魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第179話「後処理の合間に」
前書き
優輝の方は、安静にする優輝とそれを見守る両親だけですから特に描写なしです。
一応、徐々に落ち着いてきていますが、出番はまだありません。
=鈴side=
「………」
魅了による混乱も落ち着き、ほとんどの人が立ち直った。
心に残った傷は深いものの、幽世の大門に関する後処理に手が回せるようになった。
その事もあり、私も手持無沙汰となった。
だから、すぐさま私は他の式姫がいる場所へと向かう。
「(いずれは全員に知れ渡るでしょうけど……)」
かやのひめと薔薇姫……椿と葵の死は衝撃的だった。
式姫たるもの、いずれは幽世に還る定めではある。
普通に死んだところで幽世に還るだけ。……でも、感情はそうはいかない。
聞いた瞬間、思わず醜態を晒してしまう所だった程だ。
「(それに……他にも伝える事があるわね)」
死んだ事は衝撃的だった。でもそれだけなら普通に立ち直れる。
誰かが死ぬなんて、当時の江戸ではそこまで珍しいことでもなかった。
実際に私の周りで何人も死んだ訳ではないけど、それでも心構えは出来ていた。
そのため、今回の事も衝撃的ではあったけどすぐに立ち直れた。
「……ところで、悪路王」
『……なんだ?』
「大門が閉じられたというのに、いつまで現世にいるのかしら?」
『……ようやく、それを問うたか』
「色々あったもの。後回しにもなるわ」
アースラの廊下を歩きながら、悪路王に気になっていたことを聞く。
そう。本来なら妖である悪路王は既に幽世に戻っているはずなのだ。
それなのに、未だに私の右目に取り憑いている。
『正直な所、吾も気になる事があるのでな』
「気になる事?」
『本来であれば、門が閉じられれば吾は現世との“縁”をほとんど失う。残るのは土地に残る伝承のみだ』
「それはわかっているわ」
だからこそ、なぜまだ現世にいられるのか聞いているのだけど……。
……いえ、それこそが悪路王の“気になる事”なのかしら?
『しかしながら、大門が閉じられた後も“縁”が残り続けた。それを少しばかり気掛かりだったのでな』
「なるほど……確かに、それは気になるわね」
幽世の大門が開かれた事で、何かが変わったと見るのが妥当でしょうね。
確か、ロストロギアなるものが原因で開かれたと聞いたけど……。
〈少なくとも、ただ大門が開かれた訳じゃないのが、関わっているだろうね〉
「……そうね。正規ではない……というのも変だけど、今回開かれたのは外部の干渉による無理矢理なものだものね。何かしら異常を来たしていたもおかしくはないわ」
『そうだな。……近い内に大門の場所へ向かえ。調査をするべきだ』
「命令形なのね。……まぁ、私も気になるしいいわよ」
今はまだ後処理が終わっていないから行けないけど、その内行くべきだろう。
私自身、まだ気になる事や調べたい事はあるものね。
「……まぁ、まずは式姫の皆に伝えないとね……気が重いわ」
『ふん。自己犠牲も厭わなかった者がよく言うものだな』
「……そうね。場合によっては、私があの二人の立場だったかもしれないわね。それは否定しないわ」
私はこの身を賭してでもとこよを止めるつもりだった。
それは、命を投げ捨てると変わらない行為だった。
他の式姫や、管理局がいなければ間違いなく私は死んでいただろう。
それも、結果をあまり残す事もなく、無駄死にという結末で。
「……ま、今はそれは関係ないわ。行くわよ」
式姫の皆がいる部屋の扉を、私は開ける。
私の気配を感じていたからか、小烏丸……蓮が出迎えてくれた。
「お帰りなさい。随分と長い間席を外していたようですが……」
「まぁ、ちょっと魔導師と貴女の教え子に会ってたのよ」
「教え子と言うほど指導はしていませんが……なるほど、彼女達に会ってたのですね」
戦いが終わったのもあって、私は式姫の皆に今の暮らしなどを聞いていた。
蓮が霊術を使っていた子たちを少し指導していた事も聞いていたりする。
だから、今の会話だけで蓮は誰に会っていたのか察してくれた。
「それで、かやのひめと薔薇姫……二人の事を偶然聞いたのよ」
「優輝さんに憑依していると言うのは戦闘で合流した際に知りましたが……」
優輝……あの大門の守護者を一時的に圧倒した彼の事ね。
椿と葵の力も感じたのは、やはり憑依の影響だったのね。
