魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica26反逆の騎士隊~Orange Rhododendron~
†††Sideイリス†††
ミカヤちゃんとの試合を終えて、セインお手製のサンドイッチをいただいた後、オランジェ・ロドデンドロンの本日の任務である中央区アヴァロン南ベライヒの警邏に戻るべく、「いってきます!」とディード、それにルーツィアとルーツィエに挨拶。
「「「いってらっしゃいませ!」」」
3人に見送られながらフライハイト邸の正門から出て、「お待たせ、セレス」って既に外で待っていてくれたセレスと合流。今日の警邏任務はいつも通り2人1組で休憩は順番。ちなみにわたしとセレスは2番目になる。
「いやぁ、フライハイト家のご飯はいつ食べても美味しいよね! 思わずお代わりしたよ!」
「そう言ってくれるとルーツィエとルーツィアも喜ぶよ」
地下のジムにセレスも誘ったんだけど、お腹ぺこぺこだから、って理由で断ったんだよね。まぁミカヤちゃんと試合する約束をしていたのはわたしだけだから、セレスが一緒に来てもやる事はないからしょうがないけど。
「各騎、こちらシャルとセレス。これより任務に復帰する」
とにかく休憩を済ませたって旨の通信を入れると、隊のみんなから『了解』返答が入って、次に休憩に入る予定の『ではこれよりアンジェリエとアイリは昼食休憩に入ります』アンジェから連絡が入る。
「ん、了解。アンジェ、アイリのペアのあとは、最後にルシルとトリシュね」
『ああ』
『ええ。休憩まで引き続き警邏を続けます』
全体通信を切って、わたしとセレスは警邏任務を再開する。といっても管理局なんて目じゃないレベルの容赦ないやり方で犯罪者共を震撼させてるから、ザンクト・オルフェンは平和そのもの。だから暇で暇でしょうがない。
(管理局はまず、投降呼び掛けとか武装解除とかの警告から入るけど、今の騎士団は見敵必倒だからな~)
管理局法に従っていた頃は騎士団もそうしていた。軽犯罪には変わらずな対処だけど重犯罪の場合、被疑者を視界に収めた瞬間に戦闘開始。相手に抵抗させる隙を与える前に武力で制圧するのが今のやり方。殺しはしないだけでやってる事はほとんど大隊と変わらない。そうは言っても世論が今のやり方を支持してるから、今後も行い続けることだろうけど・・・。
「そういやミカヤ・シェベルとの試合はどうだった? どうせえげつない実力差を見せつけてヘコませたんだろうけど」
「そんな大人気ない真似はしない。1ラウンド目は抜刀術の欠点やらをやんわり教えて、2ラウンド目は抜刀術対決、3ラウンド目で魔法あり。そこまで引っ張ったんだから」
「ライフの減り具合はどうだったの?」
「・・・1ポイントも減らされなかったよ、わたしはね」
ミカヤちゃんは強かった。選手としては、と付くけど。ルール無用の実戦になると普通レベルだ。質問に対してそう答えるとセレスは「変なトラウマ刻んでないでしょうね?」ってジト目で見てきた。
「いい経験が出来たって逆に喜んでたよ」
「ふ~ん。まぁ彼女が真っ直ぐに受け入れたならいいか」
騎士団への評価はうなぎ上りだけど、管理局法脱退反対派に属する一定の騎士の不満は募るばかり。今は大隊と騎士団のおかげで犯罪件数は激減中だけど、大隊が潰されたらまた増えるだろう。その時に騎士団の物量では抑えきれないのは確か。
(はあ・・・・前途多難)
そうして今日の警邏任務は、何事も起きることなく終了。教会本部で任務完了を報告して、我が屋敷へと帰宅。隊のみんなで中央館のエントランスに入って「ただいま!」って挨拶すると、ルーツィとオットーとディードの4人が「おかえりなさい!」って出迎えてくれた。
「イリス、お腹空いた、もう限界・・・」
それだけを言ってバターン!と直立のままうつ伏せにぶっ倒れたクラリス。ルミナも「暇だと余計に空腹を感じるよ」ってお腹を盛大に鳴らした。ルシルがクラリスに肩を貸すように立たせて、わたし達は「準備は出来てますからどうぞ食堂へ」って先導してくれるルーツィ達に続く。食堂の長テーブルにはいろんな料理が並べられていて・・・
「すんすん・・・ハッ! いただきま~~~~す!」
匂いに釣られて復活したクラリスがものすごい勢いでダッシュして、席に着いてがっつき始めた。まずはテーブルの上に置かれてるおしぼりで手を拭いて、って注意しようと思っても今のクラリスに食事を中断するようなことを言ったら・・・。
(噛み付かれるかもしれない・・・!)
