人類種の天敵が一年戦争に介入しました
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第17話
前書き
なんとか12月中に上げられました。
今年最後の投稿です。どうぞ。
本人の知らない内にテロ集団に組み込まれた事を知って嫌な汗が顔にまで出てきたレンチェフに構わず、ストレイドは話を続ける。女性兵士の補助付きで。
「私達はあくまでフリーの反地球連邦組織だ。縁あって、ジオンと協力することになったわけだけど、ジオンの下に付いた覚えはない。ジオンのナントカカントカ戦闘団……」
「独立重駆逐戦闘団」
「というのは、いわばダミーだな。書類上は存在する。現実に人員も装備も存在する。活動は不明。実際に暴れるのはリリアナで、ナントカカントカが補給を……」
「独立重駆逐戦闘団」
「が補給を受けると、そのまま私達の報酬になるという寸法だね」
」
聞けば聞くほど頭がくらくらしてくる話である。椅子に座っていなければひっくり返っていたかもしれない。
開戦当初、ジオン公国軍は旧来の戦時国際法の一切を無視して戦争を遂行した。地球連邦政府が成立して以来、主権国家はすなわち地球連邦政府のみであり、ジオン公国は独立国家として公的には認知されていなかったからだ。国家として認められていないなら、条約を批准していないなら守る必要などないという理論だ。
かつて不平等条約を撤廃したかった極東のある国が、「大陸国家と戦争をするとなると上海や香港を巻き込むかもしれませんね~。何しろイエローモンキーは野蛮な後進国ですからなぁ! お悔やみ申し上げますザマァ。マッハで蜂の巣にしてやんよ」と同じく島国の大帝国を脅して列強の一員と認めさせ、列強として対等なのだから不平等条約はおかしいという理屈で条約を撤廃させた手口に似ているかもしれない。
違うところは、その国は行儀よく戦って国際社会で一定の評価を得るに至ったが、ジオン公国はブラフにとどまらず実際にやらかしたところだろう。地球連邦政府以外に主権国家が存在しない以上、外聞も国際協調も外交圧力もこの世界には存在しない。そもそも地球連邦政府の成立は、対立勢力を軍事的に打倒した同盟を核としている。そのため、地球連邦政府には連邦議会と連邦議員に代表される民主主義国家という表看板の他に、旧国家群の軍事同盟、軍閥の寄合所帯という側面を持つ。軍事力によって成立した政権に対しては、軍事的打撃を与えずして交渉など望むべくもない。よって蛮族さながらのノールール戦法で打撃を与え、交渉の場に引きずり出した。
勿論、地球連邦政府の立場ならノールールの蛮族はテロリストとしてノールール返しで鎮圧も可能だ。それでも結局、地球連邦政府は折れた。スペースコロニーは宇宙に300近くもある。一つ二つでこの有り様なら、それ以上となればどうなるものか? それよりは戦時条約を結び、真っ当な戦争をする方が良い。特に軍部首脳の内ではレビル中将やゴップ大将といったタカ派がこれを強硬に主張し、連邦政府内で短くも激烈な議論の末に認められた。
激論が繰り広げられたということは、この主張に賛同しなかった者も多かったということだ。その理由は2つ。まず、地球は既に軍事的に限界が近く、経済的には破綻していた。戦争どころではない、というものだったが、レビル中将の、ジオンは連邦以上に疲弊しているという主張によって相殺された。問題となったのはもう1つの方で、基本的に、条約とは国家間で結ぶものなのだ。戦時条約を結ぶということは、ジオン公国を連邦政府の管下に置かない独立国として遇することであり、ジオン公国の独立を認めるということに他ならない。それでもタカ派は条約締結を優先した。
つまりジオン公国の存在を公的に認めたのだ。ジオン公国が独立を果たした瞬間であり、地球連邦政府が外交的に敗北を喫した瞬間だったが、地球連邦政府は強かだった。独立は認めるが、戦争は続ける。蛮族戦法を封じて紳士的な殴り合いなら遥かに分があるからだ。
