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ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~

作者:白泉
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ソードアート・オンライン~剣の世界~
3章 穏やかな日々
  26話 揺らぎ

 
前書き
 どうも、白泉です!

 さてさて、キリトとアスナの相談オリジナル編、いよいよ第3話です!

 では、早速本編のほうを、どうぞ! 

 
 ツカサは思わず目の前に座る女顔の少年の顔をしげしげとみてしまった。

 36層主街区“ミーシェ”の路地裏にある、隠れ家のようなNPCレストランの片隅。相席で座っているのは、ツカサと、ツカサを呼び出した当の本人である、黒の剣士、そしてリアの実の従弟であるキリトだ。


 珍しくいきなり呼び出され、何の用かと思えば、いきなりの「アスナとパーティーを組むことになったんだが…どうしたらいい?」なるもの。まさかアスナがらみとは露ほども思っていなかったため、ツカサは衝撃のあまり、しばらく口がきけなかった。


『ツカサさん…私は、あなたのことが好きなんです!小さいころからずっと…』
『っ…』
『親戚の中で、唯一あなただけが私の味方で…本当にそれがうれしかった…。ずっとずっと好きでした…!』



 もちろん、ツカサの頭の中を支配するのは、“あの日”のことだ。あれからも、ふと思い出してしまう、彼女から言われた言葉。昔は仲が良かったアスナに、恋愛対象として、いまだに見られてことに、動揺が隠せなかった。それからというものの、今までどんなふうに接していたかがわからなくなり、アスナとはよそよそしい関係が続いている。


 だが、キリトの話――アスナの家で、2人きりでアスナの手料理を食べ、その成り行きでパーティーを組むことになったこと――を聞いている限り、ツカサは、アスナがキリトに気がある…としか思えなかった。もう、告白されてから半年以上の月日が流れているし、そうなってもおかしくはない。

 長らく日本を離れていたため、恋愛観の常識が少々ずれているかもしれないが…それでも、まったく血のつながりのない、赤の他人である男を家に招き、手料理をふるまうというのは、よほどその男のことを信用していないとできないこと、だと思う。何せ、その男の部屋に二人っきりなのだ。この世界にはハラスメント・コードがあるとはいえ、床に押さえつけられ、無理やりNOボタンを押させられることだってできる。

 ツカサもそちらの方面に対しての知識は持っており、欲望に身を任せた男というものがどんなものかは知っている。砂しかない、枯れた地で、嫌というほど見てきた。判断能力が高く、賢いアスナが、そんなことを知らずに男を招くとは思えない。


 

 ……いや。


 ツカサはそこで思い直した。

 
 第一層で初めて再開したとき、確かアスナは学力レベルの非常に高い、なおかつお嬢様が通うような女子校にずっといたと言っていた。それに加え…ツカサの脳裏に、ひどく厳格そうな女性の顔が思い浮かぶ。すでに8年近く会ってないが、今でのはっきり思い出せる、アスナの母親のことを考えれば、昔の、あのがちがちに固められたような生活を、アスナに送らせてきただろう。そんな生活の中で、そんな知識や経験がアスナに身についているのか?



 段々、ツカサの中の確信が薄くなってくる。



「…ツカサ?」

 沈黙に耐え切れなくなったのだろう、キリトが遠慮がちに声をかけてきたため、ツカサの意識はやっと身体に戻ってきた。


 こうしていろいろな検討をした結果は…もしかして、アスナはキリトのことが好きなんじゃないか、などという、下手なことは言えない。



「…いいんじゃないか?パーティー構成も、筋力値よりのキリトに、敏捷のアスナだから、かなりいいしな」
「そうか…」

 ふむ、と思案しているキリトの顔を見ていると、まったく考えていなかった言葉が口からこぼれた。


「それに、俺たち以外の人間ともう少しかかわりを持ったほうがいいんじゃないか。…あんなことがあったあとだから、怖くなるのはわかる。…その点、アスナは問題ないだろうし」


 キリトの顔がわずかに歪み、暗くなる。


 ツカサもリアも、キリトの身に起こった、“キリトの所属していたギルドが、キリト以外全滅した”という事件についての詳しいことはあまり知らない。だが、その事件がキリトに与えた影響は計り知れないほど大きいものだったことぐらい、キリトと接していればすぐにわかる。それから、キリトが異常に人を避けるようになったのも…。


 だが…

「ああ…そうだな…」

 まるで、自分に言い聞かせるように、キリトはつぶやくように言った。キリトも、キリトなりに前に進もうとしているのだろう、そんな決意が、目の前の少年からわずかに発せられているような気がした。


「…あんまり、一人で全部背負い込むなよ」

 リア以外にこんなセリフを吐いたことがないため、するりと口からこの言葉が出た瞬間、誰よりもツカサ自身が驚いた。キリトも少なからず驚いたようで、数度目をしばたたかせたが、すぐに微笑を浮かべた。

