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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第69話

6月10日―――

6月―――紫陽花が咲き始め、初夏の兆しが見えてきた頃。帝都(ヘイムダル)にほど近い西のリーヴスでも断続的に小雨が続いていた。

2度に渡る地方演習を経て各方面での第Ⅱ分校の評判はそれなりに高まっており―――資金面や、装備面などにおいても更なる充実が図られる事となった。

その他にも、職員などの面で更なる補充がなされることとなった。トールズ本校出身であるベッキーが購買部をスタートさせ―――ウルスラ医大で研修していたリンデがセレーネから臨時保険医を引き継いで医務室専属となったのである。

そして―――生徒たちの方にもささやかだが大きな変更があった。

~特務科Ⅶ組~

「ふう、もう週末かぁ………クロスベルから戻って3週間、あっという間に過ぎ去った感じねぇ。」

「正確には19日間ですね。一応、明日は自由行動日ですが少し余裕があるような気がします。」

「ふふっ、なんだかんだ言ってアルも体力付いてきたんじゃない?水泳部も頑張ってるみたいだしレオ姉も誉めてたよ?」

「………まだ40アージュ、泳ぎきれていないんですが………」

「………大丈夫。アルも近い内に泳ぎきれるようになれるわ。」
ユウナの賛辞に対してアルティナが不満げな表情で答えるとゲルドが静かな表情で指摘し、ゲルドの指摘を聞いてゲルドが予知能力を使ったことを察したユウナ達は冷や汗をかいた。


「アハハ………よかったじゃない、アル。ゲルドが太鼓判を押してくれたのだから、近い内にアルが納得できる結果が出せるわよ。」

「というかそういう事は一般的に言う”達成感”なのに、達成もしていない時点で予告されてしまうと、達成感が半減してしまうような気がするのですが………」
ユウナが苦笑している中アルティナはジト目でゲルドを見つめて指摘した。

「ユウナとゲルドの方も、訓練にテニス部、それに座学も頑張ってるみたいだな。早速、エレボニア、クロスベルの両帝都の高等学校と親善試合があるんだって?

「うん、向こうもできたばかりだから丁度いいって話になってさ。」

「ちなみにクロスベルの高等学校のテニス部には以前の特別演習で会ったキュアさんも所属しているそうよ。」

「そうだったのか………という事はキュアさんは生徒会長を務めながらテニス部も務めているのか………」

「多忙な生徒会の長を務めながら、運動部にまで所属しているなんて、さすがは”才媛”と名高いユーディット皇妃陛下の妹と言った所でしょうか。」
ユウナとゲルドの話を聞いたクルトは若干驚き、アルティナは静かな表情で呟いた。


「うーん、雨晴れないかなぁ。放課後練習したかったんだけど。」

「予報では4時あたりから晴れるという話もありますが。ユウナさんは座学方面の予復習はいいのですか?」

「うっ………」

「わかりやすいな、君は………まあ、期末テストは来月だからまだ余裕があるかもしれないが。」

「ふ、ふん。訓練に部活に勉強なんて全部こなせるわけないっての。クルト君のチェス部とか試合なんて無いんでしょう?」

「いや、君達と同じくエレボニア・クロスベルの両帝都の高等学校と親善試合をすることになってね。棋譜の勉強や、シドニーへの指導なんかでけっこう時間は取られてるかな。」

「こ、このムッツリ秀才め………」

「ありがとう。誉め言葉として受け取っておくよ。」
クルトの秀才っぷりに冷や汗をかいて呆れたユウナの皮肉が混じった指摘にクルトは静かな笑みを浮かべて答えた。

「チェスで気になっていたけど、もしゲルドがチェスみたいなボードゲームをしたら無敵なんじゃないかしら?」

「ボードゲームは先の読み合いが大半ですから、”予知能力”があるゲルドさんだと、勝率は高そうですね。」

「いや、それはさすがに反則の気がするのだが………というか、そんな事の為に”予知能力”を使うなんて、大人げなさすぎだろ………」

「フフ、第一例え先の展開がわかっても、その対処方法がわからなかったら意味がないし、”勝ち負け”じゃなくて”楽しむこと”が目的のゲームの趣旨から外れているわよ。」
ユウナの提案にアルティナが同意している中クルトは冷や汗をかいて脱力した後呆れた表情で指摘し、ゲルドは苦笑しながら答えた。


「そういえば、今朝さっそく購買部を覗いてきたんだけど!いいね、あれ!各地の商品とか仕入れてるし!最新の帝国時報やクロスベルタイムズもあったからつい買ってきちゃった。」