いろいろと諦めてみんなで苦笑して、それぞれ席に着いた。おしぼりでしっかりと手を拭いて「いただきます!」と挨拶。パスタを掃除機のように吸って食べてるクラリスに続いてわたしもたらこパスタなどの美味しい夕食をいただいた。ルーツィ達が食器を片付け終えたそんな中、「子供たちは今どうしてる?」ってルシルがルーツィ達に尋ねた。
「すでにお休みになられています」
「今日のトレーニングはかなりハードのようでしたし」
「ミカヤさんに相当絞られたらしく、皆さんボロボロでした」
「ですが皆さん満足そうでしたよ」
時刻は21時半。寝るには早い時間だけど、1日中トレーニングをしてたら疲れて寝るわ。ルシルはその返答に「そうか」と頷いて、わたしの方を見た。
「うん。ルーツィ、オットー、ディード。ちょっと席を外してもらえる? あと呼ぶまで食堂に誰も入れないように」
「「「「かしこまりました」」」」
4人が食堂から離れたのを確認して、わたしはチーム海鳴とアースラスタッフのみしか開けない秘匿回線を使っての通信を行う。相手は管理局本局の次元航行部、クラウディア艦長の「やっほー、クロノ」だ。
『ああ、時間通りだな。そちらは・・・君の隊のメンバーが勢ぞろいか』
クロノもまた私室に居るようで、モニターにはクロノしか映ってない。これまでに何度か行われてきた秘密会議の暗黙のルールだ。
「うん。じゃ、秘密会議開廷~」
秘密会議は、局と騎士団の内情を確認し合うためにルシルとクロノの提案の元に開かれてる。今日これまでは進展の無い話し合いばかりだったけど、今日はわたし達オランジェ・ロドデンドロンで話し合った末に生まれた推測を伝えることにした。
『ところで、これまではこの秘匿回線での会議をしていたが、この回線を開ける権利を持つアリサが大隊に下ってしまったことから、この通信が大隊も使えるんじゃないか?』
「アリサはこちらで捕まえてることから、大隊にはこの回線は使えないと見ている」
ルシルがそう答えるけど、わたし達が捕まえたのはアリサの偽者だと確定している。でもそれはまだクロノにも伝えない。何せ本物が大隊に捕まっている以上、今はまだ大隊に本物と偽者を見極める方法を見つけた事を知られてはいけない。また偽アリサを投入してきて、それが見極める方法を解決した偽アリサだとしたら、本物と区別が付けられないって話になると困る。本物にも危害が及ぶかもだし。
(ヴィヴィオ達が、なのはとフェイトとアリシアに漏らしちゃったのは痛い。あの通信を盗聴されてなければいいんだけど・・・)
『それだといいんだが・・・』
クロノの不安は解かるけど、わたし達としてはこの会議を大隊に盗聴されていようとも問題は無い。むしろ聞いていてもらった方が面倒事が少なくて助かる。そんな不安そうなクロノを他所に「で、そっちの調査の進展は何かある?」って尋ねる。
『進展というか、管理局の衰退が目に見えてきていて上層部が大慌てだよ。局の運営に必要な出資額が減ってきている。管理局、特にミッド地上本部やミッド陸士隊への批判が高まってきているな』
「その分、教会騎士団と最後の大隊の評判が上がってきている、と?」
『ええ、その通りです、騎士トリシュタン』
わたし達の推測通りだ。まぁ以前から評判云々の話は判りきっていたことだけどさ。クロノの沈痛な面持ちからして、そのヤバさ加減が伝わってくる。小さく息を吐いた後、『それと、裏切り者についても進展は無しだ』ってクロノを続けた。