「ああ…サンキューな、ツカサ」


 キリトも、消して楽しい人生を送ってきたわけではないとは分かっている。だが、なぜか一瞬、キリトが無性に羨ましく思えた。普通に生まれていたら、今頃は普通の人生を歩んでいたのだろうか。ふと浮かんだ思考に、ツカサは思わず苦笑した。阿呆らしい考えだ。

 怪訝そうなキリトに首を振って何でもないと示し、

「俺でよければ、いつでも話ぐらい聞くから」

 すると、キリトはいつも通りのニヤリとした笑みを浮かべる。

「おっ、流石はSAOナンバーワンのイケメン優男だな」
「…なぁ、キリト、実は俺、今も武装解除してないんだが」
「ちょ、ま、待てツカサ、無限槍で短くして隠し持ってるだなんて卑怯だぞ!」

 懐から少し長めの短剣サイズになっているヴェンデッタを取り出しながら、ツカサがすごむ。キリトは必死に叫ぶが、店内にいるのはツカサとキリトのみ、助けてくれる人はいない。

「せいぜい過去の自分を呪え」

 今度ニヤリと笑うのは、ツカサの番だった。




 

 
 ミーシェの大通りを歩いていた数人が、かすかに少年の悲鳴を聞いたが、その正体を知る(よし)もなかった。












―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―


 ツカサが自宅の扉を開け、中に入ると電気はついていなかった。だが、西側の窓からわずかに残っている夕日の光が入ってきているため、そこまで暗くはない。

 部屋の電気をつけると、ダイニングテーブルの奥に置かれたソファの上で何かが起き上がる。ルーだ。ルーの寝そべっている隣に腰を掛けると、ツカサの膝の上に飛び乗ってくる。つやつやとした毛並みを撫でてやると、ルーは嬉しそうに尻尾を振って、舌をだらんと出した。


「ごめんな、留守番ばっかさせて」


 元はといえば、一度ツカサを殺しかけたほどの強さを誇るボスモンスターであり、テイム化しているとはいえ、それでもステータスはそんじょそこらの使い魔よりも驚くほど高い。戦闘に連れて行けば助かること間違いなしなのだが、ツカサがルーを連れて行かないのは、単純に目立つから、という理由だ。何せ、SAO内でもう知らぬ者はいないといっても過言ではないほど有名人のため、街に行くときは、必ず目深にフードをかぶる。だが、ルーを連れていたら、それがトレードマークになってしまい、どんな格好をしていようがお構いなしとなってしまう。何しろ、ビーストテイマーはただでさえ目立つのだ。ルーはかなりのイレギュラー要素を持っており、こうして家に置いていけるのは、ツカサにとってありがたいことだった。そんなわけで、ルーは自宅警備員化している。システム的に、盗みに入られることはないのだが…。


 ルーの頭を機械的に撫でていると、わずかな扉が開く音とともに、誰かが家の中に入ってくる。もちろん、ここの家のもう一人の住人であるリアだ。

「ただいま~…あれ、ツカサ君、先帰ってたんだ」
「ああ、ついさっきな」

 そうなんだ、と言いながら、リアの姿はリビングの奥に消える。着替えに行ったのだろう、ものの数秒で戻ってくる。今日は白いハイネックのセーターに、薄紫のフレアスカートだ。

「ツカサ君、コーヒー飲む?」
「ああ、頼む」

 ツカサの返事をきくと、リアは台所へと移動し、すぐに小さな盆に、湯気の立つマグカップを2つ乗せて持ってくる。ツカサはルーを膝から下ろし、ダイニングテーブルに座る。リアはその向かい側に腰を掛け、ツカサの前にマグを置いた。

「はい」
「ありがとう」

 口に含むと、驚く程香ばしい豆の香りがいっぱいに広がる。NPCレストランでは絶対に出せない味だ。リアも同じようにコーヒーをすする。と、リアの足元に、ツカサに膝から下ろされ、さみしそうな顔をしているルーがすり寄ってきた。リアは、そんなルーの頭を撫でながら、


「今日も留守番、ありがとね、ルー」

 すると、ルーは少々きりりとした顔つきになり、まるで「今日も一日問題なしでした、ご主人様!」といっているようにしか見えない。これ、狼だよな…とツカサは思わず思ってしまう。犬にしか見えない。いや、犬の祖先はオオカミだが…くだらないことを延々と考えてしまいそうで、ツカサは考えることをそこでやめた。