「ああ、旧Ⅶ組の皆さんの同窓生のベッキーさんが開いた店舗か。ようやくこの分校も士官学院らしくなってきたな。」

「建物ばかりが新しく立派で中身がアンバランスでしたし。医務室や園芸スペースなどもやっと稼働した印象があります。」

「医務室は同じく旧Ⅶ組の人達の同窓生のリンデさんだっけ。園芸スペースはサンディだけどホント、一気に充実したよね!」

「ああ、機甲兵も新たなタイプが配備されたし………はは、でも君が帝国時報を買うというのも結構以外だな?エレボニア本土の情報が主体だからつまらないんじゃないか?」

「ま、まあ、そこらへんはちょっと前向きになったというか。クロスベルの記事もあるし、最近買うようになったのよ。そういえば、目次のところに見慣れない言葉があったんだけど。『領邦会議』って何なの?」

「ああ…………もう、そんな時期か。」

「今年は少し遅いのでしたっけ?」

「二人ともその『領邦会議』という言葉を知っているのかしら?」
ユウナの疑問を聞いたクルトとアルティナの反応を見たゲルドは首を傾げて訊ねた。


「ああ。『帝国領邦会議』―――年に一度開かれる言ってみれば大貴族たちの会合さ。参加できるのは伯爵位以上………伝統的に『四大名門』と呼ばれる四家が持ち回りで会議の主宰者となっている。去年はアルトリザス――――あのハイアームズ候が主催したらしい。」

「『四大名門』って確かユーディット皇妃陛下とキュアさんの実家がその『四大名門』の内の一つに入る大貴族でしょ?………それと確かその四大名門って大貴族の当主をリィン教官が”七日戦役”と内戦で討ったらしいし。」

「”七日戦役”では”アルバレア公”とその長男である貴族連合軍の”総参謀”を務めていたルーファス・アルバレア、内戦では”カイエン公”を討っていますね。………ちなみにカイエン公とアルバレア公の件は、形は違えど”旧Ⅶ組”が関わっていたそうです。」

「ええっ!?そ、そうなのっ!?」

「内戦はともかく、”七日戦役”で旧Ⅶ組の人達はどうして教官と関わったのかしら?確か”七日戦役”はメンフィル帝国とエレボニア帝国の戦争だから、当時メンフィル帝国の軍にいた教官にとっては旧Ⅶ組の人達は”敵国”に所属している人達よね?」

「それは…………」
クルトの話を聞いたユウナが驚いている中、ある事が気になっていたゲルドの言葉を聞いたアルティナが複雑そうな表情で答えを濁したその時
「――――おはよう。盛り上がっているみたいだな。」
「おはようございます、皆さん。」
リィンとセレーネが教室に入ってきた。


「おはようございます。」

「二人とも、おはようございます。………あれ?そういえばいつもより少し遅いですね?」

「いや、それ以前に――――」

「どうして扉を閉めないのかしら?」
教室の扉が開けたままである事が気になっていたクルトとゲルドの言葉を聞いたユウナとアルティナもそれぞれ首を傾げて開けたままの扉を見つめた。

「フフ、さすがに気づきますわね。」

「――――突然の話になるが君達に”仲間”が増える。」

「へっ………!?」

「”仲間”というと………もしかしてゲルドのような転入生ですか?」

「いや――――”二人とも”、入ってきてくれ。」
そしてリィンが廊下に視線を向けて声をかけると、アッシュとミュゼが教室に入ってきた。


「あ…………」

「君達は………」

「という事は二人が私達Ⅶ組の………?」

「ふふっ………」

「………ハッ………」

「紹介する必要はないと思いますけど………お二人とも、一応挨拶をお願いしますわ。」
ユウナ達に注目されたミュゼは静かな笑みを浮かべ、アッシュは鼻を鳴らし、セレーネは苦笑しながら二人に自己紹介を促した。

「ふふ、では私から。―――ミュゼ・イーグレット。主計科からⅦ組へ移籍しました。今後とも宜しくお願いしますね♪」

「アッシュ・カーバイド。戦術科からの移籍だ。別に馴れ合うつもりはねえが宜しくしたいなら考えてやるよ。」
ミュゼとアッシュの自己紹介を聞いたユウナ達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。


