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第二章

「中日が二年振りの優勝だよ」
「そうなるかよ」
「じゃあ巨人が優勝か?」
 二〇〇〇年というミレニアムの記念すべき年は巨人の日本一により汚されてしまった、最悪の事態であった。
「そうなるのかよ」
「それは絶対に嫌だな」
「お互いにな」
「そうだよな」
 二人共コヨ仁の優勝が嫌なことは一致していた。
 そうした話をしていると自由時間も終わり中西は本を自分の貴重品を入れる為の小さなロッカーに入れてだった。
 それから笹木と共に課業に向かった、だが彼は教育隊でも阪神を愛していて阪神のことを言っていた。
 しかしだ、その彼に部内組自衛隊の中で曹候補学生の試験を受けてそちらの課程に入った河邑澄男に笑って言われた。切れ長の小さな目にやや大きな鼻を持つ全体的に身体の毛が少ない外見だ。背は一七〇程だ。
「優勝する筈ねえだろ」
「ないですか?」
「どうしてあるんだよ」
「いや、ピッチャーいいですから」
「確かにいいさ、ピッチャーは」
 河邑もこのことは認めた。
「確かにな、けれどな」
「野手がですか」
「守備も悪いけれどな」
 そこから言う河邑だった。
「あれだけ打たないんだぞ」
「だからですか」
「優勝出来る筈ないだろ」
 野手陣があまりにも悪いので、というのだ。
「どうせ今年もに決まってるだろ」
「最下位っていうんですか」
「ああ、若しな」
 河邑は中西に満面の笑みで言った。
「若し御前の言う通り阪神が優勝したらな」
「何かあるんですか?」
「御前の言うこと何でも聞いてやるよ」
 こう宣言した。
「それこそな」
「何でもですか」
「ああ、日本一にでもなったらな」
 それこそという口調で言うのだった。
「本当にそうしてやるよ」
「じゃあ今年お願いしますね」
 中西は早速河邑に返した。
「いい風俗紹介して下さいね、あと美味い店も」
「呉の美味い店に連れて行って奢ってやるよ」
 河邑は元々暮れ教育隊にいて今の課程に入るまでは呉で勤務していた、ただし実習先は舞鶴であった。
「楽しみにしてろ」
「それじゃあ」
「そんなこと絶対にねえけれどな」 
 河邑は確信していた、それが最後の教育隊の課程でだ。
 彼等はそれぞれ三曹になって赴任地に向かうことになったが笹木はこの時に千葉の下総の方に行くことになった中西に言った。
「またな」
「ああ、縁があったらな」 
 中西は舞鶴の基地に赴任する笹木に応えた。
「会おうな、後今年な」
「阪神優勝かよ」
「そうなるからな」
 だからだというのだ。
「楽しみにしてろよ」
「まだ言うんだな」
「何度でも言うよ、今日も勝っただろ」
「春先だけだろ」
 阪神は春先だけは強かった時期の話だ。
「だからな」
「それはペナント終わった時にか」
「また言えよ」
「じゃあ電話するからな、河邑さんにもな」
 丁度傍に河邑もいたので言った言葉だ。
「電話しないと」
「おう、言ったこと覚えてるからな」
 河邑は自分から言った。
「御前の言うこと何でも聞いてやるからな」
「阪神が優勝しましたら」
 同期だが入隊したのは河邑が先で階級も入隊した時はそうだったのでそれで敬語で話していた今もなのだ。 
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