永遠の謎
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421部分:第二十六話 このうえもない信頼その十四
第二十六話 このうえもない信頼その十四
「言葉としてはいい」
「しかし実際は」
「その逆だ。革命には自由も博愛も平等もないのだ」
何処までもだ。王は革命を否定していっていた。
「あるのは彼等だけなのだ」
「彼等が神ですか」
「その彼等によってフランス皇帝は攻撃されているのだ」
「あの方が」
「確かにあの方には問題がある」
ナポレオン三世についてもだ。王は把握していた。
「皇帝でありあのナポレオン一世の甥であるが」
「それでもですか」
「あの方は妙に小手先の手段を好まれる」
それがナポレオン三世の癖だった。一見すると堂々としているが実際にはなのだ。裏や隠れた場所でそうしたことをすることが多いのだ。
王はそれを見ているからだ。それで話すのだった。
「そしてマルクスはそれに気付いた」
「あの彼が」
「マルクスの言っていることは問題だらけだ」
このことは二十世紀も終わりになってようやくわかることだ。しかし王は今のこの時点でだ。既にそのことに気付いているのだ。
「あれは悪夢なのだ」
「悪夢ですか」
「幻想ではない。全てのものに栄枯盛衰がある」
共産主義にはない考えだ。資本家や地主といったものは何処までも大きくなっていく、それがマルクスの主張の根幹なのだ。
「資本家や地主の間でもだ。そして」
「そして?」
「労働者や農民も資本家や地主になれるのだ」
「なれるのですか」
「万物は流転する」
古のギリシアの哲学者の言葉をそのまま述べたのだ。
「資本家や地主が没落するのもだ。それに彼等も人間なのだ」
「資本家や地主も」
「労働者や農民と同じだ。違うのは富と地位だけだが」
「その富と地位が問題なのですね」
「それは簡単に流転する」
王はこのことも指摘した。
「革命によってしかどうにかできないということはないのだ」
「革命もまた絶対ではないのですね」
「少しずつ確実に変えていくこともできる」
王は自分の考えを述べていく。
「今のドイツの様にだ。少しずつだが確実にだ」
「ドイツの様に」
「ドイツの変革はいいことだ」
それ自体はいいというのだ。
「ドイツにとってはな。話を戻そう」
「マルクスですね」
「知識人達の多くは何もわかっていないのだ。偽りの福音に騙されている」
王の見る真実はこれだった。偽りの福音だった。
「あれに従えば大きな災厄が訪れる。ドイツにも」
「この国にも」
「共産主義、若しくは名前を変えただけの共産主義」
名前が。変えられてもその本質は変わらないというのだ。
「それがドイツに現れた時に」
「ドイツに災厄が訪れますか」
「フランス皇帝に対するどころではない」
「より恐ろしいことにですか」
「なる。フランス皇帝にしても今窮地に追い込まれている」
そのフランス皇帝の話にもなった。叔父であるナポレオン一世の名声を大いに借りているこの皇帝もだ。どうかというのだ。
「ビスマルク卿はそこを衝かれたのだ」
「そしてそれにより」
「フランスはプロイセンとの戦争を選ぶ」
「選ばされるのでしょうか」
「そうだ。選ばされるのだ」
追い詰められてだ。そうなるというのだ。
「そしてプロイセンに勝てると思っている」
「戦力的にはひけを取らないのでは?」
「外観ではな」
あくまでそれはだ。外だけのことだというのだ。
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