Unoffici@l Glory
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1st season
10th night
前書き
仕事が変わって、携帯弄くりやすくなったから話も指も進む進む。
グレーラビットがNSX-Rに乗り換えてから数日。「ゴシップハンター」が経営する「Garage Carcass」には、C2エリアで撃墜されたという報告が相次いでいた。今日もまた、店舗の喫煙ブースにて、昨夜の内に遭遇したドライバー達の報告会が行われている。それを少し離れた位置で聞いているのは、店長と一人の青年であった。
「ふぅん、またエラく飛ばしてる奴も出てきたもんだねぇ」
「NSX相手じゃ、エリーゼじゃ勝てないですかね?」
「銀座から湾岸合流までのエリアでブッちぎれるなら挑んでみたらいいんじゃないか?」
「無理ですわー。イキッてたらいつの間にやらR4Aに負けたって噂になった、あのアメ車集団も食われたんでしょ?」
「リーダーは廃車でしばらく再起不能だから、残ったメンバーらしいけどな。湾岸合流で置いていかれたって話だから、パワー至上主義のアイツらからしたらプライドズッタズタだろうねぇ」
店長はニヤニヤしながら、彼自ら面倒を見ている青年に話す。
「アレとC1で戦えたとしたら、お前さん勝てる自信あるかい?」
「ジリ貧になった上で何かが起こればってイメージしか沸きませんけどねぇ」
「多分、あのZZTセリカなら勝つぞ」
「マジですか?」
「じゃなかったら、C1最速なんて名乗れねぇよ。まだまだ修行不足だね、お前さんも」
「……そういや、あのエボインプの二人組、まだ決着付けてないんですよねぇ」
「おいおい、そこからじゃねぇか」
ボヤく青年の背中を、ゲラゲラ笑いながら叩く店長であった。
走り始める連中が準備をしたりと蠢く20時頃。都内某所の駐車場で、いかにも金のなさそうな服装をした3人の男たちが、缶コーヒー片手に集まっていた。
「なぁ、聞いたか。黒いNSXの噂」
「ああ。手当たり次第に吹っ掛けちゃあ、煽りに煽り倒してぶっちぎっていくって話だろ?」
「奴と戦って事故った奴こそいねぇが、勝った奴もいねぇって話だ。今湾岸合流からレイブリのエリアで暴れまわってるらしいぜ」
ため息をつきながらうなだれる3人組。そこにコンビニ戻りだろうか、ビニール袋を提げたとある青年が、その三人組に声をかけた。
「その話、もう少し詳しく聞いてもいいか?」
三人組は、突然現れた青年に面食らいながらも返す。
「いや、俺らにも大したことはわからねぇよ。会ったことがあるわけじゃねぇし」
「知る限りでいい。会ってみたくてね」
「挑むつもりか?やめといた方が……」
「それを決めるのは俺であってアンタラじゃあない。それとも、本当に何も知らないのか?」
「あぁ、噂以上のモンは知らないよ」
「……失礼、邪魔したな」
そのまま青年は立ち去り、愛車へと向かっていった。
「なんだったんだ?今の……」
「おい見ろ!今の奴が乗った車……」
「あれは……」
駐車場を出ていった黄色のRX-8を見て、さらに呆気にとられた三人組であった。
その噂のドライバーであるグレーラビットは、NSX-Rを借りてから2週間、C2エリアを走りこんでいる。Z32にはなかった、アクセルを踏んだ途端に後輪に襲い掛かってくるビッグパワーを制御することは容易ではなかった。
「Damn it……冗談じゃねぇ……」
NSX-RはMRであるため、パワーが上がればFR以上にシビアなアクセルコントロールを要求される。マシンに振り回されている彼が、これまでよりも車格が上の相手とのバトルで勝利を重ねられたのは、今はマシンのおかげと言えるだろう。
「……どんなTuneをやりゃ、こんなオンボロがここまで化けやがるんだ?こんなんじゃ、どこ吹っ飛ぶかわかんねぇし本気で踏めやしねぇ……」
深夜に差し掛かろうとする23時頃。数回のバトルをこなし、芝浦PAにて缶コーヒー片手にベンチで休憩中の彼に、話しかける影が一つ。
「よう、久しぶりだな。噂は聞いてるぜ」
「……テメェか」
