司と奏も椿と葵から知らされていた。
「もう一つは大気中の霊気ね。こればかりは時代と共にどんどん薄れていったみたいね。科学技術が発展しすぎた弊害ね」
「え……じゃあ……」
「それも解決済み。どうやったかは知らないけど、江戸時代に近いぐらいには元に戻っているわ。これは那美から聞いたけど、幽世の神が均衡を保つためにやったみたいね」
「よ、よかった……」
大気中の霊気。それは召喚するための霊力が個人では足りないために必要だった。
何人も協力すれば使わなくとも可能だが、霊気が戻った今は関係ない。
「……で、次に霊脈ね。現代では、パワースポットとか呼ばれている場所が霊脈のある場所だったりするわね」
霊脈に関しては、霊気と同じような理由で必要になる。
再召喚の準備にあたって大門の調査をしたのもこのためだ。
「できれば大門の所にある霊脈を使いたかったのだけど……」
「何か、問題が?」
「……式姫は元々幽世側の存在。再召喚するということは、幽世と現世を引き寄せあう事になる。それを、二つの世界が混ざり合いかけている時に行うのは、悪手ということか」
「そういうことよ。特に大門の霊脈を使うのは危険過ぎるわ」
幽世と現世の融合の基点となっているのも、大門のある場所だ。
そんな場所で召喚は行う訳にはいかなかった。
「他の霊脈は無理なのか?」
「再召喚における最後の条件に合うのかがわからないのよ」
優輝の言葉に、悩むような素振りを見せながら鈴は答える。
「普通の召喚ならどこの霊脈でもいいけど、再召喚だとその式姫と術者双方に“縁”のある場所でないといけないの。大門なら幽世に近いから、二人は幽世との“縁”。貴方はそこに辿り着いた事で発生した“縁”でどうにかなったのだけどね……」
「双方に“縁”がある場所……」
鈴は口にしていなかったが、それは再召喚において最も重要な事だった。
式姫という存在は、同じ名前で別の個体が存在する。
違う陰陽師がそれぞれ同じ式姫を使役している事もあるのだ。
そのために、椿や葵のように固有の名前を付けていた。
「それがなかったら、どうなるの……?」
「ほぼ確実に、別のかやのひめと薔薇姫が召喚されるわ。……もちろん、貴方達と過ごした記憶を持たない、別の個体のね」
「っ……!」
見た目が同じの別人が召喚される。
それは、優輝たちにとって最悪の未来だ。
結局椿と葵と言う唯一無二の存在は帰ってこない。
それだけでなく、なまじ記憶以外が同じために新たに召喚されたかやのひめと薔薇姫の二人との間に軋轢も生まれてしまう。
どうあってもマイナスの結果にしかならないのが手に取るようにわかってしまった。
「……他に、“縁”のある霊脈が……」
「―――あるぞ」
行き詰った。そう思った鈴を遮るように、優輝がそういった。
「え……?」
「僕と、二人。その両方に“縁”があって、尚且つ霊脈がある場所」
「優輝さん、そこって……」
あっさりと言ってのける優輝に、奏が聞き返す。
「………八束神社だ」
優輝は、そんな奏の言葉を聞いて、若干勿体ぶるように間を置き、その場所を口にした。
―――一方、幽世にて………
「どう?緋雪ちゃん?」
「……結構境界が薄れてるみたいです。以前よりもサーチャーを阻む感覚が薄いです」
幽世の端であり中心となる場所。
所謂現世に最も近い場所に、とこよと緋雪がいた。
「紫陽さんの言う通り、このままだと現世と幽世は……」
「まずいね……」
優輝の予想通り、緋雪達も二つの世界の異常に気付いていた。
今は、その調査に来ていたのだ。
「常世の境も縮小している。これも異常だよ……。境界が薄れて混ざり合う副次効果だというのはわかるけど、それが起きること自体が異常だし」
「おまけに、縮小の影響で常世の境の瘴気が流出していますしね……」
「紫陽ちゃんが何とかしてこっちで処理しているからいいけど、このままだと現世にも影響が出るからね……向こうも、気付いていればいいんだけど……」
緋雪達が現在いる場所も、常世の境に近い。
そのために瘴気から妖が現れて襲い掛かってくる。
「……お兄ちゃん達なら、きっと気付いてくれると思います」
「……相変わらず、お兄さんへの信頼感が凄いね。……でも、確かに。彼らだけじゃなく、鈴さんや残った式姫、土御門の人たちもいるみたいだし、気付いているかもね」
そんな妖達を一蹴しながら、二人はその場を離れていく。
「……でも、連絡を取り合った方がいいかも」
「はい。二つの世界が混ざり合う。そんな事態は向こうと連携して取り掛からないと解決できないと思いますから」
「うーん、前途多難だなぁ……」
とこよは溜息を吐き、ぼやく。
しかし、緋雪には世界が混ざり合う件だけを悩んでいるようには見えなかった。
「とこよさん……他にも、何かあるんですか?」
「んー……直感、なんだけどね。世界が混ざり合う事も含めて、何か途轍もなく大きな事が起こりそう……なんて気になってね」
「そうですか……」
実際、混ざり合う原因を調べようとした時点で、途方もないとわかっていた。
そのため、緋雪も驚く事はなかったが、確かに悩みの種だとも理解していた。
「まぁ、こっち側からわかる事は限られてるから、今は後回しかな」
「……そうですね。私たちにできる事をしましょう」
瘴気の影響が完全になくなった場所まで来た所で、緋雪が魔法を使う。
その魔法で二人は転移し、幽世での居住区に移動した。
「……目下の行動としては……」
「幽世に流れ着いた人への対処……ですね」
移動先には、多くの人が集まっていた。
その人達は、全て大門が開いた影響で死んだり殺された人たちだった。
地球の一般人、退魔士だけでなく、魔導師もそこにはいた。
その中には、当然ティーダも存在していた。
「事情の説明は済んだんだよね?」
「はい。一応、ですけどね」
「じゃあ、まずは統率からかな」
流れ着いた人達はほとんどが不安そうにしていた。
まずは、その不安を取り除く事が、二人のやるべき事になった。
後書き
久々のエルトリア勢&ジェイルの登場。
時間移動が出来たエルトリア勢と天才のジェイルにかかれば、優輝たちと同じように異常に気づけます。それぞれ別視点からですけど。
原作通りドゥーエさんは管理局に潜入済みです。
なお、万が一優輝辺りとすれ違うと正体を看破される模様(そんな展開にはならないけど)。
式姫召喚の条件は大体独自設定です。式姫転遊記の設定と今まで召喚などが出来なかった理由などを照らし合わせて適当に組み立てています。
とこよの紫陽に対する二人称は、うつしよの帳本編ではさん付けでしたが、長年一緒にいたことでちゃん付けに変わっています。
ちなみに、ティーダが追いかけていた次元犯罪者も幽世に流れ着いていますが、一度暴れた後にあっさり鎮圧されて拘束されています。
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