永遠の謎
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32部分:第二話 貴き殿堂よその十
第二話 貴き殿堂よその十
「そこにいる女性もまた、だ」
「いえ、しかしです」
「そうです。現実にいるからこそ愛せるのではないですか?」
「子供をもうけることも」
「子供を作ることだけが目的なのか」
今度はこのことを問うのだった。それについてもなのだった。
「それがか。問題なのか」
「いえ、王になられる方がです」
「そんなことを仰ってはです」
「どうかと思いますが」
周りの者達は太子の言葉にいささか驚いた。何故なら王の務めとして子をもうけることこそが最も重要なものだからだ。これは言うまでもない。
しかし太子はそれを否定するようなことを言った。そしてだった。
彼はさらに言うのであった。
「愛とは純粋なものではないのか」
「しかし。王であればです」
「愛よりもまずは国です」
「このバイエルンの為にです」
「結婚をされてです」
「愛があればこそだ」
太子はあくまでそれを話す。その現実を見てそれで否定しようとする。そうしてそのうえでさらに話をしていくのであった。
その中でだ。彼はこうも話した。
「女性だけを愛さなければならないのか」
「いえ、それはです」
「人として当然です」
「違いますか」
この言葉にだ。周りの者達はさらにいぶかしむものを感じざるを得なかった。
そしてだ。彼等は怪訝な顔でさらに話した。
「とにかくです。まずはです」
「結婚をされることです」
「相応しいお相手とです」
「どうしてもか」
太子の顔が暗いものになっていく。それは止まることがなかった。
彼はその中でだ。またこのことを口にした。
「彫刻の如き相手であればいいのだがな」
「殿下は何を考えておられるのだ」
「わかるか?」
「いや、わからない」
「どうしても」
そして誰もが不安なものを感じていた。だが太子はあくまで女性を近付けようとしない。しかし時は少しずつだが確かに進んでいた。
王は次第にその体調を崩していた。それを見てだった。国中でまず王を気遣う言葉や行動が少しずつ見られるようになっていた。
そしてだった。同時に太子も見た。彼に対してはだ。
「あの方ならな」
「ああ、問題はないな」
「あの方なら」
「まず顔がいいしな」
最初にその整った顔立ちが認められるのだった。
「背も高いしすらりとしているぞ」
「あれだけ奇麗な君主はそうはおられないぞ」
「釣り合うのはあれだな。あの方だな」
「エリザベート様しかおられないな」
「あの方だな」
こう話すのだった。
「あの方しかおられない」
「同じヴィテルスバッハ家だしな」
「ああ、あの方しかおられない」
「それだけの方だ」
「そしてだ」
さらに話すのであった。そしてなのだった。
次にだ。こんなことも話された。
「容姿はいいが他はどうだろうな」
「芸術に関する造詣は深いようだがな」
「肝心なのは政治だが」
「それはどうなのだろうな」
「まずプロイセンがいる」
その国だった。今ドイツの中心になろうとしているその国だった。
「それにエリザベート様のおられるオーストリア」
「その二つの国にフランスもいるしな」
「太子はフランスがお好きなようだが」
「どうだろうな」
「この三国の間でどうやって生きていくかだが」
「このバイエルンがな」
今のバイエルンの周りの状況は複雑だった。それは誰もがわかっていた。
そしてだ。バイエルンの者達はその中で太子を見てだ。考えるのだった。
「あの方はどうされるか」
「プロイセンかオーストリアか」
「どちらを選ばれる」
「一体どちらを」
「まだ何もわからないな」
未知数だというのだった。太子の政治力はだ。
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