『騎士団独立賛成派の局員をあれからも念入りに調べ続けているが、やはり騎士団や教会との繋がりはほぼ無い連中ばかりだった。裏金などの取引をした様子も無い。クー・ガアプ捜査部長のスキルを以ってしても異常なしと出る。こちらの調査は完全に手詰まりだ』
元特別技能捜査課の課長だったクー・ガアプ一佐は、特捜課解散後の今では本局捜査部の部長だ。
「了解。んじゃ、わたし達オランジェ・ロドデンドロンの見解を全て伝えるよ。まず、わたし達の見解だけど、教会と大隊が繋がっている、ということを前提として聞いてね」
クロノの目が一瞬だけど大きく開いて、『根拠はあるのか?』って聞いてきたことに対して、アンジェが「トリシュの言った事がですよ、ハラオウン提督」そう答えた。管理局ばかりが損をして、同じように犯罪を取り締まる騎士団だけが得をする状況に、わたし達はずっと不思議に思っていた。不正を働く局員については自業自得だけど、大隊メンバーとしての逮捕は引っ掛かる。
「邪法には邪法で、犯罪には犯罪で・・・を旨として行動する大隊は、フリー魔導師や魔導犯罪者だけでなく、局員までメンバーに入れてた。捕まったら犯罪者の汚名を着せられるのが確定しているのに。まるで局員から犯罪者を出して、管理局だけを失墜させたいかのように・・・」
大隊のやり方に賛否両論な世論だけど、局員が大隊で活動していたと判ると、その局員と管理局を叩く。身勝手な世の中には溜息が出る・・・。
『・・・事実現状がそれだな。しかし、それだけで教会と大隊が繋がっていると考えるのは無理があるんじゃないのか・・・?』
「大隊の中には確かに騎士が数多く在籍していましたが、それでも教会騎士が誰一人として在籍していないのはおかしいんです。独立以前から活動していた大隊は、法外の活動を良しとしていました。しがらみばかりの管理局法に、騎士団が縛られているという状況に不満を持っていた騎士は当然いたでしょうし、とても魅力的な組織だったことに違いありません」
トリシュの言うような連中こそが今の独立賛成派の連中だ。犯罪者に人権など必要ないって考える過激派。そんな聖職者と騎士なら、大隊に参加しようって考えることもある。けどそんな連中はいない。ただ捕まえきれてないだけかもしれない。でもそれにしては局員が捕まる頻度が高すぎる・・・って話をクロノにした。
『・・・それでもまだ確定とは言い切れないが、そう考えられるだけの要素は揃っているわけか』
「それに・・・アルファが生前、プライソンと教会の誰かが繋がってるような事を暗に示したの」
――父さんに協力してくれていたのは何も管理局だけじゃないわ。民間からも協力している組織や企業、フリーランス魔導師も居るの。もちろんイリーガルOKな、ね。それに・・・――
アルファがそう言って教会騎士だったわたしを見た。クロノは『信用できるのか? どちらかと言えばスキュラ姉妹は大隊側だぞ?』ってちょっと呆れた風に聞いてきたけど、「降参後だったから、たぶん信じられる」ってわたしは答えた。
『そうか。・・・それで、どうする。騎士団や教会を疑って掛かるとなると、君らはまさに敵のど真ん中だぞ』
「そうは言っても元より今の教会と騎士団は信じてないからね~」
「独立賛成派はもちろん、私たちと同じ反対派の中にもスパイが居ないとは限らないからさ」
「信じられるのは、この場に居る隊のみんなだけ」
カリムやシャッハすらも疑いに掛けてる。母様や父様ですら元は反対派だったのに今や賛成派になってしまってる以上、普段どおりとはいえカリムやシャッハも、偽者と入れ替わっていないって断言できる状況じゃない。だからわたしの隊のメンバーを全員、お互いにフォローしやすいように実家に住まわせてるし、仕事中だって常に2人1組で居さしてる。偽者と入れ替えさせる隙を与えない為にさ。
