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永遠の謎

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426部分:第二十六話 このうえもない信頼その十九


第二十六話 このうえもない信頼その十九

「我が国に。それに」
「それに」
「それにといいますと」
「イギリスにも匹敵する国になる」
 言わずと知れただ。日の沈まぬ国にまでだというのだ。
 イギリスは欧州において圧倒的な力を持ち続けていた。その工業力と海軍の力においてだ。欧州だけでなく世界を主導していたのだ。
 だがそのイギリスに比肩するまでにだ。ドイツはなるというのだ。
「既に我が国はイギリスに迫ろうとしているがだ」
「ドイツもですか」
「迫りますか」
「それだけの国になる」
 また話すのだった。
「従って我が国は東西から挟まれることになる」
「イギリスとドイツ」
「この両国にですね」
「そうなると」
「孤立する」
 それもわかることだった。
「我が国は今後暫くは辛い状況に追いやられるだろう」
「それはプロイセンとの戦争の後ですね」
「それからもですか」
「敗北だけでなく」
「そうなる。フランスにとって辛い時代になる」
 フランス皇帝としてだ。フランスのことを想い話す。
「ビスマルクは我が国を追い込んでいくかも知れない」
「あの男が戦争を引き起こしですか」
「そのうえでなのですね」
「戦争の後でもそうしていく」
「我が国を」
「それをわかっている者がいるかどうか」
 フランス皇帝の憂いはそこにあった。まさにだ。
「それが問題なのだ」
「それでいると思われますか」
「そこまでフランスをわかっている者が」
「果たして今この国に」
「いるでしょうか」
「期待していない」
 ナポレオン三世はこのことは諦めていた。既にだ。
「最早な」
「左様ですか」
「ではいない」
「そうですか」
「いれば今だ」
 そのだ。プロイセンとの緊張が高まっている今だ。
「止めようといる者が出るな。少なくとも声をあげる者がいるが」
「いませんね」
「今は誰もが戦争を叫んでいます」
「新聞もそれ一色です」
「それしかありません」
「新聞は害毒だ」
 ナポレオン三世は苦々しい声でだ。新聞について言った。
「新聞は人を煽りそのまま暴走させる」
「何かそれではです」
「レミングでは?」
「それに近いのでは?」
「レミング。そうだな」
 北欧にいる鼠だ。危機になると群れで海に飛び込み集団自殺をする。新聞、即ちマスコミは人をそうさせるとだ。ナポレオン三世は話すのだ。
「あれだな」
「人を啓蒙するものではありませんか」
「死地に誘うものですか」
「新聞とはそうしたものですか」
「実は」
「朕はこれまで新聞も利用してきた」
 彼等を巧みに操り自身の評判を広めさせていたのだ。しかしそれがだというのだ。
「だが。今はわかる」
「この状況になりですね」
「フランスを戦争に誘おうというそれで」
「その今になりおわかりになられた」
「そうなのですか」
「そうだ。今全てがわかった」
 遠い、そして苦々しい顔での言葉だった。
 
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