レーヴァティン
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第八十話 繁栄の中でその八
「俺も酒も菓子もだ」
「どっちも好きなのね」
「同時に口にはしないがな」
「普通はしないでしょ」
「学園の中の神社の娘さんがそうしている」
「ああ、あの派手なファッションの巫女さんね」
「あれには驚いた」
こう言うのだった。
「おはぎを食いながら日本酒を飲むからな」
「あたしもそれはしないよ」
「酒は酒か」
「そしてお菓子はお菓子よ」
「そうして食っているか」
「そう、そしてね」
「今からだな」
「一緒に食べていいかい?お菓子」
「好きにしろ」
これが英雄の女への今の返事だった。
「食いたいならな」
「お金はあんたが払ったのにかい」
「御前も後で払えばいい」
「それでいいのかい」
「半分食え」
「じゃあ半分払えばいいんだね」
「そうしろ、じゃあな」
「隣に行くよ」
「そうしろ」
英雄はこのことも許した、するとだった。
気配は英雄の後ろから横に来た、すると英雄の横目に艶やかな顔立ち特に切れ長の睫毛の長い黒目がちの目と細い流麗な眉に白い細面が目立つ女だった。
髪は黒く長い、そして着ている服は赤地で様々な花が描かれている花魁の服を思わせる着物だった。
その女がだ、英雄の横に来てそうしてだった。
団子を手に取って口の中に入れてだ、こう言った。
「いいねえ、やっぱり」
「花魁か」
「いや、博打打ちだよ」
「それが職業か」
「そうさ、博打では負け知らずで仕切ってもね」
即ち親に回ってもというのだ。
「評判でね」
「この店にいるのか」
「雇われたんだよ、ここのヤクザ屋さんは賭場でね」
「それが仕事か」
「昔ながらのね、ヤクザ屋さんでもね」
「そこまで悪くないか」
「筋は通ってるよ、あくまでここで賭場をしているだけでね」
それだけでというのだ。
「他のことで稼いだり町人さん達に因縁つけたり他所のシマ荒らしたりしないんよ」
「そうしたヤクザ屋さんか」
「まあヤクザ屋さんの世界タチが悪いのばかりだけれどね」
「それがヤクザ屋さんの世界だな」
「そうだけれどここはまああれだよ」
「ただ柄の悪い店か」
「それ位だからいいんだよ」
「それ位ならいいな、刺青を入れていてもな」
ヤクザ者の証であるそれが背にあろうともというのだ。
「筋が通っているのならな」
「いいんだね」
「いや、それならもうだ」
筋が通っている野ならというのだ。
「ヤクザ屋さんじゃない」
「ヤクザ屋さんは筋が通っていないっていうんだね」
「それがヤクザ屋さんだ」
「つまり外道がっていうんだね」
「そうだ、外道こそがだ」
ヤクザ屋と呼ばれる者達だというのだ。
「俺はそう思う」
「じゃあ真っ当に働いていたらだね」
「それが合法ならな」
「江戸じゃ賭場は合法だよ」
「なら只柄が悪いだけだ」
それに過ぎないというのだ。
「ヤクザ屋さんじゃない」
「成程ね」
「俺はそう考えている」
「まあヤクザ屋さんってのはね」
「実際に外道だな」
「この店の人達みたいじゃないよ」
「そうだな、この賭場はどうも良心的だ」
見れば大負けしそうな客は店の者にそれ以上の勝負を止められている、また借金もさせようとしていない。
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