「で、クロノ。わたし達は早々に大隊を壊滅させて、教会と騎士団を正常化させたいわけ。だから大隊を釣ることにした」
『釣る? スパイでも送り込むのか?』
ミヤビについては話せないかな。アリサと同じようにオリジナルが捕まっている限りは・・・。わたし達が沈黙したことでクロノが『どうした?』って訝しんできたから、わたしは小さく首を横に振って、「ヴィヴィオを囮にする」って伝えた。
『っ!! 連中が狙っているヴィヴィオをか・・・!? 本人やなのはやフェイトにはどう・・・!』
「すでにヴィヴィオがなのはとフェイトを説得し終えてるし、囮になるって作戦はヴィヴィオ自身からの提案なの。わたしとルシルはその提案を基に囮作戦を練り上げただけ」
『・・・本人たちが納得済みなら僕から言うことはない』
口ではそう言ってるけを妹のフェイトや、なのはの心情を慮ってか苦い表情を浮かべてるクロノ。でも安心して欲しい。ヴィヴィオへの危険度は極力低くなるように組み立ててある。ちょこっと隠し事をした上でクロノに囮作戦の内容を伝える。ヴィヴィオやフォルセティ、イクスにアインハルトには、発信機の役目を有するルシル特製のミサンガを身に着けてもらっていて、転移で拉致されたとしても転移先の座標を知れるというもの・・・って。
「ヴィヴィオ達の誰が拉致されたとしても危害は加えられないはず。加えるつもりなら拉致なんて考えはまず出てこない。何かに利用するためと考えられるから、利用される前に助け出す」
『なるほど。他の子供たちが拉致される可能性は? ヴィヴィオ達と交換という形を持ってくるかもしれない』
それは考えてた。コロナやリオといった友人たちを先に拉致して、ヴィヴィオ達と交換するよう脅迫してくるかもしれないって。
「大隊は今のところ、犯罪者にしか手を出してない。民間人の安全には注意を払ってるし。だから、いくらヴィヴィオ達を拉致するためだからと言って関係のない子供たちを拉致したら、それこそクズの所業。その手段を選んだ時点で奴等の正義は終わる」
万が一に大隊と騎士団の繋がりがバレた場合のことを考えて、民間人への被害を出さないように細心の注意は払ってるんだろうね。騎士団が目的のために無辜の民間人すら犠牲にするってことにならないように。ま、ヴィヴィオ達を拉致すればそんなこと意味なくなるんだけど。
『ふむ。・・・話は判った。僕たち管理局には何をしてもらいたい?』
「俺たちの推測が正しければ、大隊壊滅後の騎士団は今の局以上の低迷期に入るだろう」
「何せ大隊って言う犯罪組織を利用してか、もしくは造って管理局の評判を落とし、騎士団の評価を上げるっていうマッチポンプを仕出かしたんだから」
しばらくは後ろ指を差されるだろうね。今は素晴らしいって褒め称えてくれてる世論も、真実が伝われば一気に反転して袋叩きにしてくるかもしれない。まぁ教会と騎士団の暴走を事前に察知できなかったわたし達フライハイト家や六家が間抜けだったって話だ。非難は甘んじて受けよう。
「その間、騎士団の機能は著しく低下すると思うの。管理局は、騎士団再興まで頑張ってもらいたいってことになるわけで・・・」
最悪、下手したらわたしはこのまま騎士団に残ることになるかも・・・。ミヤビとの約束も果たせず、ルシルと最後まで同じ部隊で頑張っていきたかったな・・・。
『ただでさえ人手不足なんだが・・・。そこで騎士団の活動が低下すると、大隊の抑止力も失っていることで犯罪率が一気に上がりそうだな・・・』