「……まさか、そういう事ですか……?」
「察しがいいのも、時には悩みものよ。小烏丸」
私の浮かない表情を見てか、小烏丸……いえ、今は蓮と名乗っていたわね。
彼女は、二人の死を予想してしまったようで、信じられないような顔をしていた。
「そう、ですか。あの二人が……」
「……詳しい事は知らないわ。でも、彼が倒れたのは二人が死んだ事による精神的負荷が原因らしいわ……」
「倒れた……ですか」
何やら、蓮は彼らと交流があったようだ。
だからこそ思う事が多いようで、非常に複雑な表情をしていた。
「……式姫は、いずれ幽世に還る身。……ですが、やはり別れは……」
「それを悲しいと思うのは、おかしくない事よ。私も、あの二人が死んだ事は少なからず衝撃を受けたのだから……」
「はい……」
私にとっては、鵺から解放してくれた恩人の式姫でもある。
その二人が死んだのは……今でも、信じられない。
「いずれは知れ渡るでしょうけど、一足早く皆には伝えておこうと思ってね」
「そうですか……。……とりあえず、皆さんに伝えるためにも入ってください」
早く知るか、後で知るか。
どちらの方がより辛いかは知らない。
でも、私は二人を失った辛さを共有したかったのかもしれない。
一人で抱えるより、皆で背負った方が立ち直れると思ったのかもしれない。
……どんな理由があったのか自分にも分からない。
ただただ、皆にも伝えておこうと、そう思っただけだ。
=out side=
「つ……疲れた……」
後処理にひと段落が付いた司は、食堂で机に突っ伏していた。
あれから、立ち直った局員が戻って来た事もあり、司達も手が空いていた。
その事もあり、一度昼食を取るべきだと食堂に来たのだ。
「うーん、いつもと比べものにならない情報量だったねー」
「……俺、やっぱ事務系の作業向いてないかも……」
「揃いも揃って疲れ果ててるわね……」
アリシア、帝、奏の順で疲れた表情をしながら椅子にもたれる。
無言になっていたが、リインも机の上に疲れて倒れこんでいた。
「あはは……皆お疲れ様。持ってきたよ」
「ありがとう、ユーノ君」
そこへ、ユーノが皆の分の料理を持ってやってくる。
「さすがにユーノは無限書庫の司書をやってるだけあって作業慣れしてるな……」
「それでも多いと思う情報量だったけどね……。言っておくけど、今はひと段落ついて休憩してるだけで、まだあるからね?」
「うあー……」
聞きたくなかったとばかりに、帝はユーノの言葉を聞いて机に突っ伏す。
「こうなる事は予測してたんだから、責任もってやらないとね……」
「……頭痛い」
「やっぱり管理局は人手不足過ぎるよー……」
アリシアの言葉にユーノは苦笑いするしかない。
人手不足は事実で、今回の件でも明らかに援軍に来た数が不足していたからだ。
管理外世界の出来事だったために、色々と人材が不足していた。
「そもそもいくつもある次元世界の秩序を管理しようとするから人手不足になるんだけどね……。まぁ、だからこそ今回の事件にも対応できたんだけど」
「手を伸ばせば人手不足。伸ばさなければその世界が大変な事に……。なんというか、ままならないね」
ロストロギアは一つの世界を丸ごと滅ぼす可能性もある。
そのために、管理局は対処せざるを得ない。
しかし、対処しようとすれば、人材の少なさが浮き彫りになってくる。
管理世界の数に対して、管理局員の数が全然足りていないのだ。
「それにしても、つい見落としがちになるけど、今回のロストロギアは……」
「効果としては、その世界に眠る、もしくは過去にあった災厄を復活、再現するもの。それだけでも十分に厄介なのに、それに加えて……」
「明らかにロストロギアなのに、“新しすぎる”。その上に優輝さんが解析するのを想定していた……不明な点が多いわ」
ユーノが漏らした言葉に司と奏が続ける。
「そう。優輝の存在を想定していた事以外は、上層部にもしっかり報告するらしいよ。……ロストロギア級の存在を作り出す何者かがいるって事になるからね」
「あれ?優輝を想定していた事は……って、そっか。そんな事伝えたら……」
「うん。良くも悪くも……いや、ほぼ悪い意味で優輝に注目が集まる」
アリシアがふと疑問に思った事を口に出し、その途中で理解する。
それに続けるようにユーノが補足した。
