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天体の観測者

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修行Ⅲ - 終極 -

 紅き長髪を伸ばした一人の男性悪魔が人間界から帰還したグレイフィアの報告に耳を傾ける。

「やはりレーティングゲームで決着となったか」
「そうなることは予想していたのではないですか?」

 グレイフィアの指摘に紅き長髪の悪魔、リアス・グレモリーの兄であるサーゼクス・ルシファーは笑みを深める。

「私はただリアスに選択肢を与えただけだよ」

己の夢を貫く選択肢をね

「それは当初から予測していたことです。しかし、ライザー様と今のお嬢様との実力では結果は見えているとは考えなかったのですか?」
「……万が一にも勝ち目はないだろうね」

 それはこの一連の騒動が起きた当初から予想していたことだ。
 しかし、あらゆる場合を想定し、手は打っている。

 もしリアスがライザーに勝つことが出来れば僥倖、敗北した場合は想定内の話であったというだけの話だ。
 幾ら魔王であるとはいえ、貴族間のいざこざを私情で白紙にするのには無理がある。
 
 ならば少しでも自分が望む最高の展開へと導くために今は、水面下で秘密裏に準備を行うだけだ。
 そのためのリアスの修行期間であり、レーティングゲームなのだから

「やはりそうでしたか。ただ、もう一件ご報告があります」
「何だい、グレイフィア?」

 自身と同じく溺愛するリアスが窮地の状況に陥っているにも関わらず、グレイフィアは至って冷静だ。
 それ以上に喜色満面とも言える表情を浮かべている。 

「今回のレーティングゲーム、誰もが予想だにしない結果になると私は確信しています」
「それはつまりリアスがライザー君に勝つということかい?」

 それは正に最高の展開だ。
 だが、グレイフィアがそこまで断言する理由は何なのだろうか

「その心は何だい?」
「以前ご報告した"ウィス"という者の助太刀があれば、お嬢様はこの修行期間にて飛躍的な成長を遂げ、ライザー様にも勝利を収めることが可能だと断言します」

 "ウィス"という者の存在はリアスから聞き及んでいた。
 リアスの女王と過去に出会い、今では彼女と協力関係を結んでいると

「まだ、一概には断言出来ませんが……」



()の者の力はサーゼクス、貴方と同じく底知れない何かを感じました



「それは嬉しい誤算だね」
「はい、レーティングゲーム当日が待ち遠しくて仕方がありません」

 サーゼクスは思いもしなかった嬉しい誤算に微笑する。
 そして、その"ウィス"という者にも一度出会ってみたいと思うのであった。

 その"ウィス"に修行を受けているリアスは、今…… 


 




 目覚めの朝を迎えていた。

 周囲に無数に浮遊する砂時計が眩く発光し、爆発する。
 爆音が鳴り響き、爆煙が吹き荒れる。

 一誠とアーシアは真っ黒と化し、寝台の上で痙攣している。
 リアスと朱乃、木場の3人は何とか爆発に耐え、小猫は戦車の耐久力の恩恵か比較的無事な様だ。

 宙へと浮遊するウィスがリアス達を叩き起こし、本日の修行を開始していた。







▲▼▲▼







 武舞台に閃光が迸る。

「ほら、どうしました?逃げてばかりでは敵は倒せませんよ?」

 エネルギー弾が無数に降り注ぐ。
 大地を抉り、大気を振動させ、数百にも及ぶ膨大な数のエネルギー弾がリアス達に牙をむいた。

 不規則かつ多角的な角度でエネルギー弾が迫り、大小様々なエネルギーが天より落ちていく。
 先日よりも数段増しの威力を誇っている。

「ァァアア!?」

 普段の優雅さを捨て、リアスは死に物狂いで回避に専念する。
 最小限の動きで武舞台を動き回り、滅びの魔力を手に纏わせることで対処していた。


体が重い……!?


