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永遠の謎

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3部分:前奏曲その三


前奏曲その三

「では。将来の」
「その通りです。王になられる方です」
 そうだというのだった。そしてだ。
 ミュンヘンに百一発の礼砲が鳴りそのうえで王孫の誕生が祝福された。王は孫の誕生に心から喜びを見せた。そうしてだった。
 孫の為に詩を書きそして名前を授けた。その名はだ。
「余の名前にしたい」
「ルートヴィヒ」
「それですね」
「そうだ、それだ」
 こう臣下の者達に告げる。
「やがてルートヴィヒ二世になるのだ」
「ルートヴィヒ二世」
「それがあの方の御名前ですか」
「どうだ」
 その王、ルートヴィヒ一世は周りに尋ねた。
「この名前で」
「はい、よいかと」
「その御名前で」
「いい御名前と存じます」
 周りはこう王に対して答える。そしてこうも言うのだった。
「何故か。その御名前でなければならないと思います」
「その他には思いつきません」
「あの方にはその御名前しか」
「余もだ。そう思うからこそだ」
 そうしたふうに考えるのは王自身もだというのだった。
「それでルートヴィヒにするのだ」
「その御名前でこそあの方です」
「それしかありません」
「では」
「あらためて言う」
 王はまた周りに告げた。
「我が孫の名前はルートヴィヒとする」
「わかりました」
「それでは」
 これで名前も決まった。彼の名前はルートヴィヒとなった。
 この名前もバイエルン、そして欧州中に広まった。バイエルンの臣民達はこの王孫の名前にだ。不思議なまでに合ったものを感じたのだった。
「相応しい御名前だよな」
「ああ、他の名前もよりもな」
「遥かに相応しいよな」
「というか他の名前はな」
「合わないな」
 こうまで言われるのだった。
「ルートヴィヒ様か」
「陛下の跡を継がれる御名前か」
「いい御名前だよ」
「全くだ」
 誰もがこう話す。そしてだった。彼が生まれその名前が決まったことを今小柄で頭の大きい、とりわけ額が目立つ男が聞いた。その目がやけに鋭く強い光を放っている。
 この男の名前はリヒャルト=ワーグナー。ライプチヒに生まれ今は指揮者、そして作曲家をしている。彼は己のオペラの脚本まで書く男だった。
 その彼がルートヴィヒという名前を聞いてだ。こう周りに話すのだった。
「ありきたりな名前だがだ」
「それでもかい」
「違うというんだね、君は」
「不思議とそんな感じがする」
 こう言うのであった。
「何かが違うな。そう」
「そう?」
「そうというと?」
「何があるんだい、そこに」
「運命を感じる」
 これがワーグナーの言葉だった。哲学者の表情になっての言葉だった。
「何かしらの」
「運命をかい」
「それをなのか」
「バイエルンに対してだけではない」
 彼が背負うであろうその国だけではないというのだ。
「それ以上の。何かを感じる」
「音楽のかい?それとも芸術かい?」
「君が追い求めているそれだというのかい?」
「そうだな」
 友人達の言葉に一旦頷いてからだ。ワーグナーはまた述べた。
「それもあるがそれ以上に」
「それ以上にかい」
「あの王孫様にはあるというのかい」
「私、そして私の芸術」
 このことを話に入れる。このこともまた感じざるを得ないワーグナーだった。
 
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