「よく知らない人からすれば、優輝君がいるからこうなったとか、そういう事言ってきそうだもんね……。そう考えてしまうのも分かりはするんだけど……」
「それも踏まえたからこそ、優輝を想定していた事は伝えない方針だよ。……今回の事件は、大門の守護者に隠れがちだけど、不明な点が残っているからね」
「安易に分かっている事だけそのまま伝えてもダメって訳か」
幽世の大門を開いた原因である“パンドラの箱”には、まだまだ謎が残っている。
その不気味さを危惧してすぐに封印されたが、出自などは不明なままだ。
ロストロギアとして新しすぎる所から、何者かが発掘場所に置いたと予測されているものの、それに確証も根拠もないため、ほとんど何もわかっていない。
「なんだか、せっかく激闘で勝てたのに、すっきりしないなぁ……」
「今回は謎も多く残ったからな……。すっげぇもやもやしたものが残ってるぜ」
「というか、まだ終わってないからね」
むしろ重要なのはこれからとばかりに、後始末は残っている。
自分たちが良くても、周りはそうはいかない。
周囲との擦り合わせも必要なため、苦労と言う意味では戦闘よりも大きい。
「……さすがにまばらだな」
「皆忙しいからね……大体の人は携帯できる食べ物だけ持って仕事しながら食べてると思うよ。実際、僕も今後の予定は明らかに休憩時間がなかったから」
「うえ……ブラックだなぁ……」
食堂にいる人が少ないのを見て帝が呟き、それにユーノが返す。
あまりに忙しそうなため、いくら後始末で色々あるとは言え、そんなブラック事情は聴きたくなかったと帝は顔を顰める。
「式姫の人達はどうしてるのかな?」
「アースラの勝手がわからないから一つの部屋に固まってるらしいよ。クロノから聞いただけだから今どうしているかは知らないけど」
「まぁ、式姫はこっちの魔法技術の事は知らないから、大人しいんだろうな」
気分としては借りてきた猫のようなものだろうと、帝は思う。
現代に馴染むように生きてきたとはいえ、アースラのような設備は式姫にとっては未知なものばかりなため、迂闊に動けないのだ。
「せめて案内とかしてくれる人がいればいいんだけど……」
「皆忙しいからそっちに手が回せないのかもね。……手が空いている人で、アースラについて知っている人なら……」
アリシアがそこまで言って、ふと思い当たる人物が浮かぶ。
「……那美さん」
「そういえば、那美さんもどうしてるんだ?」
「久遠と一緒にいるだろうけど……」
「彼女なら怪我の治療を霊術で手伝っていたよ。治療が完了してたらさすがに分からないけど」
「詳しいなユーノ」
那美の話題になり、すかさずどこにいるのかユーノが説明する。
その詳しさに思わず帝が突っ込んだ。
「司書をやってたからか、こっちでも情報整理をさせられててね……自然とそういった情報は耳に入ってくるんだよ……」
「……あー、えっと……」
「……ご苦労様です……」
遠い目をして答えるユーノに、思わず司達は労わりの言葉を掛けるしかなかった。
「ま、まぁ、見かけたら式姫の人達の所へ行くように言えばいいんじゃないかな?」
「那美さんに関してはそれでいいかな……。後は……」
「優輝さん……」
「……そうだね。優輝君も気になるね」
奏の呟きを拾って、司は倒れた優輝を思い浮かべる。
「安静にしていればいいみたいだけど、それでも……」
「二人がいなくなった事による心の傷はそのままだよね……」
優輝が目覚めた所で、心の傷はそのままだ。
アリシアはそれを懸念して悲しそうな顔を浮かべる。
「……ううん。多分、優輝君は目覚めた時には立ち直ってると思うよ」
「そうかな?緋雪がいなくなった時は相当狼狽えてたと聞いたけど」
「ユーノ君は……いや、私と奏ちゃん以外は知らなかったかな。……今の優輝君は、感情を失ってるから、精神的負荷以外は気にしなくなってるかもしれないんだ」
無感情になってしまった優輝を思い浮かべて、司は悔しそうに拳を握りしめながらもその事を皆に伝える。
「っ、そう言えば、あの時……!」
「感情を代償にしたって……」
「ッ……!」
その言葉を聞いて、アリシア達はなのはと奏が言っていた事を思い出す。
逆に、奏はその事を思い出させられて、恐怖心が蘇る。
「か、奏!?ど、どうしたの!?」
「あっ……!奏ちゃん!」
「っ……すぅ……はぁ……だ、大丈夫、よ……!」
抑え込んでた恐怖心を、深呼吸してもう一度抑え込む。
鈴に言われた“決意を抱き続ける”という言葉を思い出し、何とか自我を保つ。