「この武舞台はリアス達が堪え得ることが可能な限界一歩手前の重力を設定しています。今の重力は地球の数倍と言ったところですか」

 重力に耐えることが出来ず、一誠がその身を武舞台に縛り付けられる。
 エネルギー弾が降り注ぎ、一誠が戦闘不能と化した。

「体が……!?」

 雷光で迸らせながら朱乃は苦悶の声を漏らす。
 予想以上に体が鈍器の様に重く、足が地面に吸い付いた様に離れない。

 武舞台全体にエネルギー弾が天を覆いつくす勢いで降り注ぎ、リアス達は全員戦闘不能と化した。










 武舞台に大自然の草原が広がる。

 本日の修行では重力は設定されていない。
 ただ、特別な仕様が施されているだけだ。

 エネルギー弾を宙に浮遊させ、ウィスは大自然の草原に一人佇む。
 気配を隠し、ウィスに一矢報いようとリアス達は身を隠している。

 背後からウィスに斬りかかろうと木場が魔剣を手に突貫してきた。
 ウィスは背後からの奇襲に気付きながらも、振り返ることはない。
 防御の姿勢も取ることなく、辺りを見渡していた。

 前方にはブーステッド・ギア(籠手)を構えた一誠が倍化を行っている。
 修行前とは一線を画す強化だ。


Boost!

Boost!

Explosion!


 倍化が終了する。
 一誠の全身から魔力が迸り、掌に極小の紅の魔力が集束した。

 一誠が囮となり、木場が背後から奇襲を行う。
 戦略としてはまあ及第点と言ったところだろう。

「ドラゴンショ……!?」
「……!?」

 しかし、木場の魔剣が無残に砕け散り、セイクリッド・ギア(神器)の使用が強制解除される。
 一誠も同様にブーステッド・ギア(籠手)が強制解除され、集束した魔力が霧散していた。