「今日は誰に会ってたんだ?」
「ああ、アスナだよ」

 飲みかけたコーヒーを吹き出しかけそうになり、ツカサは慌てて飲み下す。


「アスナ!?」
「うん、そうだよ。ツカサ君はキリトでしょ?」

 リアがあっていた人物がアスナだということと、キリトに会っていたことを見抜かれた驚きで、固まった。

「…リアはなんでもお見通しだな」

「だって、ツカサ君をメッセージ一本で呼び出せるフレンド登録してる人って、キリトしかいないし」

 妙に胸にぐさりと来る。別に人見知りになりたくてなっているのではないわけで…リアもリアで、そこまで人間が得意と言わけではないのだが…だが、特に何も言わない。

「それで、キリトからは何の話だったの?」
「それは…アスナからきいたんじゃないのか?」
「やっぱり同じ話だったんだね」

 ツカサは、無性にアスナがリアに何を話したのかが気になった。だが、そんなことを聞いていい物か。迷っている時だった。



「ねぇ…ツカサ君は…私を必要としなくなる日が、来るの?」

 不意打ちでヘッドショットを受けた気分だった。一瞬、唐突すぎて何も考えられず、ただ茫然としてリアの顔を見つめる。だが、やがて思考が回復してくると、一つの情景が頭をかすめた。
 

『今の俺がここにいられるのはリアのおかげで、何よりも、誰よりも俺にとって一番大切なのは、リアなんだ。自分の命とも、比べられないぐらいに…だから、いつになるかはわからないけど、リアが俺を必要としなくなるその時まで、ずっと…ずっと、隣にいようと思ってる。』


 あの時、アスナに言った言葉。まさか…

「アスナから、聞いたのか?」
「…うん…」

 両手に包まれたマグカップの中の黒い液体をうつむきがちで見ているリアの顔には、不安と緊張、苦しみ、そして…恐怖。

「さぁ…な、未来のことなんて、誰にもわからないよ」
「はぐらかさないでよ」

 リアの、その短いたった一言で悟った。リアは確かに、いろいろな感情を抱えている。だがそれ以上に…怒っている。

「前にツカサ君、私に言ったよね?ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないことがあるって。これから話し合わなきゃいけないこと、たくさんあるなって。そういったんなら、ツカサ君もちゃんと思ってること言ってよ。伝えてくれなきゃ伝わらないよ」

 リアはまっすぐツカサを見ていたようだったが、ツカサはリアの瞳を見れないでいた。アスナにあの日言ったことは、本心だった。それは隠しようもない。だが…このことを、リアに話すつもりはなかった。なぜなら…あまり、よくない話だから。

 だが、ここで言わないとリアは納得しないだろう。

 ツカサは、マグカップを割れるほど握りしめた。


「リアも俺も…あまりに、不確かな存在だ。リアはともかく、俺は…分かってるだろ?」

 ツカサは、そういって、右手で左胸をたたいて見せる。リアは顔を曇らせて、わずかに頷いた。

「だから…もし、俺がリアの重荷にあるようなことがあったら…俺は、一人になることを選ぶと思う」
「っ…!」

 リアはうつむいたまま、マグカップを握りしめているツカサの服の袖をつかんだ。その力は、どんどん強くなっていく。

「それ…本気で言ってるの?」
「っ…ああ…」
「私は…どんなツカサ君でも、重荷だなんて思わないよ…っ。なのになんで…っ!?」

 潤んだ灰茶色の瞳。それが、あまりにも痛すぎて、ツカサは眼をそらすしかなかった。


「リアも…あの時、死のうとしたじゃないか」
「だって、あれは、私はツカサ君を…殺そうとした…っ!」
「俺にとっても、それぐらい、リアに迷惑をかけることは、ウェイトが重いんだ…!リアに迷惑をかけるぐらいなら、死んだほうがましなんだ…っ!」

 血を吐くような思いだった。リアが唇をかみしめて、痛みにこらえるようにうつむく姿を見ると、ツカサの心臓は、張り裂けそうなほど、ずきずきと痛んだ。リアにこんな顔をさせるだなんて最低だ。それこそ、死んだほうがましだった。


 だが、同時に、どんなことがあっても、リアと一緒にいたいと叫ぶ心もいた。だが、ツカサは無理やりその感情を力ずくで抑え込んだ。

 そんなことを欠陥品の自分が思ってはいけない。



「ごめん…」

 一言、そういうのが精一杯だった。


 ツカサの袖をつかんでいたリアの手は、ゆっくりと力が抜けていき、やがて、完全に放した。


「…そっか…」


 リアは相変わらずうつむいたまま小さく言うと、大きな音を立てて立ち上がった。


「ちょっと、外出てくるね」

 足早に、リアの姿は玄関の奥に消えていく。しばらく家の中は、まったくの無音に包まれていた。







 やがて、ひとつついた自分のため息が妙に大きく聞こえる。宙を見つめながら、ツカサはつぶやく。


「俺にどうしろって言うんだよ…」





 
 

 
後書き
 はい、いかがでしたか?いやぁ…書いている僕もドッキドキでした‼‼リアとツカサについては、正確なことがなにも明かされていないわけですが、今話はかなり攻めた話でした。

 そして、リアとツカサのすれ違い。2人にとっては初めての経験ではないのでしょうか。これから2人はどうなっていくのかにも、注目してくださると嬉しいです!

 では、次回もお楽しみに! 
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