| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

442部分:第二十七話 愛を呪うその十二


第二十七話 愛を呪うその十二

 それでだ。今も無念の声で語るのだ。
「誰にも止められない」
「少なくとも今は」
「私の国の者達が幾ら嫌おうともだ」
 バイエルンではプロイセンへの反感が強い。政治的、宗教的、地理的にもだ。両国は同じドイツにありながらどうしても相容れなかった。
 それでバイエルンの者の多くはプロイセンを徹底的に嫌っていた。しかしそれでもだとだ。王は全てを見抜いて今騎士に語るのである。
「ドイツはプロイセンにより統一される」
「ビスマルク卿によって」
「ビスマルク卿には私がない」
 王は彼についてもこう述べる。
「あの方はあくまでドイツのことを考えられだ」
「そしてドイツを統一する」
「そうされる」
「ここで一つ御聞きしたいのですが」
 騎士はここで王に尋ねた。
「宜しいでしょうか」
「ビスマルク卿のことだな」
「はい。陛下はバイエルン王です」
 このことが最初にあった。まずはだ。
「しかしそれでもですね」
「あの方と呼び敬意を見せるのは」
「それは何故でしょうか」
 尋ねるのはこのことだった。
「バイエルンとプロイセンの関係、そして陛下のお立場を考えますと」
「不思議に思うな」
「どうしてでしょうか」
 王に対してさらに尋ねる。
「それは」
「わかっていると思うが」
 こう前置きしてからだ。王は騎士のその問いに答えた。
「私を理解してくれ認めてくれている方だからだ」
「そうですね。ですから」
「そうだ。私を慈しんでくれる」 
 ビスマルクは自分をどう思ってくれているのか。王はこのこともわかっていた。
 だからこそだ。彼に対して敬意を払っているというのだ。
 それでだ。また話す王だった。
「あの方にシシィ」
「オーストリア皇后ですね」
「そしてワーグナー」
 最後には彼だった。
「三人だけだ。この世で私を理解してくれているのは」
「この世ではですね」
「愛してくれているのはホルニヒ」
 彼の名前も出したのだった。
「彼等の存在がどれだけ有り難いか」
「しかし四人だけだというのですね」
「この世は私にとってはあまりにも辛い」
 王の目がだ。あの遠くを見るものになった。
 その遠くを見ながらだ。騎士に話すのである。
「いるのが苦しい。しかし」
「しかし?」
「私はまだ生きなければならないのだな」
「陛下のやられるべきことがありますので」
「だからだな。仕方ないな」
「はい、今はまだです」
「ショーペンハウアー。彼の書を読んだ」
 王が嗜んでいるのはワーグナーだけではなかった。
 確かにワーグナーにまつわる、トリスタンとイゾルデに影響を与えた哲学者だがそれでもだ。王はそうした哲学についても造詣があった。
 それでだ。王はそのショーペンハウアーのことも話すのだった。
「この世は苦しみに満ちている」
「苦しみ。むしろ」
「悲しみか。そして醜い」
 ふとだ。コジマのことも思い出した。
「欺き、裏切り」
「人の性ですね」
「その性が。私には耐えられない」
 王にはだ。次第にそうなっていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