話しかけてきたのは、雷光の疾風。走り込みの後だろうか、疲れた表情のままに、自販機で買ったペットボトルの水をその場で飲み干した。
「負けなしが続いてるってぇのにシケたツラしてんなァ。御自慢のZはどうしたヨ?」
「今整備中さ……こいつは代車だ」
「どんな店持ち込んだらこんなバケモン貸してくれるのヨ」
疾風はそのままに、グレーラビットの近くに座る。意図せずして二人同時にタバコをくわえ、火をつけた。
「……顔が重いナ。悩んでんのか?」
「……お前に話すことじゃねぇ」
「それもそうか。ヤキが回ったナ、俺も」
そこからは夜の静寂が二人を包む。どちらも話し出すことはなく、二人のタバコが消えるまで、ただ時間だけが過ぎていく。
同時刻、都内某所の古びたコンビニ。高速出入口付近であるためか、駐車場も店舗も広く、イートインコーナーが深夜でも使用できる。そこには缶ビールやチューハイを飲み、つまみを散らかしながらゲラゲラと大きな声で笑う、いかにも金欠そうな地元住まいの場末の中年集団が常連として居座っている。
「あの黒いNSXが、C2エリアで動き出したらしい」
「あぁ。どうやら、俺らより先に向こうが人材を見つけたみたいだな」
その中で、隅の席に30代ほどと思われるラフな格好の男性二人組が座っていた。酒ではなく烏龍茶のペットボトルを傍らに丼をかきこむその姿は、スーツを着ていれば営業のサラリーマンに、ツナギを着ていれば現場作業員のようにも見えた。
「どんな奴がアレに乗るのかね。俺はもう二度と御免だ。色んな意味で怖いよ、本当に」
「俺も。あれは何というか、次元が違うね」
赤いFDと赤いS15に乗る二人。現在C2エリアで最速と言われているドライバーだ。佇まいは哀愁の漂い始めた頃のくたびれた社会人にしか見えないが。
「アレに乗って出てきた奴とは本気で戦ってくれって言われたけど、あんなもん乗りこなされたらウチのモンにも勝てやせんわ」
「底が見えないもんなぁ、あの車は。何をどうしたらあんな風に仕上がるのか」
「聞きたいけど聞きたくないね。「D」って奴もそうやって産まれたって話だが」
空いた丼の器をゴミ箱へ叩き込み、二人は店を出た。周辺には飲兵衛共が散らかしたのか、アルコールの空き缶が散乱していた。
再び芝浦PA。噂になっている黒いNSX-Rと、名前が売れてきた黄色のRX-8を見てか、彼らが入ってきてから少し人だかりができてきた。
「……さて、帰る前にもうひとっ走りしてくるかな」
先にタバコを消した疾風が立ち上がり、口を開いた。それを聞いたグレーラビットが疾風を呼び止める。
「……なぁ、今から時間あるか?」
「どうした?藪から棒に」
「……久しぶりに会ったんだ。一勝負いいか?」
その瞬間、疾風の目が変わった。しかしそれは、どこか彼を非難するような色だった。
「……舐めんのも大概にしろヨ。俺を馬鹿にしてんのか?」
「……どういう意味だ?」
「お前、そのクルマに乗り換えてどれくらい経つヨ?」
それに対してグレーラビットは返せなかった。呆れたように疾風は続ける。
「前のZなら受けた。それはお前が手足のように扱えるのを知ってるからだ。サーキットを転戦してた頃から見てたから知ってる」
「……今の俺じゃ、勝負にならないって言いたいのか?」
「わかってんじゃねぇか。せめてそいつを抑えきってからモノを言えよ。俺はテメェのダチでもなんでもねぇってこと忘れてんじゃねぇだろうナ?」
突き放すような物言い。あくまでここで、戦場でたまたま出会っただけの関係であり、それ以上でもそれ以下でもない。疾風の視線がそれを物語っていた。
「テメェがソイツに命を載せれるまで、テメェとは走らねぇ。やりたきゃソイツを乗りこなすか、またあのZに乗ってから来い」
そう言い放つと、返答できなかったグレーラビットを無視し、一人PAを離れていった。
「……冗談じゃねぇ……」
口癖のような一言をこぼしつつも、彼はまだ動くことができなかった。それは屈辱か、それとも自責か。
後書き
動かすデーグイグイ動かすデー
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