文字通り頭を抱えたクロノには何も言えない。ルシル達も俯いてるし。大隊を潰すと管理世界の秩序が崩壊しそう。ひょっとして大隊の活動を許した時点で負けてるのかも・・・。
「それでも大隊は潰さなければならない。ヴィヴィオ達が安心して生活できるように。いつまでも拉致に怯えさせて良い訳がない・・・!」
ルシルの力強いその言葉にクロノも『あ・・・ああ、その通りだ!』って力強く頷いて、もちろんわたし達も「勝つぞー!」って拳を振り上げた。ヴィヴィオ達のためにも、なのは達のためにも、拉致されて犯罪者の濡れ衣を着せられてるアリサやミヤビ、他の局員たちのためにも、最後の大隊は必ず叩き潰す。
『他には何か話は無いか?』
わたしは腕を組んで、クロノの問いに対して「う~ん」と唸った。大隊関連じゃないとは思うけど、一応は伝えておこうか。
「最近、フライハイト邸が窃視・盗聴されてる節があるの」
『大隊か!?』
「ううん、たぶんベルカ関連だと思う。何せうちにはイクス、ヴィヴィオ、アインハルト、フォルセティが居るし。彼女たちへ窃視や盗聴が目立つし」
『犯人は判っているのか、その様子だと・・・?』
「この屋敷にはルシルの魔術による加護があるの」
ルシルへと視線を移すと、「魔法やスキルによる干渉を行えないようにしてあって・・・」って前置きして、魔法・スキルを使った攻撃や転移を全て無力化できる術式が敷地全体に施してあるって説明。
「で、何故その加護の中でもそんな真似が出来るのかというと、魔法と魔術の中間に位置する魔女術によるものだったからだと判明した」
『魔女術・・・?』
クロノは聞きなれない魔法体系だったからか眉を顰めた。魔女術なんて古代ベルカ式並みに古いものだから知らないのも無理はないかも。詳しい説明は省いて、その術者についてわたしは知ってることがある。
「たぶん、ファビア・クロゼルグって子だろうね。シュトゥラ国内にあったっていう魔女の森を拠点としていたクロゼルグ一族。その子孫ね。んで、この子もアインハルトみたいに先祖の記憶を受け継いでるみたいで、魔女術も扱えることを確認してる」
『大隊との繋がりは確認できていないのか?』
「その辺は大丈夫だと思う。まぁ危害を加えようとは考えてないと思うし、昔のアインハルトみたくヴィヴィオ達とどう接すればいいか判らないんだろうね。注意はしておくけど、今は放置していても問題ないって思うよ。えっと、わたし達からは以上かな」
『判った。ベルカ関連の話については僕は何も出来ないからな。そっちは君たちに任せるよ、じゃあ何か手伝える事が遠慮なく言ってくれ。出来うる限りの事は協力するつもりだ』
「ありがと、クロノ♪ んじゃ今日の会議はこれで終了とします!」
通信を切ってクロノとの会議が終わらせて、わたし達はそれぞれ食堂を後にして浴場へと向かう。っと、その前に『ルーツィ達ももう休んで』って思念通話で伝えておく。
『『『『かしこまりました。それではお休みなさいませ』』』』
ルーツィアとルーツィエ、オットーとディードの4人は教会本部への出入りはしていないけど、ひょっとしたらすでに偽者かもしれないという不安はある。信じきれるのはルシル達だけというのは心強いし安心も出来るけどさ、誰も彼も信じられなくなるなんてキッツい・・・。
(今のところ拉致されて偽者に入れ替わってるのはミッドの管理局員ばかり。ティアナはたぶん、スバルと一緒に居た時についでに拉致されたって考えられる。あの2人、恋人みたく仲良いし)