今週初め――――

二人の移籍が決まる数日前、リィン達教官陣はリアンヌ分校長からある事を伝えられていた。
「な、Ⅶ組への移籍を!?」

「ええ―――Ⅷ組アッシュ・カーバイドにⅨ組ミュゼ・イーグレット。クロスベルでの報告書を読みましたがどちらも少々、独断専行が過ぎています。その処分も兼ねてという事になりますね。」

「……………………」

「えっと…………」

「あー……………………わからなくはないんですが。」

「ば、罰ということでしたらわたしたち教官にも責任が――――」

「クスクス、分校長さんが言う処分はあくまで”建前”だからそんなに真剣になる必要はないわよ、二人とも♪」

「連中の今までの演習地での独断専行の件もそうだが、元から他のクラスより少ないⅦ組の人数を増やす為じゃねぇのか?」
リアンヌ分校長の話にリィンとセレーネがそれぞれ戸惑っている中、ランディとトワがそれぞれ生徒達を庇おうとしている中レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランドロスは口元に浮かべてそれぞれ指摘した。

「ええ。ランドロス教官の仰る通り元々適正ありそうな生徒を私の権限で移すつもりでもありました。―――二つの地方の特務活動でここまでの変事が起きては尚更です。」

「それは…………」

「確かに………今後のことを考えると、ですか。」

「特にⅦ組は、街道とかにも出て魔獣や結社が放った人形兵器と戦う機会も多いでしょうしねぇ。」
リアンヌ分校長の指摘にミハイル少佐が複雑そうな表情をしている中、トワとレンはそれぞれ納得した様子で呟いた。


「お前さん達の方はどうだよ?」

「実力的にも、メンタル的にも十分やっていける二人だと思う。――――本人たちに異存がなければⅦ組で引き受けさせて頂きます。」

「わたくしもお兄様同様、お二人をⅦ組に引き受けることに問題はありませんわ。」

「宜しい。主任、問題はありませんね?」

「………まあ、座学なども合同ですし問題ないでしょう。(しかし偶然か………?カーバイドの方はちょうど、情報局からも話があったが………)」
リアンヌ分校長に確認されたミハイル少佐は内心ある事実が気になりながらも表情に出さず、二人のⅦ組への移籍を同意した。

「フフ、決まりですね。」

「そっか………これで新Ⅶ組7人だね!」

「ハハ、知っての通りクセの強い奴だがよろしくな。」

「ええ、任せてくれ。(ミュゼにアッシュか………まずは本人たちと話さないとな。)」
そしてリィンは新たに受け持つことになる生徒達の顔を思い浮かべた。


5限目 芸術教養

~音楽室~

”芸術教養”のカリキュラムでは担当官であるセレーネが生徒達全員を前に教壇に立って授業を進めていた。

「さて、週に一度の芸術の時間です。――――それでは前回話した旋律(メロディ)和音(コード)律動(リズム)ですが。ゲルドさん、17ページの曲の最初の一節を無歌詞(スキャット)で歌ってみてください。」

「って、いきなり!?」

「――――はい。♪~~~~~~~~」
セレーネの突然の指名にユウナがクルト達と共に驚いている中ゲルドは動じずに立ち上がって歌い始めた。

(凄いな……帝都のオペラ歌手にも引けを取らないのではないか?)

(綺麗でいて、ゲルドさんの優しい性格が伝わってくる歌ですね……)
ゲルドの歌に生徒達共に聞きほれていたクルトは感心し、ティータは尊敬の眼差しでゲルドを見つめていた。そしてゲルドが歌い終わるとその場にいる全員は拍手をした。

「お疲れ様でした。今、皆さんもお分かりになったと思いますが旋律(メロディ)律動(リズム)だけでここまで心地よさを生み出すことができます。ここに和音(コード)が加わればどのような違いが出るかというと――――」
ゲルドに微笑んだセレーネは授業を再開した。



HR――――

~Ⅶ組~

「――――今日もお疲れだった。ミュゼ、アッシュ共に座学自体は変わらないだろうからその点の心配はないかな?」

「ええ、心配ご無用です♪」

「余裕だろ、余裕。」

「ていうか、クルト君やミュゼはともかくアッシュって何でそんな勉強できるの!?どの授業で当てられてもスラスラ答えられてたし!」

「それに魔術の授業でも魔術の習得もそうだけど、魔術と(クラフト)を応用した魔法技(マジッククラフト)の習得もクルトと同じくらいの速さで習得していたわね……」

「ああ…………地頭(じあたま)の違いじゃねえのか?」
リィンが生徒達を労っている中ジト目のユウナとある事を思い出しながら呟いたゲルドに指摘されたアッシュは興味なさげな様子で答え