「言い忘れていましたが、この大自然のフィールではセイクリッド・ギア(神器)攻撃目的(・・・・)では遣えません」

 セイクリッド・ギア(神器)を使うにはウィスを倒すしかない。
 それは到底無理な話であるが

 極限まで集束させていた魔力が霧散し、一誠の身体が悲鳴を上げる。
 木場は理解を越えた現象に呆然としていた。

「嘘……だろ」

 己の力の根幹である神器が無効化された。
 身体に力が入らない。
 思考が止まり、強化された肉体が解除されていく。


俺の、ブーステッド・ギア(籠手)が……


 籠手が消失し、虚空へと魔力が霧散していく。
 一誠の左手から完全にブーステッド・ギア(籠手)が消失した。




「神器無くして、どうやって戦えばいいんだ!!!」

 一誠の魂の咆哮が鳴り響く。

 ウィスは致命的な隙を晒す両者に構うことなく、気合砲を炸裂させ大自然のフィールドを更地へと変えた。










「リアス達にはこの星の周囲を走ってもらいます」

 惑星の周囲には特殊な仕様が施されている。
 リアス達の現状を吟味し、精密な重力が設定されている。

「そのままこの星を日没まで走ってください」

 重力が身体に加算され、リアス達の足取りは酷く遅い。
 武舞台での修行よりも強大な重力がリアス達の身体を縛り付ける。

「ほらほら、走らないと道が無くなってしまいますよ?」

 リアス達の足元の紫の結晶が霧散していく。
 眼下に広がるは根源的恐怖を抱かせる底なしの闇 

「道から落ちてしまうと異次元に放り出されて、二度と帰って来れなくなるので、気を付けてくださいね?」

 この場から落ちてしまうと二度と戻ってくることはない。
 宇宙の藻屑と化すのだ。

 足が酷く重い。
 汗が滴り落ちる。
 呼吸が乱れ、身体が悲鳴を上げる。
 気を抜けば今にもその身が重力に圧し潰されてしまいそうだ。

「ちょっとペースが早過ぎますかね?」

 リアス達の後方の足場は瞬く間に消失していき、異空間がその姿を現している。
 ウィスは宙に浮遊した状態でリアス達を静観する。

「思ったより頑張りますね?」

 修行を開始して半日が経過した。
 リアスと朱乃の魅惑的な肢体が服とへばり付き、下着が丸見えだ。
 汗が身体にへばり付き、夥しい量の汗を流している。

 日没まで後僅か

 意識も朦朧と化した状態でリアス達は足を進み続ける。
 焦点は揺れ、意識も定かではない。



 遂に太陽が地平線の彼方に沈む。

「そろそろですね。では……」

 ウィスが杖を打ち鳴らす。
 

 途端、リアス達を眩い光に包まれ、大樹の寝室へと転移する。

 宙に浮遊する砂時計が発光し、爆発する。
 爆煙と爆音が鳴り響き、大樹を大きく揺らす。

 リアス達は崩壊した瓦礫の山に為す術無く埋もれ、意識を手放した。 



「辛うじて生きていましたか。良かったですね?今日の修行はこれまでです」

 ウィスの激励がリアス達に届くことは無い。








 

 小猫は姉である黒歌に戦術の指導を受け、アーシアはひたすら聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の強化を図る。
 ウィスの分身がアーシアの神器の指導を受け持ち、効率的な魔力の使用方法を指南する。










 武舞台に烈風が吹き荒れる。
 武舞台のフィールドは酷く脆く、天からは雨が降り注いでいた。

 重量による負荷はなく、神器が無効化されることもない。
 ただ一つ、魔力を除いて

「魔力が……!?」

 リアスの滅びの魔力が、朱乃の雷電の魔力が霧散する。
 魔力を使用した途端、魔力が霧散し、消失する。

 堕天使の血を引く朱乃と仙術を行使する小猫は別であったが

「面白い仕様だと思いませんか?魔力は遣えず、残るは悪魔の身体能力だけ」

 ウィスは前衛を務める木場の魔剣を指で砕き、小猫の仙術と朱乃の雷光を破壊する。

「今回は特別に悪魔の駒の使用も禁止しましょう」

 途端、木場の速度が緩慢に、リアスを除いた眷属の全員の身体能力が低下する。
 これで朱乃達は並みの悪魔の身体能力となった。

「悪魔は悪魔の駒が無ければ酷く脆弱な存在だとは思いませんか?」

 悪魔の駒の力無くして種族の繁栄は無く、強大な力を行使することも出来ない。
 悪魔の駒無くしてレーティングゲームは存在し得ない。
 悪魔という種族の根幹には全て悪魔の駒が存在している。