「自分ではない誰かの影響を受ける。……魅了の事もあって、奏ちゃんはそれを恐れているの。……出来れば、言及しないでほしいかな」
「あ………ご、ごめんね、奏……」
「……構わないわ……いつかは向き合わないといけないから」
“やってしまった”と思うアリシアに、気にしないように言う奏。
いつまでも恐れてばかりではいられないと、奏は何とか落ち着いた。
「……話を戻すよ。優輝君は今感情を失ってる。それがどんな影響を及ぼすのかは分からないけど、少なくとも今までとは態度が変わると思っていいよ」
「あいつが感情を失う……なんつーか、何でも合理的に考えそうだな。今までのお人よしな部分がなくなってそうだ」
「……帝に同感だね。嫌な予感しかしないよ」
「あはは……言っておいてなんだけど、私も同感……」
いつでも最善の結果を掴もうとしていた優輝。
そこから“感情”の要素を抜いた場合を想像して、全員がその結論に至る。
「合理的……つまり、それって……」
「感情が介入する余地がない。……だから、とことん冷酷になるよ」
「本当にそうなるかはわからない。でも、優輝みたいに上手く物事をこなすような人物から“感情”の要素を抜いたらそうなるかもね」
アリシアの言葉に司が続け、ユーノが補足する。
合理的……つまり、一度敵と認識すれば、容赦なく効率的に殲滅する。
今まで手心があった部分がなくなってしまうという事になる。
「……そういう優輝君は、見たくないな……」
「同感よ……」
「私も同感。……と言うか、そんな優輝が想像出来ないよー」
司、奏、アリシアがユーノの言葉を聞いてそうぼやいた。
三人とも優輝には世話になっているため、そんな優輝を想像したくなかったのだ。
「……でも、失った感情なんて、どうすれば……」
「昨日一度集まった時は、あまり気にならなかったけど……」
「……そういえば、まるで感情があるみたいだったような……」
昨日の優輝を思い出し、アリシアと司は唸る。
「それなら、もしかすると……」
「感情が戻ってるんじゃねぇのか……?」
当時の様子をあまり見ていない奏達は、その言葉で希望を持つが……。
「……ううん。それはないと思う。その時もどこか無機質な感じだったから……。奏ちゃんも今朝会った時に感じてたでしょ?」
「……そう、だったわね……」
声も表情も平坦でありながら、どこか儚かった今朝の優輝。
それを奏も思い出し、感情が戻ったという希望は泡沫と消える。
「……多分、優輝君は感情があった頃を“演じて”るんだと思う」
「感情があった頃を模倣して、感情があるように見せてるってこと?」
ユーノの確認に司は頷く。
優輝は女性の体に影響されている状態でも、普段の状態を演じていたため、今回もそうしていたのではないのかと司は考えたのだ。
「それなら誤魔化せたのも納得だけど……優輝ってそんな演技派だったんだね」
「ま、まぁね……。優輝君、声真似も得意だし……」
「あれか……」
性転換していたのを誤魔化していた事は言えないため、司は少し動揺する。
幸い、誤魔化す際に言った事が帝にも思い当たる事だったため、若干どもってしまった事で変に疑われる事はなかった。
「うー……じゃあ、どうすればいいんだろ……」
「確かにな……。単純な方法で戻せる訳がねぇし……」
打つ手がないのかと、アリシアと帝は唸る。
その様子を見て、司も考え込むが……。
「……いつも通りで、いいんじゃないかな?」
ふと、思いついたその考えを、口に出す。
「えっ……?でも、それじゃあ何も変わらないんじゃ……?」
「ううん。“いつも通り”だからこそ、いいんだよ。多分、躍起になって変に行動しても、それこそ無意味だと思うから」
変に行動しても、気を使われていると思われるだけ。
その事もあって、“普段通り”にしようと司は提案する。
「……信じよう?優輝君を」
「……そうね。私も、優輝さんを信じるわ」
奏も司に便乗するように言う。
二人とも、思考には表れていなかったものの、何か行動をすることで、“行動をしなければ変化が見られない程、優輝の心に自分が深く刻まれていない”と言った事実に直面したくないという想いがあった。
だが、同時にそれ以上に優輝の事を信じて、この提案をしたのだ。
「っ………」
「………」
「……えっと、変な事言ったかな?私……」
その二人に、アリシアとユーノは息を呑んで言葉を詰まらせる。