今は負けた。独立も認めよう。だが最後に勝つのは地球連邦で、勝てば全てを無かったことに出来る。それが勝者の特権で、故に勝てばよかろうなのだと言わんばかりの思考は完全に悪役のソレだが、地球連邦政府は対立者を武力で脅し、捩じ伏せ、殺し、生き残りを宇宙に追放したことで成立したという経緯を思えば、連邦政府に善性を求めるのはお門違いも甚だしい。
そんな悪役を相手にしているジオン公国だが、ジオン公国とで善ではない。元々がラフプレー上等の無法者なのだ。ノールール殺法は封じられたが、それはあくまで条約を結んだジオン公国の話である。ジオン公国以外のラフプレーまでは責任を負えないのだから、ラフプレーは他人に任せれば良い。その他人は自分達で用意しても良いし、外注しても良い。そうしてジオンの手札に加わった鬼札の一つがリリアナなのだ。
問題は、この他人はジオン公国が用意した他人ではなく、本当に完全に他人であったということだろう。その為、ジオン公国に協力的だがあくまで他人なので勝手気ままに振る舞っている。そんな他人を自分の為に働かせるには、その分の手間賃が要る。自分の為に働かせた事を黙っていさせるには口止め料が要る。意思に反することをさせるなら、頭の一つも下げねばなるまい。
概略を理解したレンチェフの口がへの字を描く。
「その窓口が俺というわけか」
「違う」
「違う? じゃあ俺はなんでここに来させられたんだ?」
ストレイドは即座に否定したが、レンチェフの疑問はもっともだ。腕を組むレンチェフに対し、ストレイドはぐっと身を乗り出した。
「ミスター、私達は、リリアナはミスターに非常な期待を寄せている」
「お、おう」
「あの緑の巨人なら、私達のACでは難しかったことも、或いは実現できるかもしれない」
「エーシー?」
緑の巨人というのはザクのことだとして、エーシーとは何か。
「ACっていうのは……私達が独自に保有するモビルスーツと覚えておけば良いさ」
さらっとした説明だったが、今まで充分に驚かされたレンチェフを更に仰け反らせるには充分だった。
モビルスーツはジオンの切り札だ。国力でジオンを圧倒するとされている地球連邦ですら、未だに正式配備どころか試作機の実戦投入すらできていない。そのモビルスーツを一組織が保有していると言うのだから、そのふてぶてしさで上官を発狂させてきたレンチェフといえど、感情を隠せないほど狼狽した。
これだけで派遣を決めたマ・クベと派遣されてきたレンチェフの距離感を推し量るには充分なものだったが、良くも悪くもそんなことを気にする野良犬ではない。レンチェフの百面相に全く反応せず立ち上がった。
「さて、ミスターに期待はしているが、期待通りかどうか、まずは腕前を見せて貰おうか。こっちだ」
「おっ? おう」
相次ぐ衝撃秘話と急な話に一瞬戸惑ったレンチェフだったが、腕前を見たいと言われて生来の反骨が蘇った。思想に難ありとしてテロ組織に編入されたレンチェフだったが、それほどの問題児でありながら追放も粛清もなかったのは、ひとえにモビルスーツの操縦を含むレンチェフの戦術能力の高さ故だ。得意な内容で試験をすると言われたことで、反骨心と共に自信と笑みも戻って来る。
「あんたの期待値が幾らか知らないが、期待値以上を見せてやるよ」
先導する野良犬を追いながらつい叩いたレンチェフの軽口を聞いて、それを真に受けた野良犬はからからと笑った。通路に気の良い青年の笑い声が反響する。
「そりゃあ良い」
「ああ、幾ら期待してくれても構わねぇぜ」
やる気充分で自身の拳と掌を打ち合わせると、乾いた音が野良犬の笑いの蹟を掻き消した。自身の後ろに続く女性兵士が向ける視線と表情にレンチェフは気付いていない。
後書き
それでは皆さん、良い御年を!
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