「い、言ったわねぇ!?」
アッシュの言葉を聞いてアッシュを睨むユウナの様子にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいた。

「まあまあ……同じクラスになったのですから勉強についても協力して行ってください。当然、わたくし達の方も相談に乗りますから遠慮なく言ってください。」

「でしたら今夜あたりにでもリィン教官のお部屋で個人的に……♪もしくはセレーネ教官にリィン教官がどうすれば、私を10人目の婚約者にして頂くかについての相談でも構いませんが♪」

「だからアンタはやめいっ!」

(やれやれですね。)

(………いろいろな意味で賑やかにはなりそうだが。)
その後HRは終わり、リィンとセレーネが部屋から出て行った後ユウナ達は放課後での雑談を始めていた。


「……それにしてもいきなり過ぎるっていうか……元々のクラスもあるんだし二人とも抵抗は無かったわけ?」

「ええ、主計科を離れること自体はちょっと考えてしまいましたけど。でもリィン教官のクラスなら―――♪」

「あー、はいはい。アンタは聞くまでもなかったか。」

「君はリィン教官や教官の周りの人達に随分、反発していたと思っていたが……」

「わりと露骨でしたよね。」

「うん、編入したばかりの私でもわかるくらいだったし。」
ミュゼがⅦ組に編入してきた理由を知ったユウナが呆れている中、クルトやアルティナ、ゲルドは不思議そうな表情でアッシュを見つめた。

「ハッ、別に嫌っちゃいないさ。いけ好かないってだけでな。腕は立つし修羅場もくぐってる。―――そこは認めてやるさ。それに……妙な”力”を持ってやがるんだろ?」

「そ、それは…………」

「……どこで知ったんだ?」

「クク、最初の特別実習であのヤバイ女を4人がかりで殺る時に、さんざん見せていたじゃねぇか。喋るネコと知り合いだったり、大昔のオモチャの乗り手だったり、明らかに自分より腕の立つ女達に”ご主人様”呼ばわりのプレイをさせていたり、エレボニアの皇女サマどころか妹までハーレムに加えていたりと色々笑えるネタも満載だしな。せいぜい特務活動にも付き合って大笑いさせてもらうとするぜ。」

「……………………」

「あのねぇ……」

「……同じクラスで行動するならめんどうを起こさないで欲しいんだが。」
先行きが不安な発言をするアッシュをアルティナは黙って見つめ、ユウナと共に呆れた表情で溜息を吐いたクルトはアッシュに指摘をした。


「ふふ、きっと大丈夫ですよ♪ここにいる私達は色々な意味でリィン教官に何らかの興味を持っている……それはアッシュさんも同じだとお見受けしますから。」

「!」

「確かに、言われてみれば……」

「そこまで絡むというのは興味があることの裏返しか。」

「うん、興味がなかったり大嫌いだったら、その人の事を無視したりするものね。」

「なるほど、納得です。」
ミュゼの推測に血相を変えたアッシュがミュゼを睨んでいる中ユウナ達は納得した様子で頷いていた。

「てめえ……本当に油断ならねぇ女だな。”ゆるふわ女狐”とか”女郎蜘蛛”とか呼んでやろうか?」

「いえいえ、可憐な白百合と呼んでいただければ♪」
アッシュの毒舌に対して笑顔で返したミュゼにユウナ達は冷や汗をかいた。


「まあ――――それはともかく。ミュゼもアッシュも。ようこそ、Ⅶ組特務科へ!リィン教官達に負けないようにお互い一緒に頑張ろうね!」

「あ………」

「……………………」

「……増えたとはいえ他のクラスよりも人数は少ない。特務活動を含め、協力できそうな部分は協力しよう。」

「フフ、私はみんなより勉強が遅れているから、色々と教えてくれるとありがたいわ。その代わり魔術と音楽に関しては得意分野だから、そこに関して精一杯協力するわ。」

「とりあえずよろしくお願いします。まずは機甲兵教練――――いえ、小要塞のテストでしょうか。」

「……クク、おめでたいにも程があるっつーか。だが、シュバルツァーとアルフヘイムの鼻を明かしてやるってのは賛成だ。」

「ふふ……これも女神たちの巡り合わせかと。どうかよろしくお願いしますね。」
ユウナ達の調子に毒気を抜かれて一瞬呆けた二人はそれぞれ苦笑しながら新たなクラスメイトとなるユウナ達を見回した。

こうして………新Ⅶ組は新たな仲間を加えた事での更なる賑やかな日々が始まった―――― 
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