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永遠の謎

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323部分:第二十一話 これが恐れその十三


第二十一話 これが恐れその十三

「初老の小柄な人物ですから」
「そうした意味では陛下の愛の対象ではない」
「そうなのですね」
「精神的なものではないでしょうか」
 王のワーグナーへの想いはそれだというのだ。
「あの騎士を生み出したワーグナー氏そのものへの」
「精神的な愛情」
「それが陛下のあの方への愛」
「はい。そして」
 そしてなのだった。ここが問題なのだった。
「あの方は肉体よりも精神を重く見られます」
「ではです」
 侍女の一人が言った。
「陛下はゾフィー様よりもワーグナー氏のことを」
「ローエングリンと彼を生み出したあの方のことを」
 別の侍女も言った。
「そうなるのでしょうか」
「この場合は」
「おそらくそうなのでしょう」
 太后はまたそうだと述べた。
「陛下はどう見ても彼女を愛してはいません」
「それは確かなのですか」
「ゾフィー様を愛されていないことは」
「御覧になられていても」 
 ゾフィーを見ていてもだ。それでもだというのだ。
「この娘自体を見ているのではないでしょう」
 写真にいるゾフィーを見ての言葉だ。
「これで。幸福な結果になるとはです」
「思えませんか」
「そうなのですか」
「ゾフィーにとっては気の毒なことです」
 ここでも姪を気遣っている。
「この婚姻は。彼女にとっては」
 こう言うのであった。太后は王の母としてことの結末を悲観していた。しかし殆んどの者はそのことには思いも寄らずだ。この婚約のことを祝うばかりだった。
 そしてだ。宮廷の者達はだ。王にそっとこう囁くのだった。
「女優が?」
「はい、リタ=ブリョンスキーといいます」
「その方が陛下に御会いしたいと」
「そう仰っています」
「そうですか」
 そう言われてだ。王はだ。
 少し考える顔になってだ。こう彼等に答えた。
「それではです」
「御会いになられますか」
「そうされますか」
「そうさせてもらいましょう」
 これが王の答えだった。
「その方と」
「わかりました。それではです」
「時と場所はこちらで手配します」
 彼等はすぐにこう話した。
「ではその様にです」
「話を進めさせてもらいます」
「御願いします。しかし女優ですか」
 王はその女優という職業から話した。
「思えば女優の方とはお話したことがありませんね」
「はい、ですからです」
「ここは是非です」
 また話す彼等だった。
「御会いになられるべきです」
「経験をされることも大事ですから」
「経験ですか」
 王は静かに述べた。
「それも大事ですね」
「その通りです。まずはそれからです」
「全てははじまります」
 彼等はゾフィーとの婚姻のことも念頭に置いて話していた。しかし王は実はそうしたことは考えていなかった。そのうえで彼等の話を聞いていた。
 そしてだ。王は応えるのだった。
「はじまり。はじまりは」
「そうです、はじまりです」
「ですから是非共」
「そうですね。はじまりならば」
 そのはじまりはどうかとだ。王は話していく。
「その後の幕に相応しいはじまりでなくてはなりませんね」
「ですからブリョンスキーさんはいいかと」
「陛下のそのはじまりにとっても」
「ローラ=モンテス」
 王はふとその女優、祖父であるルートヴィヒ一世との関係でバイエルンを騒がした彼女のことを話した。その彼女のことをである。
 
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