 リアス達は知らなければならない。



如何なる特殊な能力・強大な倍化能力・一撃必殺の力を有していようが圧倒的格上には通用しないことを

それは蟻が人に勝てず、人が恐竜に勝てず、怪物が幻想種に勝てず、英雄が神に勝てないのと同じ道理であることを

例外が存在しないわけではない

だが、それは一つの事象に特化し過ぎた力であるが故に、大きな弱点が存在し、その力を何らかの力で無効化されてしまえば形勢は即座に逆転する

優位性を失えば全てが終わる

一つの力に頼り過ぎていた存在は酷く弱いことをリアス達は理解すべきだ



「リアス達が今後、強化すべきことは"純粋な身体能力の強化"だと理解してください」

 右拳を構え、ウィスは対面するリアス達を見据える。
 洗練された無駄の無い動きで放たれた空拳はリアス達を瞬く間に吹き飛ばし、武舞台を崩壊させた。

 またしても烈風が吹き荒れ、リアス達の修行は本日をもって終了する。



 こうしてリアスは過酷なウィスの修行を終え、運命のレーティングゲーム当日を迎えた。







▲▼▲▼







 レーティングゲーム当日
 
 リアスは眷属と共に夜の旧校舎に集う。
 グレイフィアは愛するリアスの成長に嬉しさを感じながらも、驚愕していた。


10日間でこれ程までに成長出来るものなのか、と

 
 魔力は洗練され、その身のこなしは10日前とは比較出来ない。
 眷属である朱乃達も同じく飛躍的な成長を遂げている。

 グレイフィアは確信する。
 この勝負、リアス・グレモリーの勝利で終わることを

「失礼します」
「こんばんは、ソーナ」

 オカルト研究部に今回のレーティングゲームの中継役を担う生徒会長と副会長が入室する。

「ソーナ、公平な審判をお願いね」
「勿論です」
「ライバルである貴方に私達の成長を見せてあげるわ」
「個人的にあの方がリアスと見合うとは思ってはいません」
「ええ、分かっているわ」

 リアスは負けるとは思っていない。
 いや、負けなど許されない。
 グレイフィアに先導され、この場を後にするウィスに応えるためにも

「リアス」
「……ウィス?」

 ウィスが言い忘れていたと言わんばかりに、その場に立ち止まる。

「もしリアスが今回のレーティングゲームで敗北した場合……」
「……?」





「修行不足ということでリアス達の修行を続行するつもりなので、そのことを念頭に置いておいてください」

 



「皆、絶対に、絶ェ対に!完膚なきまでに!ライザーに勝つわよ!!!」

 リアスの激励に朱乃達の魂の咆哮が鳴り響く。
 オカルト研究部内に本能の叫びが響き、大気を振動させたと錯覚させる程の迫力を醸し出した。

─レーティングゲーム始動─ 
 

 
後書き
>「皆、絶対に、ライザーに勝つわよ!!!」

ライザー(野郎)ぶっ殺してやる!


< 次回予告 >

リアス「私の可愛い眷属達!手筈通り、"枷"を外しなさい!」

 リアスの指示に従い、朱乃達はその身に着込む武道着とリストバンド、奇抜なデザインが施された靴を脱ぎ捨てる。
 それらは大地に沈み込み、衣服とは思えぬほどの重量を誇っていた。

一誠「体が嘘の様に軽いぜ!」
木場「隙だらけだよ」

 一閃
 飛び散る鮮血

 突如、崩れ去る戦局


馬鹿な……


サーゼクス「これは……!」
グレイフィア「……ッ!」


強……早……!

だが、リアス達のウィスとの修行で得た力の真価は……

リアス達の真の実力はこれの……


10倍だ……



朱乃「慌てないでください。貴方方の女王を片付けた後、ゆっくりとお相手をしてあげます」

 膨大なエネルギーが掌に集束していく。
 雷光が迸り、朱乃はその極大のエネルギー波を眼下に解き放ち……

ライザー「お前には失望したぞ、リアス。王である貴様が俺と戦うだと?」
リアス「ねえ、ライザー。何故、私が貴方の前に現れたか、分かる?」
ライザー「ふん、さあな。自暴自棄にでもなったか?」
リアス「何の遠慮も無く貴方を消し飛ばすことが出来るからよ!」

 リアスが掌を前方にかざし、極大の滅びの魔力を解き放つ。
 校舎を消し飛ばし、大気を振動させる規模の極大のエネルギーはライザー・フェニックスを……




史実よりも急激なパワーアップを遂げたリアス・グレモリーとその眷属達!
そんなこともつゆ知らずライザー・フェニックスは余裕の笑みでレーティングゲームに臨んでしまう!
突如、戦局は傾き、眷属達が次々とリタイア!
レイヴェル・フェニックスに至っては自主的にリタイアをしてしまう!
大気は振動し、大地は抉れ、暴風が荒れ狂う!
魔力が迸り、可愛い眷属達は蹂躙されていく!
ライザー・フェニックスの未来は真っ暗だ!
負けるな、ライザー!根性を見せろ、ライザー・フェニックス!フェニックス家の看板を守り通せ!フェニックス家の面目はお前の手に掛かっている!こう御期待!


次回、"ライザー死す!" デュエルスタンバイ!

※ 嘘です
※ ノリです 
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