「イリス。もし今の会議が大隊に洩れていた場合、大隊はどのような手段に出るでしょう?」
「う~ん、そうだな~。わたし達の反逆を事前に止めようとするだろうし、何かしらの手段で分散させての各個撃破・・・ってところかな~」
大隊の中で一番ヤバイのは、ルシルしか斃せない“エグリゴリ”の1人であるフィヨルツェンだけ。それ以外ならよほどの格上になるだろうけど、わたし達を各個撃破できるような戦力が大隊にいるかどうか・・・。
「勝てない戦力と判断した場合は逃げの一手でいいだろう。逃げるのは恥じゃない。退くべき時につまらないプライドで突っ込む方が恥で愚かだ」
「ですね」
「とりあえず、ねえルシル。私たちにもヴィヴィオ達に贈った発信機能を持ったアイテムちょうだい♪」
わたしとアンジェとルシルで大隊の今後の動きの予想をしてると、そう言いながらルミナがルシルの背中に飛びついた。強制的なおんぶ体勢で、ルミナの豊満な胸がルシルの背中に押し付けられる。それでもルシルの顔が赤くなんないのは流石としか言いようがない・・・。
「重いぞ、ルミナ」
「あれ~? いつもの紳士っぷりはどこへいった~?」
「酔っているのか?」
「何やってんの!」「何をやってるの!?」
わたしとトリシュでルミナを引き剥がす。わたしがルミナとルシルの間に割り込んで、「ダメダメ! これ以上ライバルなんて無用!」って両腕で×を作る。ルミナは「じゃああれはいいの?」ってわたしの後ろを指差したから振り向いてみると・・・。
「あああああ!」
今度はトリシュがルシルにおんぶしてもらってた。羨まし過ぎて嫉妬の炎がメラメラだよ。
「トリシュ!? 何やってんの!?」
「いえ、ちょっと疲れたな~と」
「ルシルだって疲れてるんだから、そんな事しないの! てか、ルシルもルシルでしっかりトリシュを支えてるし!」
「いやだってトリシュを支えなければ、俺の首が絞められるだろ?」
なんて言いながらルシルはトリシュを背負ったまま歩き続ける。わたしはルシルの右隣に追いついて「だったら、降りて、って言えばいいじゃん!」ってトリシュを指差す。
「別に構わないよ。今日はただ警邏ルートを歩くだけの1日だったからな、大して疲れてないよ」
「だそうですよ、イリス。私はこのままルシルさんに背負われていても問題はないのです♪」
満足気にわたしを見てほくそ笑むトリシュ。うわ、やばい。わたしの隊も今日この日で終わりかもってレベルの嫉妬の渦がわたしの胸のうちに発生中。むぅーって唸ってると、「ああもう。あとで君も背負うから、そう睨むな」ってルシルが呆れた。
「いいの!? やった! じゃあトリシュ、交代!」
「えーもう? もう少しルシルさんの背中を堪能させてもらいたいんだけど・・・」
ルシルの首に回してる腕をさらにギュッと絞めて密着するトリシュ。なに、この娘も酔ってんの?って思えるほど大胆になってるんだけど・・・。そんなわたし達に「少し静かに」ってクラリスが非難の声を掛けてきた。
「アイリが眠ってる」
夕食時からうつらうつらとしてたから、いつ寝落ちするかと思ってたけど・・・。アイリは本来の30cmくらいの姿に戻っていて、クラリスの頭の上にうつ伏せで眠ってた。まぁそういうわけだから、声量を落としてわたしは「じゃあ次の角で交代」って提案。
「判った。その条件を呑みましょう」
それから角を曲がるたびにわたしとトリシュは、ルシルにおんぶしてもらった。
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