「いや……なんというか……」
「本当、優輝の事を信頼しているなって……」
好いているからこその信頼。
それを見て、二人はなんとも言えない気分になっていたのだ。
「ふえっ……?」
「っ――――」
そんな二人の言葉に、司と奏は顔を赤くする。
まさか、このタイミングでそんな言葉が投げかけられるとは思わなかったからだ。
「ななな、何を言ってるのかな!?私はただ優輝君を……」
「助けたくて“敢えて”な方法を選んだんだよね?いやぁ、よっぽど優輝を信頼してわかっていなきゃその発想はなかなか出ないよ」
「いや……うん、何というか、ごちそうさまでした」
慌てる司に対し、アリシアがからかい、帝が目を逸らしながらそんな事を言う。
ちなみに、リインは一部始終をずっと見ているが、なんて声を掛ければいいかわからずにオロオロしていた。
「……違うわ。そういう訳じゃないの。ただ、変に行動するよりはという意味で、だから違うわ。……違うわ……違うの……」
「否定しきりなよ奏……。というか、こんな動揺する奏初めて見たんだけど……」
「優輝が絡むと割と感情出すぞ、奏は……ていうか俺飲み物に砂糖入れたっけ?」
冷静に否定しようとする奏だが、言葉を発するごとに顔を赤くして、尻すぼみになる。
その様子を見て、帝は口の中に甘ったるいものを感じていた。
「え、えっと……とりあえず、いつも通りで大丈夫……ですか?」
「え、あ、うん!その方が優輝君も気楽でいられるだろうし……」
咄嗟に、リインがようやく口出しして場を取りなす。
司がそれに便乗して、話を元に戻した。
「感情があった時と同じ接し方なら、その時の事を思い出して何か影響があるかもしれないし、そういう理由もあって“いつも通り”がいいと思ったんだよ」
「……そっか、そういう考え方も……なるほど、一理あるね」
一度深呼吸をして調子を整え、改めて司は理由を説明した。
それを聞いて、ユーノは納得したようだ。
「要は深く考えずに普通に接しろって事だな?」
「難しく考えなければそうだね」
「変に何かするよりは気楽だな」
帝も、特別何かする必要がない事に気楽だと安心した。
「いつも通りかぁ……というか、“いつも通り”に戻る事すらまだなんだけど……」
「……後始末、だよね……」
「ちょ、忘れられてたのに……」
アリシアの言葉に、まだまだやる事が残っていることにげんなりする帝。
帝だけでなく、司や奏も苦い顔をしていた。
「頑張らないといけないね」
「ですぅ……」
作業慣れしているユーノも疲れたように呟き、リインは項垂れた。
「学校の皆はどうしてるかなぁ……」
「ぶっちゃけ、学校を途中で放り出してきたからな……」
「……せめて、連絡は取っておくべきだと思うわ」
昼食も食べ終わり、食器を片付けつつ司がふと思い出したように呟く。
司達は全員、中止になったとはいえ授業を放棄してきたようなものだ。
友人やクラスメイトの事も心配なため、何かしら連絡を取りたいと思っていた。
「その件なら、士郎さん達を経由してある程度の事情は伝えてあるみたいだよ。学校の人たちは無事だし、司達が無事なことも伝えてあるって」
「そうなんだ。……うーん、でも時間があれば連絡はした方がいいよね」
「それはそうだね。声を聞くだけでも向こうは安心すると思うよ」
とりあえず、時間が取れたら連絡を取ると言うことでその話は完結する。
「それじゃあ、リインははやてちゃんの所に戻るです」
「うん。それじゃあ、またね」
リインははやて達の所に戻るため、別行動に。
司達も司達で、クロノ達の手伝いに戻る事にした。
「さーて、もうひと頑張り、だね!」
「……そうだな……」
「帝!ダルそうにしない!皆同じなんだから!……私もボイコットしたくなるじゃん!」
「皆ゆっくりしたいのは同じだからね……今回は普通の事件と違うことが多いし」
「……今日中に終わるかしら?」
各々が反応を見せながら、やるべき事に取り掛かっていく。
……ひとまず、目の前の事から片付けていく司たちだった。
後書き
大門を閉じてまだ一日しか経っていないという事実。
ちなみに、サーラが叩き潰して未だに気絶しているとはいえ、神夜の事が忘れられている件について……。多分、後処理の作業中にクロノ辺りに聞かれて思い出す感じ。
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