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永遠の謎

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402部分:第二十五話 花咲く命その十八


第二十五話 花咲く命その十八

「ある程度右になるのも左になるのもいい」
「しかし極端なものは」
「ドイツを破滅に導く」
 そうなるというのだ。
「それは許してはならない」
「近頃バイエルンでも知識人達が共産主義に染まっていますが」
「何とかしなければならない」
 絶対にだというのだ。
「政治としてな」
「現実として」
「現実は。何故」
 その現実について。王は憂いを述べた。
「そうしたものが多いのか」
「その現実は」
「美だけではない」
 共産主義に対しても。王は見ていた。
「醜も。それもまた多い」
「醜いものもまた」
「純粋に清らかなもの」
 一つの夢を語った。
「それはないのか」
「純粋なですか」
「美。私はそれが欲しい」
 それをワーグナーに見る。しかしだった。
「人は誰でも持っているのか」
「醜いものを」
「彼もそうだ」 
 そのワーグナーへの言葉だった。
「完全に純粋なものはないのだろうか」
「いえ、陛下それは」
「あるというのか?」
「私はそう思います」
 追随ではなく本当にそう思いだ。ホルニヒは話した。
「そうしたものもまた」
「あるのか」
「この世にもです」
「それはまことだろうか」
「それは創るものです」
 創る、ホルニヒは王に話した。
「そういうものだと思います」
「完全な純粋は創るものか」
「若しこの世になければ」
 創るものをだと。ホルニヒはまた話す。
「創ればいいのではないでしょうか」
「そうだな。その場合はな」
「それが芸術ですから」
「芸術は人が創るもの」
 王は言う。
「それが出来ることは人の」
「人の、ですか」
「人の最も素晴らしいことの一つだ」
 そうだと言ってだ。さらにだった。
「神が人に与えられた素晴しいことのな」
「そのうちの一つですね」
「そう思う。人は確かに禁断の果実を口にした」
 それが原罪である。キリスト教の考えではそうだ。
「しかしだ。それと共にだ」
「芸術を創り出すこともできますね」
「私にも出来る」
 そのだ。王にもだというのだ。
「芸術を創り出すこと。そして」
「そしてですね」
「完全な純粋を創り出すこともだ」
「それもまた」
「そうだな。創り出そう」
 王は言うのだった。
「必ずな」
「陛下は芸術家になられるのですね」
「そしてこの世に完全な純粋、そう」
「そう?」
「ワーグナー、バロック」
 王が心の中から愛する。その芸術達だった。
「そうしたものを全て入れよう」
「ワーグナー氏のその芸術もですか」
「彼の芸術は完全な純粋だ」
 彼自身はともかくだった。王はワーグナーの芸術自体には懐疑やそうしたものを抱いてはいなかった。このことは普遍のことだった。
 
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